メディアグランプリ

料理をしている私を絶対に覗いてはいけません


料理

 

記事:菊野由美子さま(ライティング・ゼミ)

「あんたのキッチンは、キャンプしとるごたったね~(キャンプしているみたいだね)」。
たまに田舎から福岡に遊びに来る母が、毎回言っている。

私の部屋は1Kなので、とにかくキッチンが狭い! いやいや世間では、1Kでもとっても広いキッチンにお住いの方々もいらっしゃるはず。しかし、私の部屋のキッチンでは、二人立つと行き交う際、お互いのお尻をスリスリさせて移動せねばならない。唯一メリットを上げるとすれば、すべての調味料、材料、キッチン用品がほぼワンステップで届くことだろうか。
そして最大の不便は、下ごしらえしたものや、炒めたものをいったん置いたり、出来上がった料理たちを盛り付けるお皿達をスタンバイさせておく場所がないのだ!!
それでも、「不便は発明の母」とはよく言ったもので(発明ほどではないが)、そんな状況でもなんとか工夫して、4品ほどは短時間で作ることができるようになった。

まず、高さが胸のあたりぐらいの小さな冷蔵庫の上は、いつも盛り付けるお皿の定位置になっている。
そして、少し料理に気合が入って、揚げ物などをするときには、目につくすべての場所がキッチン台となるのだ。なぜなら、揚げ物をする際、食材に小麦粉をつけて、それを卵にくぐらせ、最後にパン粉をまぶせ、きれいにコーティングされた具材をスタンバイさせる場所が必要。そして、きつね色になって揚がってきた料理を引き取らなければならない。これだけで、5つの場所が必要なのだ。そんな時は、シンクの隣にある洗濯機のフタを閉めて、その上に小麦粉、卵、パン粉のスペースを作り、さらに洗濯機の横にある靴箱の上に、コーティングされた具材のスタンバイ場所となり、きつね色のおかずたちは、コンロとシンクの猫の額ほどのスペースにお皿を置いて引き取ります。そのお皿の4分の3くらいは、シンク側にはみ出しているので、こんがりあがったおかずたちをバランスよく置いていかなくては、せっかく出来上がったおかず達が、シンクへ転げ落ちていくという、もう料理続行不可能なくらいの精神的ダメージを受けるのだ。

そんなわけで、母がいつも「キャンプみたい」と冷やかすのである。

一人の時には、さすがに4品も作らず、もちろん簡単に済ませる。
パスタの場合は、茹でた麺をボウルに入れて、シーチキン、マヨネーズ、レタスにブラックペッパーと塩で味を調えて出来上がり。マヨネーズのおかげで、あっさりだがコクがでる。または、やはり茹でた麺をボウルに入れて、納豆、大葉、大根おろしに麺つゆをかけて、まぜまぜして出来上がり。麺つゆは、あなどることなかれ、万能調味料なのだ! ミートソースやペペロンチーノ、クリームパスタも食べたいのだが、気合が入った時にしか作らない。なぜなら、これらのパスタは、麺を茹でるのと同時に具材を痛めたりして用意しなければならない。同時には絶対無理なんですよ! 私のキッチンでは。

実は、私のキッチンをキャンプ化させている理由に、「狭い」という以外に、もっと重要な事実があるのだ。

それは……、

私のキッチンは一口コンロだから。

皆さんのお宅のコンロは、いくつありますか?
広いキッチンだと、3つから4つ。ワンルームや1Kだと1つから2つではないでしょうか?
このコンロの数、2つ、3つ、4つにはほとんど使い勝手に差は生まれません。しかし、1つと2つの間には、そこら辺にある丘とエベレストの山々ほどの差が生まれるのです。

例えば先ほどのパスタ。コンロが2つあれば、一つでパスタを茹でて、隣で具を調理できる。具の内容によっては、パスタのゆで時間に時間差を与え、最高のタイミングで、パスタと具をドッキングさせることができる。しかし、これが一口コンロだと、そうスマートにはいかないのだ。パスタを通常必要時間より早めに鍋を火から離し、洗濯機の上に鍋敷きを置いて、その上で余熱で茹でる。そして、麺の硬さを何度も確認しながら、一口コンロで具材の調理に取り掛かる。ここはもう、時間とタイミングが勝負なので、この時の私は殺気立っていて、きっと誰も話しかけられない。

だったら、カレーは一つの鍋で調理出来るからいいのではないか?
はい、一人の時と、そんなに気合を入れなくていいお客様のときは、一つの鍋で作ってしまいます。でも、私には、スペシャルなカレーがあり、スパイスと玉ネギの炒め時間にこだわったルーと、具材を別々に調理して、最後にフライパンでドッキングさせる気合が入ったカレーが別にあるのだ。

なので、もし、私の部屋に招かれたとき、洗濯機や靴箱まで調理台として使われているか。もし、パスタだったら、シンクに混ぜ混ぜしたボウルが置いてある程度か、又は、きちんと鍋とフライパンが使われているか。カレーだったら、鍋一個がコンロに座っているだけか、フライパンがコンロに残されていて、ルーが入った鍋が靴箱に置いてあるかで、料理にテンションが上がっているかどうかが一目瞭然なのである。

だから、私の家に招かれたときは、そ~っとキッチンを覗くと、あなたへのおもてなし具合が分かってしまうのだ。あ! このことを公にしてしまったからには、今日からキッチンに張り紙をしなくては!

「料理中のため、覗くべからず!」

 

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この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。
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2016-03-15 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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