卒業のススメ〜なぜあの人は卒業という選択をしたのだろう〜
ふと、思うことがある。
学生時代を卒業した後、次に待っている「卒業」は一体どんな時にやってくるのだろうかと。
そもそも生まれついて私たちが認識している「卒業」とは、学校の規定の教育の終了のことで、資格を得るために必要な条件として提示されることもあれば、卒業=修了のため、学士、修士号、博士などの学位や称号が与えられることもある。Wikipediaにもそう書いてあった。
つまりはある一定の時間や単位取得の基準値を満たした上でその権利が与えられるのだが、社会人になってからは明確な基準が設けられているわけではない。
でも、私たちはあちらこちらでこの「卒業」というフレーズを耳にしている。
例えばアイドルグループの「卒業」は毎月のペースで携帯のニュースで流れてくる。週末深夜のバーの片隅ではお酒に身を任せた女性が「もう彼からは卒業よ!」なんて言って琥珀の液体を喉に流し込んでいる姿をちらほら見かける。また親しい友人の中にはこの部屋からの卒業と言いながら5年で12回も引っ越ししている。
————山川咲さんという方をご存知だろうか。
ウエディング企画運営会社「CRAZY WEDDING」を立ち上げ、自身もウェディングプランナーとして活躍、オリジナリティーに溢れた式でたちまち巷で大人気となり2016年5月29日に情熱大陸に出演した32歳の女性である。
この回では「福は内」をテーマに結婚式を挙げる様子が放送されたが、企画の立て方がまず面白く、カップルの話を聞いて一つのストーリーにまとめるのだ。
テレビ画面から見ると恐らく2000文字以内のテキストで、二人のこれまでと未来を物語にまとめる。ここでは、「一人で鬼は外と叫ぶより、二人で福は内と叫ぼう」というフレーズがあり、それを元に和の結婚式を演出した。
会場選び、服装、メイク、設営、演目演出など、どれを取ってもコンセプトに基づきながらビジュアル映えする結婚式にまとめ上げる。主催者側だけではなく参列側も今までにない結婚式を体感できるとあって多数の口コミサイトでダントツの一位となっている。
私も実際の式の様子を見て、あまりのクオリティーの高さに結婚式という多くのスタッフが関わる空間でよくここまで脳内イメージを共有・具体化できるなぁ、とその能力の高さに愕然としてテレビ画面を眺めていた。
けれど番組の最後は全く予測しない形で終わる。
なんと山川さんが自身で起こした会社を辞めたのだ。
トップを降り、また新たな人生へと、オーストラリアに一人で旅に出たのだ。
最後にその仕事を降りるなんて、近年の情熱大陸でも見なかった展開である。
そこでまたふと思った。「卒業」とはどういうタイミングで行われるのだろうか。
もちろん、社会人になってからは学位の授与がないので自身で決めることにな
る。その自身の基準はどこで決まるのか。
自身の卒業は次のステージが見えている訳ではない。
私も会社を辞めて当時お付き合いしていた彼を置いて沖縄にバックパッカーに行ったことがあるが、その時に別に何かをしたくて動いたわけではない。
山川さんは笑顔で会社を辞めたが、中には満足いかないまま卒業をしてしまう人だっているだろう。
……私が思うに、卒業というタイミングは、見えない自分に自信を持てた時なのではないだろうか。
ここの場所を手放したとしても、前に向かって進める自分。
両手を広げて、朝日に向かっておはようと言える自分。
次の世界を想像した時に世界のありとあらゆる色彩がはっきりと見えて、自分の口から出る声はいつもよりも芯が通っている。
動き出した自分が間違いなく今の自分より好きになれる。白紙の紙を見つめて
何を描こうか迷うよりも、何が書けるのかワクワクする自分に出会った瞬間、その時にそれまで自分の周りにあった環境から「卒業」するんだろうな、と個人的に考えている。だから世界的スーパースターと結婚しても3年以内に離婚したり、まだ健康そのものであって、世界から天才と呼ばれても映画業界を引退するアニメ監督もいるのだ。
年齢を重ねると経験が増える。リスクも見える。良かれと思って動いても現実は厳しくどうにもならないことも受け入れなければいけないこともある。でもそれでも自分の未来を前向きに考えるということは、人間が持つ「想像力」の素晴らしさなんだろう。そして本能的に、最後に責任を取るのは自分自身しかいない、ということを誰しもが知っているんだと思う。想像と責任。そのバランスがうまく取れた時に行動を起こす力になるんだ。
私は今、小説を書いている。小説というのは、筆者次第で物語を終わらせることができる。作品作りは己自身と見つめ合う作業でもあるので、執筆中にこのキャラクターはなんでこのセリフを吐くのか、ぐるぐると思考を巡らせるとうちに
自分が無意識のうちに心で考えてたり感じていたりすることを新発見できる。けれどどんなに楽しい物語でも、卒業というときが必ずやってくる。そのタイミングはやはりその先の、読者の表情が見えた時かもしれない。
もし、物心ついた時から持っている筆を70、80歳でそっと置くことがあれば、その時はそんな自分を心から歓迎したいと思う。その時はきっと並大抵の努力じゃできないことをしただろうから。
人生の卒業は死だ。それまでに自分で自分の卒業証書を渡すため、今を、今をとにかく生き抜くしかない。
TBS公式チャンネル 情熱大陸「山川咲」TBS公式チャンネル 情熱大陸「山川咲」
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