拝啓:天狼院書店の川代紗生様 僕は本当にあなたのことを・・・・・・
記事:たか(ライティング・ゼミ)
拝啓 川代紗生様
五月晴れの空に木々の緑が美しい季節となりました。お変わりなくお過ごしでしょうか。
単刀直入に申し上げますと。僕はあなたのことを、とてもとても憎んでいます。
こんな公の場にさらされるとこで何を言い出すんだ、とお思いでしょうが、僕がどれほどあなたのことを憎んでいるのか、なぜ憎んでいるのか、それを書き連ねたい衝動にかられたのです。
何より、僕があなたのことを憎んでいる理由は、あなたが僕のことを裏切ったから。
絶対にあなたは裏切らないと信じていたのに。
だから、今度は僕が仕返しをします。
僕はあなたのあなたのことを許しません。
天狼院書店を介して出会った誰よりもきっと長い付き合いであろう僕が、
あなたの化けの皮を剥がさせていいただきます。
僕が川代紗生のことを知ったのは5年前。
早稲田大学の某バンドサークルの同期としてだった。
彼女はドラマーで僕はベーシスト。
今年のドラマーは可愛い子が多い、ということを聞いていて、実際に可愛い人だらけだったのだけど、そんな可愛いドラマーの人のうちの一人、という認識程度。今でこそ自分の同期はみんな仲がいいと思っているが、当時は、僕がつるんでいたグループと彼女が仲良くしていたグループにそこまで交流はなかった。実際に一年の頃は本当に話した記憶がない。多分彼女もないでしょう。僕はいい意味でも悪い意味でも騒がしいグループの一員で、積極的に先輩に絡みにいったり、飲み会ではバカをしたり、酒を飲みすぎたりだったので、その程度の認識はあったかもしれないけど。
僕たちが所属していたバンドサークルは、フリーバンド制。固定ではなく、ライブごとにバンドを組む。彼女と組んだのは一回きりで、その時がほぼ初対面のような感じ。しかも、その時のバンドはサークル生活の中で唯一やる気が起きなかったバンドで、それほど深い仲になることもなかった。加えて、彼女は国際教養学部で、2年生の夏過ぎから、留学に行くことが決まっていて、ほとんど話すことのないまま、僕と彼女のサークル生活は終わった。
それから、就職活動が始まり、次に彼女のことを見かけたのはfacebook上だった。
確か初めて読んだ記事は「国際教養学部という階級社会で生きるということ」という記事だったと思う。
天狼院書店という存在を知ったのもその時だった。今まで僕は、川代がこんな文章を書く人、ということは知らなかったし、サークル内でお山の大将、もしくは井の中の蛙のように閉じられたコミュニティで有名になって満足していた自分にとって、その記事の存在は、僕が見たくない、蓋をしていた部分を突いた。
正直、記事を食い入るように読んでいた。
なんだこれ。
スゲェ。
小さい頃作文教室に通わされ、中学高校の「言語技術」の授業では常に好成績をマークし、書くことには自信があったのに、その自信を彼女は、一瞬でぶっ壊した。
俺の知っている川代紗生じゃない。そう思った。
その後、彼女が記事をfacebbokでシェアするたびに読んでいた。ウユニ湖の記事も、承認欲求の記事も、女の怖さについての記事も、どれも1万字くらいはあるのに、簡単に読めた。
ずるいと思った。認めたくなかった。
友達づてに内定が決まっていることも知っていた。でも、それで満足せず、小説家になりたい、という夢のためにこうして記事をあげている。その一方で自分は未だ内定も決まらず、だからと言って夢を追うこともせず、自暴自棄になっていた。本当は演劇をやり続けたかった。でも、何かと言い訳をつけてやろうとしなかった自分がひどくみじめに思えた。彼女が記事をあげるたびに、ナイフで心の奥底を刺されてる気がした。特に仲良くもなかった彼女に対して、勝手に憎悪の気持ちが出てくるのを感じた。
だから、心の中で言い訳を作ることにした。
なんか、こいつ頑張ってるな。自分の記事シェアしたりして必死だな。他の友達とかに自分の事さらけ出して恥ずかしくないのかな。
