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花見とかけて女子高生との不思議な二日間と解く僕の話。


 

記事:岸★正龍(ライティング・ゼミ)

*この文章は、「天狼院ライティング・ゼミ」の受講生が投稿したものです。
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花見と聞くと想い出す話がある。

真夏に出会ったミチルという女子高生との不思議な二日間の話である。

といっても昨今の話ではない。昔々の大昔、僕が人生で一番下心を燃やしていた20代前半のことだ。

 

その僕の下心だが、あるゆる意味でのプロフェッショナルを相手にする方向に向かっていたのでない。一般の女子と新しく出会い、できれば深い関係になりたいと望む下心であった。

いまなら、そういう下心に最適なサービスが多岐にわたっている。たとえば相席をウリにする居酒屋や各種オフ会、街コンだっていくぶん下火にはなったとはいえ選択肢には上がるだろうし、なんといってもスマホを使った出会い系が社会問題になるほどコンビニエントに新しい出会いをマッチングしている。

しかし、僕が下心を燃やしていたのは、携帯はおろかポケベルもない時代だ。出会いを育んでくれる便利なシステムは皆無。ときに合コンが飛び込んでくることはあったけれど、「出会いを望むならナンパ」しかなかった。

けどナンパってハードル高いんだよね。声かけてガン無視されるのは人間性を真っ向から否定されるようでつらいし、50連敗した晩など冗談じゃなく死にたくなるし……などと、なんだかんだ自分へのいい訳をしつつナンパに向かえない僕の下心は不完全燃焼だったわけである。

 

そこに彗星の如く現れたのが!

テレクラ、正式名称テレフォンクラブ!!!

 

チェルノブイリで原発事故が起こり、バック・トゥ・ザ・フューチャーが世界中で大ヒットした年、テレクラはいきなり街に出現し、亜熱帯の細菌の如くアッという間に増殖した。

僕はそのとき徒弟制の小さな企画事務所でコピーライターとして働いていたのだが、僕の隣の席の同僚が昨今話題のゲスな人たちも真っ青の下心野郎で、テレクラが出現すると同時に虎の目をして毎晩のように攻め込んでおり、輝かしい成果を残してはそれを朝礼の如く僕に語って聞かせたのだ。そうなると人間、試してみたくなると言うものではないか! 当然、の結果として、僕もテレクラに通うことになった。

 

と書いてきたがおそらくこれを読んでいるあなたは、は? テレクラ? なんですかそれ? 名前は聞いたことあるけど、どんなところでなにをするのか一切わかりません……なんて感じだろうから、ここでテレクラのシステムをご紹介しよう。

 

大前提として、テレクラは店舗である。だからまずお店に行かなければならない。そしてお店に入る。すると受付があって多くの場合はお兄さんが出迎えてくれ、そこで料金体系についての説明を受ける。

料金体系は店舗によっていろいろ違っていたみたいなので、僕が愛用していた渋谷の某店の例になるが、初回には入会金がかかって、あとは1時間毎に課金されるシステムだった。午前中から夕方にかけては3時間とか5時間とかがパックになっているコースもあり、かなり割安になっていた。

受付でお金を払うと、お兄さんから個室の番号が告げられ、暗く狭い廊下を通って割り当てられた個室に向かう。個室の大きさはネットカフェの個室ブースの少し大きいのを考えてもらえればいいだろう。

個室には、基本的に固定電話とティッシュペーパーが置いてある。ティッシュペーパーがあるのは電話を受け取った相手によってはテレフォンセ(以下自粛)。

 

個室に入ったら戦いの開始だ。

テレクラの各個室に置かれた電話はビジネスフォン。かかってきたコールにはすべての電話で応答ができる。となると必然、早取り勝負。電話がなった瞬間に同じよう待機している他の個室の男どもとそのコールを取り合わないといけないのだ。当然一番早く取った人間にしかそのコールはつながらない。どの角度からしても真剣勝負だ。

いやね、緊張するんだよ、これ。というか、マジに闘いなんだな、これ。

コールをもぎ取った瞬間の「してやったり感」も、取り損なったときの「人生に負けた感」も半端ないから、できればあなたにも人生経験の一つとして体験して欲しいくらい。

 

