メディアグランプリ

すべてのいのちに感謝して、「いただきます」


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

 
記事:張川裕稀(ライティング・ゼミ10月コース)
 
 
私は24歳で実家を出るまで、ご飯の炊き方が分からなかった。
しかも土鍋で炊くご飯じゃなくて、炊飯器を使って炊く方法だ。
(もちろん土鍋で炊く方法も分からなかったが)
お米の洗い方から、1「合」という単位、お水の量もわからなければ、炊飯器のどのボタンを押せばいいのかも分からなかった。
もちろん自分で料理を作るなんてことは、とてもじゃないができない。
母親が作ってくれる料理を、当たり前だと思っていた。
実家を出ることになった時、さすがにマズイと思った。
ネットで「名古屋 料理教室」で検索し、適当に見つけた料理教室に足を運んだ。その料理教室にした理由は、1回ごとの支払制なので、嫌だと思ったり都合が悪くなったらすぐに辞められるからだ。
 
料理教室は久屋大通にあり、名古屋最大の繁華街錦から歩いて3分ほどで到着するタワーマンションの16階にある。
エントランスにはコンシェルジュがおり、入り口や廊下は高級ホテルを思わせるような作りだった。田舎に住んでいた私だが、その料理教室に行く時だけは毎回イイ女になった気分にさせてくれた。
料理教室の先生は60歳の女性だったが、自分の母親よりも若く見える。そして、口から生まれたのかと思うほど、おしゃべりな先生だった。
生まれて初めての料理教室のメニューは、奇しくも「土鍋で炊くご飯」「鰹だしで作るめんつゆとそれを使った牛丼」「オクラの胡麻和え」「冬瓜汁」「プリン」。
狙って行ったわけではないが、ズブズブのど素人向けの回だった。
 
先生ともう1人の生徒さんと一緒に料理を一つずつ作っていく。
お出汁を生まれてはじめて生で見たし、めんつゆを自分で作ることができることを初めて知った。いつもメイン料理の影にひっそりと佇んでいたオクラの胡麻和えも、こんなにちゃんと下ごしらえされて、手間ひまかけて作られていると思わなかった。
元々大雑把な私には、料理を作る全ての工程が難しく感じられた。だが、最後に「いただきます」とみんなで言って、盛り付けされたお料理たちを見ると、何かこみ上げてくるものがあった。
 
それから、目の前にライトアップされた名古屋テレビ塔と、たくさんの車が走り交う大津通りを見ながら、先生と生徒さんと食事をした。
土鍋で炊いたつやつやのご飯で食べる牛丼は、どんなチェーン店の牛丼も敵わない美味しさだった。冬瓜汁も子供の頃を思い出させるような郷愁を誘う味だった。プリンは高級洋菓子店で買ってきたような上品さと優しい甘さがした。
自分たちで一から作った料理を味わいながら楽しむ食事の時間が、最高に贅沢であたたかかった。自分で料理を作ることが、こんなに素敵な時間を運んできてくれるとは思ってもいなかった。
 
料理に大ハマりした私は、そこの料理教室で「ビーフシチュー」「秋刀魚の香味ソースかけ」「とろろ汁」「豚の角煮」「ぶり大根」「ハンバーグ」等、たくさんの料理を学んだ。
一人暮らしを始めてからは、習った料理を必ず一回は復習するようにしていた。料理教室で食べた味を再現できたものもあれば、なぜか全く違う料理になってしまうものもあった。でも自分で料理を作ることはこれ以上なく楽しかった。
 
それからは時間がない時でも欠かさず毎日自炊をして、会社での昼食も手作りのお弁当を食べた。日曜日の夕方からせっせと作り置きおかずをこしらえ、平日の朝は早起きして卵焼きを焼いたり、おかずを詰めたりする。世界に一つの私だけのお弁当だ。朝自分で作っているのに、何故かお昼時にお弁当箱を開けて対面する時間が好きだった。
 
家ではひとりぼっちで食事をしていたけど、一から作った料理が目の前にいたら、なんだか一人じゃない気分になった。目の前の料理に何かが宿っているような気がした。料理を作ることで食材のいのちを磨き、食べることによって、そのいのちを頂いているようだった。
食材になる前に動物だったか植物だったかは関係ない。とにかく全ての食材、口に入るものに対して感謝の気持ちを持たないといけないという使命感に駆られた。自分で料理を作るという経験なしでは、絶対に感じられない使命感だった。今までなんとなくつぶやいていた「いただきます」という言葉を、自分で料理をするようになってからはしっかりと言うようになった。
 
 
そんなある日、私はストレスで胃炎にかかってしまった。
とにかく胃がキリキリ痛む。ギュインギュイン下に引っ張られるような感覚で、痛み出すとベッドから抜け出せないくらい辛かった。冷や汗をかいてヒーヒー言いながら転がるしかなかった。そしてその胃炎の1番厄介なところは、食後に襲ってくるところだった。
 
食事をして15分もすると胃が痛くなる。最初は朝食を食べた後によく痛んでいたのだが、だんだん毎食後痛くなってくる。
あんなに自分で料理を作るのが好きだったのに、私は全く自炊をしなくなった。それだけでなく、食事の量を極端に減らしたり、ゼリー状のドリンクや消化がいいものくらいしか食べなくなった。「いただきます」だなんて言わずに、さっさと食べ物を流し込む。外で痛くなると大変だから、人と会って食事をするのも怖くなった。
食べるのがとにかくおっくうになった。
 
そんな生活を続けていると、朝起きるのが辛くなるし、何をするにもやる気が出ない。鬱々とした気分が抜けずに、布団の中でスマホばかり見ている生活が続いた。食事をして、すぐに痛くなるからまた布団に帰る。何にも楽しくなかった。まるで胃炎にいのちのエネルギーを吸い取られているかのようだった。
 
結局、その後病院へしっかりと通い、薬を数ヶ月飲むことによって胃炎は治ったのだが、改めて食事の大切さを思い知らされた。
人間は食べることによっていのちをいただいており、そのいのちのエネルギーに生かされている。食べることを疎かにするということは、そのエネルギーを捨てるようなものだ。
胃炎が治って、きちんと自分が作った食事と向き合った時「ごめんね……」と心の中で謝った。そして「いただきます」と伝えてから頂いたいのちは、やっぱり美味しくって、体の底から力が湧いてきた。
 
あの日「料理教室に行ってみよう」と思い立った自分に感謝している。でなければ、自分で料理を作ることもなければ、食べることのありがたさを感じることもなかっただろう。
自分で作った食事に限った話でなく、私が食べたあらゆる食べ物で今の自分が成り立っている。
どんな時にも目の前の食事に感謝の気持ちを持って「いただきます」を伝えられる人でありたいと思った。
 
 
 
 
***
 
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2021-11-17 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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