「俺の敵はだいたい俺です」という理論
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記事:蛯原篤史(ライティング・ゼミ日曜コース)
「俺の敵は、だいたい俺です。夢を散々邪魔して、足を引っぱり続けたのは、結局俺でした」
そうなんだよな~。過去を振り返ってみると、人生のチャンスを邪魔しているのは、結局、いつも自分だったなあ、としみじみ思うのであった。
これは、漫画『宇宙兄弟』のとある場面のセリフである。みなさんも、漫画を読んでいて、登場人物の言動に共感する場面に遭遇しないだろうか?
この漫画の主人公である南波六太は、一時期、宇宙飛行士の夢をあきらめていた。しかし、弟に触発され、採用試験にチャレンジする。しかし、それは、何十万人の受験者からたった数名しか採用されない超難関の試験だ。
自分より優秀な競争相手を蹴落としながら、競争を勝ち抜かなければならない。追い詰められ状況の中、教官の一人から、質問を投げかけられる場面がある。
教官は、あなたの敵は誰ですか? と問う。教官は、もちろん六太の競争相手である受験者たちについて語るだろうと想像していたはずだ。しかし、六太の答えは違った。
「俺の敵はだいたい俺です。自分の宇宙へ行きたいっていう夢を散々邪魔して足を引っぱり続けたのは、結局俺でした。他に敵はいません」
そう、倒さなければならないのは、誰かではなく、自分の思考や言動そのものだということだった。
この場面を読んで、私は、自分の苦い仕事の体験を思いだしていた。まさに、自分で自分の目標や人生の邪魔をしていた出来事そのものだ。
私は、過去に、自分の感情を抑えることができずに、せっかくのチャンスを無駄にしてしまったことがある。
私は、前の会社で家電のマーケティングの仕事をしていた。30代のほとんどをタイのバンコクで過ごした。
当時のバンコクは、高層マンションが次々と建設され、中国や中東から投資で湧いており、ちょっとした不動産バブル期だったのだ。
それに加えて、PM2.5などの大気汚染が社会問題になるなど、空気浄化技術に関して、消費者や住宅ディベロッパーが興味、関心を抱き始めていたので、マンション向けの空気浄化装置の導入を思いついたのだった。
私とタイ人営業マンたちは、すぐさま行動に移した。企画書を書き上げるために、お客さまである住宅ディベロッパーにヒアリングを実施した。今後の住宅市場の動向も調査し、バブルが弾けた後のリスクヘッジの案も考えた。新規開発になると投資と工数がかかるため、日本や中国のモデルを改造するという現実的かつ合理的な案も思いついた。
手間がかからない上に、新しい市場の開拓もできる。満を持して企画書を、本社の商品開発部に提出した。
競合他社もきっと同じことを考えているだろうから、私は、かなり、焦っていた。返事がなかなか返ってこないので、催促のメールをした。
返信のメールが返ってきたが、結果は、無情にも「ノー」であった。企画は通らなかったのである。企画が通らなかった理由を聞いて、私は、怒りが込み上げてきた。
「タイはまだ後進国なのでそのようなニーズはないと思います。ですので、企画は見送ります」
マーケットのことも知らない人たちが、机上の検討だけで、一方的かつ偏見に満ちた回答をしてきたことが許せなかった。頭に血が昇ってしまった私は、感情のコントロールができず、かなり強い口調でメールの返信をしてしまったのだ。なぜなら、今回の件がはじめてではなかったからだ。
「だから、本社の開発部門は必要ないって言われるんですよ」
ところが、メールを見返して、私は、青ざめてしまった。そのメールには、開発部長がCCに入っていたからだ。企画が通らなかった上に、その部長からの信頼も失くし、他の案件もやりづらくなってしまったのだった。
そんな社内政治のいざこざを横目に競合他社は、マンション向けの空気浄化装置を市場投入し、複数のマンション物件に納入をしはじめ、ちょっとしたヒット商品になっていた。
後悔、先に立たず。
あの時、もう少し冷静になって、企画書を見直したり、関係者と議論する場面を設けたり、現地視察を企画し、マーケットを見てもらう工夫をしていれば、状況は変わっていたかもしれない。
感情的になってしまったことで、私は、自らの手で、チャンスを握りつぶしてしまったのだ。それどころか、一緒に頑張ってくれた営業マンの努力まで無駄にしてしまった。
その後、私は、転職をした。しかし、環境を変えたとしても、同じような問題はおこるものだ。納得できない理由で、企画が却下される場面は、これでもかというくらい突きつけられる。
後がない私は、変わるしかなかった。
反対されてイラっとしてもすぐには、反応しないようにした。そして、反対される理由があれば、話し合いの場面を持つし、疑問点があれば解消するように努めるようになった。
企画の精度をあげて、いいものを世に出す努力をする。自分でできる工夫を最大限やる。掴んだチャンスは、最大限に生かす。自分の人生は、自分でよくする。
「俺の敵はだいたい俺です」
そう、自分の敵は自分だ。今までは、自分でチャンスを踏みつぶしていたが、もうそんな自分とはさよならだ。これからは、失敗から学んだことを生かし、チャンスを生かしていこうと思う。
***
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