実際、テレクラデビューの日はまったく取れなかった。電話を睨みつつ集中力マックスで待っていて、コールが鳴った瞬間に瞬速で受話器を取っているのに、耳に当てると聞こえてくるのは発信音……誰か他の野郎にかっさらわれてばかりいたのだ。

あまりにも取れなかったから、その頃にはテレクラの手練となっていた同僚に泣きついたところ、お前はバカか、電話がなってから受話器に向かってちゃ遅いんだよ、と蔑みの目で見られた。右手は常に受話器を持っておき、左手でフックを押さえて待機。コールが鳴った瞬間に左手をフックから外すのが基本技だと言うのだ。この極限まで研ぎ澄まされたスキル同士で、コンマ何秒という戦いが行われていたわけである。

余談になるが、親機に当たるとコール取り放題という都市伝説があり、はたして親機が何号室に入っているかを知るために受付のお兄さんと何とか仲良くなれないかとテレクラの達人たちはあれこれ画策を繰り広げたものである。

 

 

さて、前置きが長くなってしまったが、いよいよミチルの話だ。

僕がミチルからのコールを取ったのは、本一冊は充分に書けるくらいの顛末をテレクラで積み、そろそろ卒業だなって思っていた夏の金曜日の夜だった。

 

大体においてテレクラでの会話って、

僕「もしもし、はじめまして」

女「はじめまして」

僕「ラッキー! メッチャ可愛い声の人に当った!」

女「うふふ。ありがとう」

僕「笑い方も可愛いね」

女「上手いこと言うね。よくそこ、来てるの?」

僕「いやいやそんなことないよ。会社の先輩に面白いから一緒にどうって初めて誘われて、だから今日がテレクラ童貞卒業日。っていうか、そっちは? よくここに電話してるの? 」

なんて感じで始まるのが一般のパターン。

その後、徐々に下心を滲ませていき、反応が良ければ会う方向に持っていくし、芳しくなければとっとと切って次のコールを待つ、というのが、時間単位で課金されるテレクラでは費用対効果を最大限にするやり方だ。

 

ところがそのときはまったく違って、こんな具合だったんだ。

「もしもし、はじめまして」

「はじめまして、あなたは文系? それとも理系?」

って、いきなりだぜ。しかもかなりせっぱ詰まった感じで。集中してコールをとった僕の緊張が一気に解けた。どころか、あまりにも一気過ぎてツボにはまり大笑いしてしまう。

 

「なんですか? 私、変なこと言いました?」

電話の向こうの超冷静な声が、その僕の大笑いを鎮圧する。

 

「いや、ごめんごめん。そっちが突然変なこと言うから」

「ミチル」

「は?」

「私、そっちじゃなくてミチル」

「ミチルちゃん、っていうんだ。綺麗な名前だね。はじめまして、ミチルちゃん、僕は岸です。どうぞよろしく」

「どうぞよろしくお願いします。岸さんは、どういう人ですか?」

「あのさ、学校で習わなかった? 人に質問するときには、まず自分のことを話してからにしなさいって」

「私は女子校に通う高校3年生です」

「女子高生!」

「女子高生、ダメですか?」

「いや、全然ダメじゃないけど、春にさ、テレクラで出会った男とデートしてた女子高生が補導されて新聞に載ったじゃん。ミチルちゃんの学校は、禁止されてないの?」

「とくにされてません。それに制服で渋谷歩いててもらったティッシュに書いてあった電話番号に電話してるんです、いま。女子高生が電話してダメなんだったら、制服着てる私にティッシュ渡すなよって言う話じゃないですか?」

おっしゃるとおりである。やっぱこの子面白い。

 

