恥ずかしい過去を公開します
記事:かたP(ライティング・ゼミ)
夢を見ていた。
選ばなかった未来で、もう1人の私は、幸せそうに笑っていた……
「好きです」
突然の告白だった。
生まれて初めて、異性から気持ちを伝えられた瞬間だった。
私は、この時のことを、何度も思い出す。
それは、甘美な想い出としてではなく、後悔と、そして、人生の最初の分岐点であったという想い出としてだ。
中学3年生になっていた私。
勉強しなくてもそこそこだった小学生から、勉強しないと成績は下がるのだと気づいた中学1年生。それでも勉強することに意味を見い出せずにいた2年生。高校受験を控え、周りに流されるように塾通いを始め、周りの熱に感染して勉強に身が入り始めた3年生。
それは、中学2年生の時に同じクラスだった女の子からだった。
クラスでは目立つタイプではなく、おとなしかったが、華奢で大きな瞳が魅力で、可愛いというよりは美人な子だった。いつだったか「クラスで誰がいいか?」と、クラスメイトとのありがちな会話で、彼女の名前を出したのを思い出した。そういえば、同じ塾に通っていたっけ。
元高校球児の父親に半ば強制的にやらされた野球から逃げ、バレーボール部に入るものの、馴染めず3ヶ月で退部した中学1年生。何かに打ち込むこともなく、ただ毎日、ラジオを聴いて、テレビゲームをしていた2年生。委員会活動を決める時に、くじ引きでたまたま決まって始めた放送委員会を面白く感じていた3年生。
家庭に居心地の悪さを何となく感じ、愛情に飢えていた。
課外活動で先輩方に優しくされて幸せを感じていた。
後に、同窓会で、当時のクラスメイトから言われたのだが、遠くを見る癖があった。
自分のアイデンティティーを見出すことができず、自分ではない誰かが、私の人生を変えてくれるのではないか? 本当の居場所がどこかにあるのではないか? そんな未熟さからくる、ここではないどこかを見つめるしぐさだったのだろう。
「受験が終わるまで待って欲しい」
クラスメイトからは、誰それがキスした、初体験を済ませたと伝わってくる一方で、自分は、夜な夜なティッシュに一瞬の快楽を放っていた年頃であった。
好みのタイプの女の子からの告白だったし、女性への興味がないわけはなかったが、肉体と精神のアンバランスがそうさせたのだろうか、私は、そう返答したのだった。
そして、それは、問題との直面を避けて、結局は、解決を先送りしたにすぎなかった。
過去は変えられない。
でももし、あの時、付き合っていれば、もう1人の自分は、彼女と同じ高校に通っていたかもしれない。
実際には中高校生の時に叶わなかった制服デートも出来ただろう。
人付き合いに、悩み苦しみながら、考えを深められたかもしれない。
だが実際には、驚異的に成績を伸ばし、県内では進学校といわれる高校に入学し、その後の人生に大いに影響を与えたと思われる演劇部に入部した。
もう1人の自分は、成績は伸びなかったかもしれない。演劇に出会うこともなかったかもしれない。
やれば出来る経験をしたからこそ、大学受験もやれば出来ると思いながらも、結局はやらずに終えてしまった。この時に、異性と向き合わなかったから、その後出来た初めての彼女との付き合いでは、感情をうまく処理出来ず、ストレスを抱え、会えば頭痛がおきた、そんなことになったのかもしれない。
何が成功かは分からない。だが、この時、失敗もしていなかったと私は思う。
失敗の反対は、成功ではない。失敗の反対は、何もしないことだと思う。
この時、私は、何もしなかった。
卒業式のあと、2人で少し話をしたのを覚えている。
だが、数日後に控えた受験のことで頭が一杯で、他の何かを考える余裕はとてもなかった。
彼女は、県外の私立高に進学し、その後会うことはなかった。
彼女と向き合おうとしなかった。と同時に自分とも向き合おうとしなかった。
そんな後悔だけが残っている。
後悔は、ぜんまい仕掛けのおもちゃのようなものだ。
ぜんまいを回し、おもちゃは動く。後悔をし、そこから何かを学び、次への原動力にする。
ぜんまいを回しすぎると、機械は壊れてしまう。後悔ばかりしていては、前には進めない。
私は現実や問題との直面を避けて、解決を先送りにしがちである。
何もせず後悔をし、失敗をし、後悔をする。
そうして、悩んだり、苦しんだりしながら、少しずつ現実と向き合い、考えを深めようとしている。
そうすることで、はじめて自分らしい生き方が見出せると思っている。
時には、他人からもたらされたヒントや答えで、安心感を得たり、迷いがふっきれることもある。
それにすべてを委ねて甘えてしまうこともあるが、それは、本当の意味で、自分自身で選択や決定をしていることにはならないと思う。
他人の価値観や多くの情報に惑わされずに、まずは、自分で考えて生きたいと思う。
これまで私は、後悔ばかりしてきた。失敗ばかりしてきた。
おそらくこれからも、後悔し失敗を重ねていくだろう。
それでもすべて間違いじゃなかったと思えるように信じて。
自分で考えていこう。
後悔は、航海の始まり。
さあ、起床の時間だ。
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