その日の楽屋には僕の他にマジシャンと催眠術師がいた。
記事:岸★正龍さま(ライティング・ゼミ)
その日の楽屋には僕の他にマジシャンと催眠術師がいた。
僕がメンタリストとして上がるステージに、彼らもまた出演するのだ。
この組合せはありそうでないので、リハが終わって本番を待つ楽屋はお互いの引き出しを開きつつ前のめりに意見交換する場となった。
「お二人に伺いたいのですが、ショーをやる上で一番重要だと思ってることってなんですか?」
3人の中では一番年下のマジシャンNが聞いてきた。答えは偶然にも、というか、やっぱり、というか、三人とも同じだった。
さて、それはなんでしょう?
……Thinking Time
答え
観察力
あなたはひょっとすると、「心を操る力」とか「目を欺く力」とか「話術」とか「手技」とか僕らのならではの技術を考えたかもしれない。確かにそれらも必要ではある。けれど重要ではない。ステージでショーをやる上では観察力こそが最も重要なスキルなのだ。
たとえばマジシャン。
彼らってショーのときステージに手伝ってくれる人を上げるでしょ? ここでいかに協力的な人を選ぶかでショーが成功するかどうかが決まるのだ。ストリートパフォーマンスのときだってマジックバーでだって「どんなことをやるか」より「誰に手伝ってもらうか」で盛り上がり方が違ってくる。
さらにいうなら、ステージに上がった人がどんな状態にあるのかを見抜かなきゃいけない。緊張しているのか、こちらを試してやろうとしているのか、はたまた自分が目立とうとしているのか……それには観察力が必要だ。
催眠術師の場合は、もっとシビア。
3つ数えるとあなたは鳥になる、3,2,1,パチン、で本当に鳥になるかどうかって催眠術師の腕前より、催眠術をかけられる人の被験性によるところが大きい。というか、それしかない。つまり、ガッツリ催眠にかかる被験性の高い人をステージに呼べるかどうかに催眠ショーの成否のすべてがかかっているというわけだ。それにはもちろん、観察力が必要。
そしてメンタリスト。
控え目に言って観察力がすべて。人の心の中を読むにあたって、観察をしてその人の考え方や性格や気質や特徴を掴まないとなにも始まらないし終わらない(その裏でトリックを使っていることはここだけの秘密だ)。
僕はメンタリストをはじめたばかりの頃、観察を怠ったがために大恥かいた苦い記憶がある。だから観察力の大切さを身をもって知っているし、だから観察力こそを神として観察力を磨くことに時間とお金を捧げてきている。
やっぱそうだよね! 意見が一致したことで、僕ら三人は盛り上がった。
気を良くしたマジシャンのNが「観察力って言えば、このまえ面白いことがあって……」と聞かせてくれた話が秀逸だったので、ぜひあなたにもお知らせしたいと彼にお願いし、ここに執筆する許可をもらった。
それは、こんな話。
観察力って言えば、このまえ面白いことがあって、僕の事務所って繁華街のビルに入ってるんですが、先週の金曜日の夕方、17時くらいかな、事務所の一階で人を待っていたんですね。
待ってた場所のちょうど目の前が地下鉄につながる出入口になってて、そこに女子が3人固まってたんですよ。パッと見20代前半で、服装はまぁ今時っていうか、普通な感じで、1人は黒髪で生徒会長タイプ、1人は茶髪でちょっとキャバ嬢っぽくて、最後の1人は小柄でコミュ障みたいな感じでした。
コミュ障ちゃんを中にしてあとの二人が覆いかぶさるようになってたから、最初はコミュ障ちゃんがいじめにあっているかと思ったんですよ。それなら僕が正義の味方しちゃおうかなって。そこから恋の花が咲いちゃわないかなって。あ、そうです。僕的にはコミュ障ちゃんがタイプだったんです。
それで目の端に入れつつチャンス狙って観察してたら、スマホをいじりながらキョロキョロしてるじゃないですか。なんだよ、どっかを探してるだけかよってちょっとガッカリしながら、まぁ人待ってたわけです。
けど来ないわけです、待ち人が。そしたらもう女子3人を観察するしかないですよね。だから警察呼ばれない程度にチラチラ見てたんですよ。女子らは女子らで、同じ場所で同じようにスマホとキョロキョロの行ったり来たりで、目的地がそんなに見つけられないなら、僕そこら辺長いから教えれるし、声かけちゃうかなってドギマギしてたんです。
え? いやそれはドギマギしますよ。
だって変に声かけて「わーきもい。こっちが聞いてもいないのに話しかけてきたよ」なんて思われたら泣きそうになりますよね、いやマジで。
だから「ここに道を教えたいと思ってるメチャクチャいい人がいるよー、聞いてくれたらすげー笑顔で答えるぜー」って、念送ったんです。念っていうと怪しいですけど、専門的になんていうんでしたっけ? あれですよ、ほら、地下鉄で他人寝かせちゃうやつ。 そう、同調! それ狙ってみたんですよ。
そしたら同調、ヤバいですね。キャバちゃんがハッと僕の方見て、バシッと目があって、そしたらザザって近寄ってきて、「XXの場所って分かりますか、近いと思うんですが」って。
キターーーーー! でしたよ、いやマジで。けどそこではしゃいで、きもって言われたらおしまいなんで、気持ちを抑えて努めて紳士的に「あそこに見えるビルですよ」って満面の笑みで答えたんですね。そしたらキャバちゃん「ありがとうございましたー助かりましたー」って笑顔返してくれて。
よし! じゃないですか、これ。こっから3人で「あの人メチャクチャ良い人じゃない」とか「ひょっとしてマジシャンNじゃね?」とか「番号聞こうか?」とかの会話が繰り広げられる展開ですよ。
なのにですよ、キャバちゃんったら一人でXXの方に向かって行って、代わりに生徒会長が近づいてきて「あのー、私は△△に行きたいんですけど」って。
友達じゃないんかーーーい! って。
いやマジで、友達じゃないんかーーーい! って心の中で突っ込みながら、けどそこは紳士通そうって丁寧に道教えたんです。生徒会長もすごく喜んでくれて「ありがとうー」って言いつつ去っていって。
さぁ残ったのは僕のタイプのコミュ障ちゃん。
ここまでのやり取りを見てくれてたから「この人はなんて良い人なんだろー」って思ってもらってるだろうし、だから声かけたら「もしよかったら一緒に食事でもいかがですか?」と誘われる的な展開が待ち受けていてもおかしくないって、僕から声かけました。「地図みましょうか?」と。
そしたらコミュ障ちゃん、僕をガン睨みしつつポツリとひと言。
「私が、教えてたのに」
そ、そういうご関係だったのですか! ですよ。わかりませんって、これ。と思ったんですよ、僕。けど恨みがましそうに去ってくコミュ障ちゃん見て、いや、わからないじゃダメだなと。こういう関係もあるんだって都度、観察力をアップデートしないとマズイなって思ったんです。古い情報を元にしてると、マジ外すこと増えるかもって思った事件なので、話させてもらいました。
素晴らしい話だ。
うん、アップデートは大切なのだ。
それを僕は天狼院のライティングゼミで学び実感している。二週間に一度、三浦さんがゼミ生がアップしてくる20〜40記事を読み、そこで感じたことや問題を次のゼミでフィールドバック。それが僕のライティングにとってはこの上ないアップデートとなっている。
アップデートなのだ。観察力でもライティングでも、いや、ビジネスでも、もっといえば恋愛やら親子やらの人間関係でも、アップデートが必要なのだ。
と、改めて思わせてくれたマジシャンNとライティングゼミに感謝、いやマジで。
***
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