あきらめそうになったとき、いつも短髪の人がそこにいる。
記事:若山裕美子さま(ライティング・ゼミ)
実は昨夜、パソコンの前で泣いていた。
何も書けなかったのだ。
ほんとうに何にも、思い浮かばなかったのだ。
昨夜は9時半過ぎまで、天狼院でライティングゼミを受けていた。
即興で書くと文章の精度が上がるということで、15分間で受講者のみなさんでそれぞれ記事を書いた。
その後の発表タイムなのだが、みなさんの完成度が高すぎて感動しつつも、絶望した。
自分にはそんな文章書けない、と思ったからだ。
目の前にあるルーズリーフに綴られた文章は、誰かに読んでもらえるようなものではない粗末なものだった。
帰りの電車の中、1時間ずっと、天狼院書店の記事を読みあさった。
店主の三浦さんの記事、天狼院の店員さんの記事、受講者さんの記事。
読むペースが遅いから、読んだのは1時間で10本くらい。
最寄駅まであと3駅、2駅……とタイムリミットがせまるなかで、なんとかいいものは盗んで、自分のものにしなくては、と思っていた。
でも、読み度に得られるのは学びではなかったのだ。
「あんなすごい記事は書けない」というマイナスな自信だけだった。
そんなんじゃ書けるわけないですよね。
そうなんです、書けませんでした。
家に帰ったのが夜の11時半、それからパソコンに向かって朝の4時まで粘ったが、ボツネタがたまるばかり。
だんだん何を書いているかわからなくなってしまって、気づいたら涙が出ていた。
涙に気づいたそのあとは、ダムが決壊したかのようにあふれてきた。
いい大人のくせに、こんなことで泣くなんて……。
私にライティングは無理なんかなぁ。
あきらめた方がいいのかなぁ。
そんな風に思いながら、私はキーボードに倒れ込んだ。
夢なのかわからないが、声が聞こえた。
「あきらめるな」って。
高校時代の部活の先輩だった。
頭は坊主で強面なんだけど、優しくてユーモアがある先輩だった。
先輩と私は和太鼓部に入っていた。
和太鼓部というと珍しがられる。
『全国高等学校総合文化祭』という全国の高校からあらゆる文化部が集まる大会に、和太鼓が出場できる部門があるくらいメジャーな部活動なのだ。
1年生の頃、入部当初から落ちこぼれな私は全然演奏メンバーになれなかった。
全国大会の切符をかけた、県大会のメンバーの選抜オーディションも落選した。
県大会メンバーになれるチャンスがあるかもしれない、と落ちた後も太鼓を打ち続けていた。
バチをふるたび、掌には勲章ができる。
勲章に比例して、技術が向上するものだと思っていた。
しかし、現状は変わらなかった。
やっぱりメンバーはみんな上手くて、私の技術とは雲泥の差、いや月とすっぽんだと思った。
他の部員からは「がんばってもムダ」と陰口をたたかれた。
いつしか自暴自棄になって、人一倍がんばっていた自主練をやめてしまった。
そのときに言われた言葉だった。
「あきらめなかったやつが、最後に勝つんだ」
だから「あきらめるな、挑め」って。
そこで目が覚めて、起きあがった。
ボーっとした頭で、今は何時かと時計を見る。
時刻は朝の8時半。
まぶしい光が部屋に差し込んでいる。
懐かしい言葉だった。
あのとき、あの言葉があったから、私は県大会メンバーに勝ち上がれたし、全国大会にも出場できた。
背中を押してもらえたから、今があるのだ。
思い返せば、ライティングゼミの場合もそうだ。
何度も挑戦しても記事が上がらず、投稿しなくなったことがあった。
そんなとき、店主兼講師の三浦さんが投稿していた言葉が響いた。
「周りのレベルを気にせず、遠慮なく挑んでください」って。
そう、私はまた背中を押された。
あの言葉があったから、私はまた立ち上がることができた。
絶対におもしろい記事を書くって。
闘志を燃やすことができるのだ。
だから、私は最後までぜったいにあきらめることはしない。挑んで行くぞ。
メディアグランプリという、全国大会に出場する。
そして、グランプリをとるんだ……!
あれ、そういえば。
髪の毛がな、いや、短髪の人に励まされてるな?
ま、いいか。
ご縁があるということで!
***
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