ホピの人々の祈りから考える
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記事:ココヒロ(ライティング・ゼミ日曜コース)
「あそこに見えるのが、日本につながっている穴です」
それは、アメリカ・アリゾナ州のネイティブアメリカン(アメリカ先住民族)の自治区にある、ホピ族の村を訪れた時でした。その日、案内してくれたセカンドメサ(ホピ族の中で3つある村のうち、2番目にあたる村の名称)に住む青年は、村の端にある崖の際に立ちながら、遠くを指差してそう言いました。
指を差した先には、いかにもアメリカらしい壮大な大地が、澄み切った青空とともに広がっていました。緑の木々は一切なく、どちらかというと荒れ果てた大地がどこまでも広がっている、そんな風景でした。
そんな中に、言われてみると、ところどころ穴のように見える場所がいくつもありました。それはまるでクレーターのようにも見える穴でした。その穴のひとつを指して、「あれは日本と(エネルギーが)つながっている」と言い、別の穴を指差して、「あの穴は中国、あの穴は南米、あれはヨーロッパ……」などと説明してくれました。つまり、ここから見えるクレーターのような穴は、世界中のありとあらゆる場所につながっていると言うのです。
ネイティブアメリカンというと、ナバホ族とともに有名な部族がこのホピ族です。ホピ族の方々は、昔からの伝統を今でも忠実に守りながら暮らしています。私が訪れたセカンドメサ(第2村)の中で、一部の区域では、電気を引かないという選択をし、未だに近代的な生活とは無縁のままで暮らしている家族もあり、そのぐらい、昔の伝統を守るということを大切にしています。もちろん、普段の生活に限らず、いろいろな伝統行事も昔のまま忠実に行われていて、ホピにある3つの村のうち、その伝統行事を忠実に再現し続けている村は、今ではここのセカンドメサだけだと、その青年は説明してくれました。
ホピという意味は、「平和の民」という意味です。セカンドメサのその青年は、続けて次のようにも話してくれました。「私たちホピ族の人々は、毎日、世界の平和を願って祈っています」と。そして、「私は、あのそれぞれの穴に向かって、平和のエネルギーを送っています」と。
もちろん、エネルギーというものは、目に見えないものなので、それがどういうものなのか、私は確認することはできませんでしたが、でも、祈りを捧げるという行為ならわかるので、祈りのやり方はどうであれ、おそらく毎日、この場所に立って、世界平和のためにお祈りをしてくれているんだろうなと想像することができました。その時、「ああ、ホピの人々が平和の民と言われているのは本当なんだ」とつくづく感じたものです。
何か特別なこと、この場合でいうと、目に見えないエネルギーを送るなどということは、誰にでもできることではないかもしれません。ですが、「祈る」という行為は、私にでもすぐにできることだなと思いました。ならば、日本に戻ってから、私も同じように「祈る」ということをするべきじゃないんだろうか? その時は、ホピの人々のこの行為に感動して、日本に帰国しました。
それから、日本に帰国したあと、しばらくは自分なりに祈るということをやってみようと思いました。時間にして1分もないぐらいでしたが、はじめの頃は、張り切って何日か続いたものの、あの時の感動もだんだんと薄らいでいき、いつしかまたいつもの自分の生活パターンに戻ってしまい、結局続けることはできませんでした。
あの頃は、毎日の自分の生活に精一杯だったので、それも仕方のないことだったと思います。あれからだいぶ年月が経った今、あの頃のことを振り返ってみると、ホピの人々は、常に心に大きな余裕があるのだろうと思うようになりました。
例えば、物に囲まれて生きるという現代の社会の中で、私が出会ったホピの人々は、生まれた時から、身の回りには必要最低限のものだけを持って暮らすということが当たり前になっていたので、自分のように、あれが欲しい、これが欲しいといったような物欲は、おそらくほとんどないのではないかと思います。少なくとも、自分よりはないはずです。
また、物欲だけではなく、生活全般においても、ストレスを抱えることも少なく、心に余裕を持って生きているのではないだろうか?
心に余裕があるから、毎日、世界のために平和を祈る、という行為もできるのではないだろうか?
私も、若かったあの時よりは、少しだけですが、心に余裕ができるようになりました。だからその分、今から少しづつでも、また、ホピの人々の真似ができたらいいなと思っています。
ホピのセカンドメサに行って、青年が穴の説明をしていた時のあの顔と瞳は今でも忘れられません。にっこりと笑って、嬉しそうに「あの穴は日本とつながっているんだ」と言ったときのあの顔は、至福に包まれたようなそんな顔に見えました。自分もいつかはあんな風になれたらいいなと思います。
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