そうやってあたかも自分は傍観者のように彼女のことを見ていた。認めるわけにはいかなかった。認めたら自分が周りの目ばかり気にして、やりたいことから目を背けてるのに、その一方で「俺はやりたいことしかやりたくない」と言って、現実と向き合おうとしない自分を認めることになるから。
4月になると彼女も就職し、更新頻度が少なくなった。そんな折に、久しぶりに彼女の投稿をみつけた。気になったのは、投稿よりもコメント欄だった。正確には覚えていないが、「あなたはせっかく就職したのにまだ天狼院という場所に固執しているように思えます」といったコメントだった気がする。その時、少し自分と彼女が近づいた気がした。天狼院という場所にしがみついている川代が、演劇の魅力から抜け出せず、社会に出る覚悟ができていない自分に重なっているかのように思えた。まるで、「冷静と情熱のあいだ」の順正が、あおいの事を忘れることができなかったように。過去に縛られている彼女を見て、安堵している自分がいた。このままずっとずるずる、引きづればいいのにと思った。
でも、彼女は僕のことを裏切った。
たった一年で会社を辞めて、天狼院に戻った。奇しくも彼女が働いていた会社は、二回目の就職活動中の自分が第一志望にしていて、最終面接で落とされたところだった。
憎らしかった。ふざけんなと思った。
自分が手の届かなかったところに行っておきながら、その舞台から降り、結局本当にやりたいことができる場所に自分で選択して戻った川代のことが、憎くて、憎くて、たまらなかった。あんだけ人からどう思われてるか気にしてるって言ってたじゃん。自己承認欲求が高いって言ってたじゃん。普段はクールっぽく見えるけど、俺と同じだって思ったのに。腹の中で黒いもん抱えてると思ったのに。
なんで。どうして。
そんな面白い記事いつも書くなよ。過去に引っ張られて苦しんでてくれよ・・・・・・。
それくらい、憎いと言わないとやっていけないくらい、川代紗生という存在を気づいたら尊敬していた。気づきたくなかった。自分が周りからどう見られているかをあれだけ気にしていると川代ノートで書いていながらも、あなたはしっかりと自分の道を選んだ。僕にはできなかったことを、やってのけた。そして、天狼院書店内で、自分の小説もアップして、着実に自分の夢への道を歩いている。多分、今でも別のことであなたは苦しんだり、闘ったりしてるでしょう。そして、この決断をするまでにも沢山の葛藤があったでしょう。でも、あれだけ記事内で自分のことをさらけ出してるあなたはとてもかっこいい。正直、あんな遊び半分のバンドサークルから、ましてやそこまで仲良くなかったにも関わらず、こんな尊敬できる同期ができたことに驚いています。憎んでるなんて言ってごめんなさい。
ただただ、あなたのことが羨ましかった。
そして、尊敬していた。
久しぶりに彼女と会話をしたのは、天狼院書店だった。
僕はライティング・ゼミに通っていることを彼女には伝えていなかった。密かに、店に行った時に会えたらいいな、と思っていたけど。
僕が彼女の勤めていた会社の最終面接で落ちたことを伝えると、彼女は「あそこブラックだよ」と返してきた。でも、「天狼院なんてそれでいったらもっとブラックじゃない」と聞くと、「超ブラックだね」と言っていたけど、その時の彼女の顔は笑っていた。生き生きしていた。その時の僕には、憎しみなんて感情は全くなかった。
拝啓 川代紗生様
川代の記事いつも楽しみにしてます。
俺も、一回くらいは川代にスゲェって言われる記事絶対書いてやるから。
あと、今度是非おすすめの本とか教えてな。
どうか、夢を諦めないで、未来だけを見て、進んでください。
俺にこんなことを言われるのは癪かもしれないけれど。
俺も、自分に負けないで頑張ります。
自分と向き合わせてくれて、
ありがとう。
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