「ところで最初の質問ですが、岸さんは文系ですか? 理系ですか?」

「文系だよ」

「文系かぁ」

「いやいやいやいや、そんなあからさまに落ち込まないでよ。なんで文系だとダメなの?」

「だって文系の人って数学わからないでしょう?」

「確かに。理系の数学はわかんない。けど僕、数学で大学受験してんだよね。だから数ⅡBまでだったらわかるよ」

「ほんと! だったら微分積分もわかる?」

「めっちゃ得意!」

「ほんとですか!もう私、微分積分がわからなくて泣きそうなんです。教えてくれません?」

「教えるのはいいけどミチルちゃん、この世の中さ、なんにでも対価ってもんが必要なんだよ。この意味わかる?」

「微分積分を教えたら体を捧げろって言うことですか?」

「いやいやいやいや、体を捧げるって、ミチルちゃん何時代の人」

「いいですよ」

「え? いいの?」

「いいですよ」

「オーケー、取引成立だ。教えるよ。いつ会う?」

「できれば早ければ早いほど嬉しいです。例えば明日の学校終わった後とか。5時ぐらいどうですか?」

「5時はまだ働いてるから無理。6時でどう?」

 

翌日、僕たちは6時に109のエントランスで待ち合わせをした。

テレクラで会う約束をしても実際に待ち合わせに現れるのは僕の場合50%くらいの確率だったからミチルが本当に来るかどうか心配だったが、約束の10分前に僕が109に着いたときには、目印にしていた「ぴあ」を胸に抱いてミチルはすでにそこにいた。

そしてこれが! ミチルは驚くほど可憐な美少女だった。あまりも可憐すぎて、下心などを持っている僕が汚く見えてしまうくらい。

 

軽く挨拶を交わしたあと近くのファミレスに移動し、僕はそれから2時間にわたり彼女に微分積分を教えた。なんというか、とても変な感じだった。僕の感覚的にミチルは微分も積分も完全に理解していた。けれど口では、わからない、という。わかっているものをさらに理解させることなど僕にはできない。なぜミチルがそんな三文芝居をするのか理由は謎だったけど、可憐な美少女と一緒の時間なんてそうそうあるものじゃない。僕はその幸運な時間を噛みしめるように過ごしていた。

 

「あ〜もう! やっぱりよくわからない! けど、門限まであと2時間なんで、もういいです。そろそろ行きましょう」

8時ちょうど。ミチルは、時間がきた、って感じでドリルやシャープをバタバタと片づけつつ言い、片づけ終えてニコリと微笑み小首をかしげる。僕の下心がうずく。けれど同時に僕の中の小動物が大騒ぎした。やばい逃げろこの話は危険だ。

 

「ごめんね。いくら僕がバカでもこの先に進んじゃいけないってわかるよ。僕が行かないとミチルちゃんが困るのかもしれないけど、ここで許して。ごめんね」

微笑み続ける可憐な美少女の目を、真っ正面から見て、心から言った。

 

「ふ〜ん、岸さんってさ、いい人なんだね」

ミチルは最後に、そう言い残し、ふわりと席を立ってファミレスを出て行く。

目の前からミチルが消えると、はたしてこの二日間が現実だったのかどうか実感が持てなくなる。すべておまえの妄想だろ、と言われたらそう信じてしまえる不思議な二日間。それくらいミチルは可憐だったし、美少女だったんだ。

 

 

翌日。

 

「本当だったんだ。その話!」

ミチルとのことを隣の席の同僚に話したら、こう返事が返ってきた。

 

「いや、あの店に超美人の女子高生からコールがあるって噂を聞いててさ。それも美人なだけじゃなくてアッチの方も最高だって。けど一方で、その女についてくと行方不明になるって話もあって、あまりにも胡散臭いから、それ、店の仕込みだろうって話してたんだよね。おまえがチャレンジしてくれれば噂の真相がわかったのに残念だなぁ。

っていうのは冗談にしても、もうあの店はやめたほうがいいぞ。俺の周りの連中みんな言ってんだけど、あの店ここんとこ質が落ちて、かかってくる電話はほとんど花見だってさ」

「花見? なんだよ、それ?」

「サクラばっか」

 

だから僕は毎年サクラを見ると、あの夏の日のミチルのことを想い出すんだ。

 

***

*この文章は、「天狼院ライティング・ゼミ」の受講生が投稿したものです。

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*この作品は、天狼院メディア・グランプリ参加作品です。
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2016-03-29 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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