メディアグランプリ

題名に疑問符を感じた本


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:山田THX将治(天狼院・リーディング俱楽部)
 
 
この初夏、村上春樹氏の新刊を見付けた。
本の注文サイトでのことだ。
 
村上春樹氏といえば、ここ数年、ノーベル文学賞に最も近い作家として知られている。
当然のこととして、その新刊は大々的な宣伝が行われ、わざわざ見付けずとも情報が入ってくるものだ。何しろ『騎士団長殺し』等は、発刊当初から100万部を超える本が用意された程だからだ。
 
私が見付けた村上春樹氏の新刊は、『古くて素敵なクラシック・レコードたち』(株式会社 文藝春秋・刊)という変形判の本だ。変形なのは、見慣れた長方形ではなく正方形だったことだ。多分、レコード・ジャケットをオマージュしてのことだろう。
しかも、350ページを超す厚さは在るものの、小型の本にしては2,300円(税別)と、少々高価だった。
これも多分、多用されたカラー印刷と、もしかしたら、版権の関係が在るかも知れないと想像出来る。
 
 
私は、『古くて素敵なクラシック・レコードたち』を見付けた時、ふと疑問に思ったことが有った。それは、
『村上春樹ならJAZZだろ』
という固定観念だった。何しろ村上春樹氏は、学生時代から国分寺(後に千駄ヶ谷に移転)でジャズ喫茶を営んでいることで有名だからだ。
なので、私が疑問に思ったのは、
『何で村上春樹がクラシックなんだ?』
ということだった。ところがその疑問は、村上春樹氏が記した前書きで解決した。前書きでは先ず、自身がレコードコレクターであると語っている。そこには、“宿痾(しゅくあ)”“蒐集(しゅうしゅう)”という村上春樹氏らしからぬ語彙が並んでいた。
村上氏といえば、平易な文章で難解なストーリーを綴ることで有名な作家だ。難しい語彙は、本当に珍しかった。
 
村上春樹氏のアナログ・レコード・コレクションは、相当の数になると思われる。何故なら文中に、
『コレクションの内訳は、ジャズが7割、クラシックが2割、ロック・ポピュラーが1割』
との記載が在った。
これは、驚くべきことだ。
何故なら、『古くて素敵なクラシック・レコードたち』の帯には、
『486枚ほど選んでみました。』
と、在るからだ。
本の為に選んだクラシック・レコードが、486枚ということはその総数は如何程だろう。しかも、それが全体の2割でしかないというのだ。村上春樹氏によれば、アナログ・レコードの総数は、15,000枚は越えているそうだ。しかも、正確には把握していないそうだ。
その上他にも、CDが在るというのだから、村上春樹氏の音楽ソフト・コレクションは、レコード・ショップを通り越して博物館レベルなのではなかろうか。
 
そんなことを考えながら『古くて素敵なクラシック・レコードたち』を読み進めると、村上春樹氏らしい表現と多く出遭うことが出来る。
例えば、ついつい物を買い集めてしまうコレクターの心境を、
『“亀を助ける浦島太郎”みたいな心境』
と、実に文学者らしい表現をしている。コレクターの端くれとしては、実に心強い言葉だ。
 
 
『古くて素敵なクラシック・レコードたち』で村上春樹氏は、およそ100曲のクラシック音楽それぞれに、3~6枚のレコードをセレクトしている。クラシック曲の特性として、同じ曲でも演奏者が変わると全く違った曲調と為るのだ。また、それを楽しむのがクラシック好きの醍醐味と言っても過言ではない。
それを村上春樹氏は、小説家らしく実に読み易い文体と表現で、読者を引き込んでしまう。
中には、私が聴いたことも無い曲も含まれているが、思わず聴いてみたいと感じさせてしまうのだ。
流石に、ノーベル賞級の筆力は、物凄いものだ。
 
私は、『古くて素敵なクラシック・レコードたち』を読んでいる間中、これはどこかの音楽雑誌に連載されていたものだろうと思っていた。正確には、勝手に思い込んでいた。
何故なら、本職では無い有名人の、よく見掛ける雑誌の連載企画と似ていたからだ。映画の感想や書評等も、一般向け雑誌だと本職の評論家のものより評判が良かったりするものだ。視点が、専業の専門家とは、一味違うところからそう感じるのだろう。
私は、この『古くて素敵なクラシック・レコードたち』も、そういった連載を纏めたものだろうと思った訳だ。
 
ところがだ、『古くて素敵なクラシック・レコードたち』の最後のページには、小さく、
『本書は書きおろしです』
と、記載が在った。
私は、最後の最後で大きな疑問符を付けた。
この本が書きおろしということは、この本の企画は、出版社から出たものだろうか? それとも、村上春樹氏が持ち込んだものだろうか?
 
そうしたことを想像するのも、『古くて素敵なクラシック・レコードたち』を読む、一つの楽しみだ。
 
 
最近の報道では、若者にレコード愛好家が増えているそうだ。
Net配信等で、いかなるジャンルの音楽も自由に手にすることが可能な世代だ。そんな彼等が、敢えてレコードを選択するのは、溢れる音楽の中で“アナログ・レコード”というものが、新しいコンテンツとして住み分けされていることの他ならない。
このところ、ポップス系のアーティストでも、新譜をわざわざアナログ・レコードでも出す者が出てきているらしい。もはやアナログ・レコードは、中古レコード店に入り浸る中高年だけのものではなくなったのだ。
こういった、新しいレコード・マニアにも、この『古くて素敵なクラシック・レコードたち』は、是非手に取って頂きたい一冊だ。
レコードの魅力が、一段と近しい存在と感じられることだろう。何しろ、アナログ・レコードで聴くクラシック音楽は、リアル感に溢れているものだ。
 
 
それよりなにより、綺麗なクラシック・レコードのジャケット写真が多く掲載されている『古くて素敵なクラシック・レコードたち』。
コレクションとして本棚に収めるには、最適の一冊と思うのだ。
 
私は、この本に出遭えて、本当に良かった。
 
 
 
 
***
 
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2021-09-01 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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