暗闇を照らす松明 「歴史」という小さな灯火
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記事:nonchan(ライティング・ゼミ平日コース)
「のんちゃん理系に進むの?」
意外そうな顔をしたクラスメイトの言葉を今でもよく覚えている。
高校1年生の進路選択。
私は理系を選んだ。
決め手は母親の問いかけだった。
「歴史を学んで一体何になるの?」
「理系に進んだ方が就職に有利だし、理系に進めば後から文系に変えられる。文系から理系に変わるのは難しいから理系に進んだら?」
母親の言葉に説得力があった。
文系に進んだ後、歯科衛生士になるために理系の勉強をゼロから始めた母親。
母親からの問いかけに対して私は反論できなかった。
理系は就職に有利なのか。
後で変えられるのなら、理系に進んだ方がいいのかな。
私はアドバイスに従った。
しかし同時に、心の中にあった小さな灯火が消えた瞬間だった。
もっと歴史を学びたい。
燃え盛るような炎であったら、消えなかったかもしれない。
母親に反論したり、理系に進んだ後で文系に進路を変えたりしたかもしれない。
しかしその時は自分の言葉で他人に説明できないほど、まだまだ小さな灯火だった。
高校1年生が終わり、あっという間に高校2年生の時間も過ぎさった。
気がつけば大学受験。
受験戦争の荒波は強大だった。
あっという間に飲まれてしまった。
大学に受かることだけを考え、「学びたいことを学びたい時に学ぶ」という知への好奇心はなくなっていた。
もう「文転する」という選択肢は頭の中から消え去っていた。
それは同時に「歴史を学びたい」という灯火が再び灯らなかったことを意味した。
理系に進んだあとは何を勉強したのかあまり覚えていない。
フーリエ級数展開?
マクスウェルの方程式?
特異値分解?
何それ美味しいの?
知への好奇心は完全に失せていた。
学びたくないことを学びたくない時に学ぶ時間。
なぜ勉強するのかわからない。
暗闇の中をさまよい歩き、ふて腐れてグチをこぼす毎日。
今思い返せば、大学時代は膨大な学費をドブに捨てていたようなものだった。
反省。
ただし理系の大学に進んだおかげで1つだけよかったこともある。
運よく職につけた。
暗闇の中にも一筋だけ光が差し込んでいたのである。
内定切りが話題になった不況の時代。
何十社から不採用通知のメール、通称お祈りメールが届くなんて当たり前。
そんな中、ありがたいことにエンジニアとして採用させていただいた。
こんなテクノロジーのテの字も知らない若者を。
しかし一筋の光はあっという間に暗闇の中に消えた。
入社後はまた暗闇の中を手探りで進む感覚だった。
何も見えないから当然ケガをするし、検討違いの方向に進んでしまう。
ろくに大学時代に勉強もせず、テクノロジーに関心のかけらもなかった人間が、勉強できるわけがなく。
当然、上司に叱られる。
しかも私は、あれもこれもできるような器用な人間でなかった。
考え方もロジカルでない。
「センスがねぇ」
と先輩たちに言われる始末。
時は不況の世。
他に行く当てがないからと我慢して仕事を続けた。
ただしどれも見当違いの努力ばかり。
そのうち手探りで暗闇の中を進むのをやめ、私はその場にふて寝をするようになった。
社会人になって何年経っただろうか。
気がつけば戦後60年。
そんなキーワードが飛び交った年だった。
「戦後」
ふと疑問に思った。
ご先祖さまたちは何のために戦ったのだろうか。
手当たり次第にネットで検索した。
ネットの情報だけを鵜呑みにしてはいけないと思い、本を読み始めた。
太平洋戦争、第一次世界大戦、日露戦争……。
戦争をテーマにした本だけでなく国内外の歴史の本を読み始めた。
日本、アメリカ、イギリス、ロシア、ドイツ、フランス、中国……。
歴史を理解するために政治や経済の教科書まで読み漁った。
次第に歴史上の人物の生き方についても興味を持ち始めた。
明治日本を完成させた桂太郎。
大久保利通と西郷隆盛を突き動かした未来への意思。
34歳で人生を大転換させた織田信長。
気がついたら部屋の中は文系の本だらけ。
さらに歴史好きの人が集うオンラインサロンにも加入。
サロンは歴史や政治、経済など自分が学びたいこと自由に学んでいる場所だった。
定期的にお互い勉強したことについて語り合っている。
毎日が少しずつ充実してきた。
それは小さな灯火だった。
ふとしたきっかけで心の中に火が灯った。
今度は消さないよう大事に灯し続けた。
するとどうだろう。
小さな灯火は暗闇を照らす松明に変わった。
歴史上の人物たちの生き方を調べると、色々な気付きがあった。
桂太郎の功績はとても大きいのになぜ歴史の教科書に載らないのだろうか。
反対に○○の功績は少ないのになぜ教科書には大きく取り上げられるのだろうか。
既存の評価とは異なった視点で物事を考えるようになった。
オンラインサロンに加入すると新しい人との出会いが生まれた。
お互いに好きなことを語り合うことがどれほど楽しいことか実感できる。
歴史の本を100冊以上読んだ。
学びたいことを学べる幸せが勉強の習慣を生んだ。
試しに仕事で使う知識も勉強してみる。
歴史ほどではないけれど今度は頭に入る。
仕事が進む。
職場では「なぜか歴史に詳しいやつ」というキャラが定着した。
次第に職場に自分の居場所ができてきた。
松明が照らしてくれたおかげで前に進むことができた。
好きなことや学びたいことは心の中にある小さな灯火。
私の場合は「歴史を学びたい」という思いだった。
誰しもの心の中にきっとあるはず。
もしかしたら一度消えてしまったかもしれない。
けれども、小さな灯火は暗闇を照らす松明にきっとなってくれるはず。
どんなに先の見えない暗闇でも、あなたを前に進ませる松明になってくれる。
だから、どうかあなたの灯火を大切にして欲しい。
***
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