旅部なんて参加しなければよかった ≪旅部レポート ~0529江の島~≫
記事:野呂
先週日曜日、
天狼院旅部に参加した。
行先は江の島。
バスをチャーターし、
天狼院のスタッフ、お客さん、総勢39人での団体旅行。
初参加の方が多かったのもあるが、
普段イベントにもあまり顔を出さない私は、初めて話す人ばかりだった。
旅部に参加することは、前日の夜にいきなり決まった。
持ち物の準備も心の準備も万全にできていない状態での飛び入り参加となった。
眠い目をこすりながらの8時集合。
バスに乗り込み、旅部がスタート。
隣の席のお客さんとまず自己紹介をし合う。
私の隣は、以前からよく天狼院に来てくだっているお客さんだった。
名前と顔は知っていたが、ちゃんと話したことはなく、
お互いの第一印象なんかを遡って話した。
「のろちゃんって、人見知りでしょ?」
「え? あ……、そうです(笑)」
相当おどおどしていたんだろな。
隣同士での自己紹介が終わると、
今度は前からマイクを回して、
今自分の隣に座っている人を、全体に向けて紹介する「他己紹介」。
みんな個性的で、話も面白くて、
旅部始まってまだ数十分なのに、とても盛り上がった。
SAでのトイレ休憩。
いったんみんなと一緒に外に出て、
私は奥の席だから早く戻らないと、と思い、
ガラ空きになったバスに戻る。
中に残っていたのは3、4人。
天狼院の店主でありながら、
お客さんとして参加したい! と、「菅原」という偽名で参加登録した、
三浦さ……菅原さんが来て、
「すげー、後ろ、ボックス席みたいになってるんだぁ! いいなあ楽しそう」
そうなのだ。
後ろ3列だけは、席を向かい合わせにして、
コの字型になってテーブルを囲んで座る。小さな宴会スペースになっていた。
「すごく楽しいですよ」
そう答えると、三浦さんは、首からかけていたカメラを構える。
体に力が入る。
「のろちゃん、普通にして」
普段、写真に撮られるなんてことないから、
どんな顔して、どんなポーズで座っていればいいのか分からない。
「ふつうって、なんですか(笑)」
どうしたって、委縮してしまう。
だって、あの黒く重々しい塊。
銃口でも向けられたような気になる。
人の視線ってだけでも怖いのに、
あの分厚いレンズによって、攻撃性が格段に上がる。
シャッターが切られ、その瞬間の私が射抜かれる。
ゆがんだ顔は、フィルムに焼き付けられて、もう逃れられない。
死と同義なのだ。そういう緊張感。そういう恐怖。
「え、普通は普通(笑)」
なーんて、詩人気取りで書き連ねてみたけれど、
本当のところは、
カメラを前に増幅する自意識に息苦しくなっただけ。
徐々にみんな、休憩から戻ってきた。
「メロンパン買ってきました。よかったらどうですか?」
「えっ、いいんですか!? ありがとうございます、いただきます!」
バスがSAを後にし、
江の島に向けて出発する。
他己紹介に続き、バスレク第二弾は、「雑誌編集部・編集会議」。
6人一組で編集チームを組み、
雑誌の記事のテーマ、今回の旅での取材内容を考える。
この編集会議、何も単なる仮想のゲームでやっているのではない。
本当に、各班それぞれの企画が、
天狼院書店で発行する雑誌『READING LIFE』に掲載されるのだ。
私の班は、
「三人目の江の島女神を探す」
というテーマになった。
どういうことかというと、
江の島には三姉妹の神様が祀られていて、
私たちの班は、私を含め、女性が二人いる。
あと一人を、
江の島で出会った素敵女子に声をかけて、
写真を撮らせてもらおう、という企画だ。
江の島うんちくも絡めながら、目の保養にもなる、面白そうな企画となった。
そうこうしているうちに、海が見えてきた。
江の島到着。
班に分かれて、雑誌取材を兼ねた観光を開始。
天狼院の晴れ男三人(店主の三浦さん、フォト部顧問の榊先生、映画部顧問の檜垣先生)
によってもたらされた、強い日差しの他に、
私には、もう一つ戦わなければならないものがあった。
それがやはりカメラであった。
正確に言うと、カメラを前にした時の、自意識だった。
いちいち、毎回おろおろもしていられないから、
カメラが向けられても、できるだけ自然に、できるだけ何もしない。
できるだけというか、全く何もしない。
さも、そこにカメラなんてないかのように。
カメラを意識している自分なんていないかのように。
自ら動かず話もしない、道端の石ころや植物のようになって、
ゆがんだ自意識が表に出ないように、押し殺す。息を止める。
雑誌のための取材も進んでいく。
海風に合う、爽やかなブルーのワンピースを着て
特大の蛸せんべいをかじる美女をパシャリ。
午前中、年に一度の江の島ゴミ拾いに参加したという、
見た目も心も綺麗な地元カップルをパシャリ。
売店の店先でイカを焼いてくれた、白い頭巾の似合う
笑顔のやわらかなおばちゃんをパシャリ。
「あっ」と思う人を見つけては、取材をするため、
岩場をみんなでひょこひょこ降りて、合法(?)的なストーカー。
最初の声のかけ方や、依頼までのやりとりなど、
いろいろ工夫して、班員で協力して進めていけるのが楽しい。
午前中の取材の時間はあっという間に過ぎて、
お昼を食べ、午後はまた別のプログラム。
フォト部と映画部、好きな方を選んでそれぞれ活動。
私はその大きな機材に惹かれて、映画部に同行し、旅部のCMづくりのための撮影。
その本格的すぎる機材に、道行く人が皆、振り返る。
テレビかな、芸能人かな、と。
それがなんだかおかしくて仕方ない。
歩きつかれて、遊び疲れて、もうクタクタ。
帰りのバスは、ファナティック読書会で盛り上がる人もいたが、私は夢の中。
とても楽しい旅だった。
編集班は、皆優しくて面白い人ばかりで、
帰ってから、撮った写真を集めたり、記事にまとめたりして、
どんな雑誌のページが出来上がるか、楽しみである。
普段海のない県に住んで、満員電車にすし詰めの生活だから、
開放的な海風がとても気持ちよかった。
Facebookの閉じられた旅部グループページに
撮ったばかりの写真が次々上げられていって、
それを見ては隣にいた人と一緒に感想を言い合って盛り上がれるのが本当に楽しかった。
さっき見た綺麗な景色が、
一緒にいたあの人の面白い表情が、
ほほえましい光景が、
「え? こんなのどこにあったの?」というようなちょっとした場面が、
たくさんたくさん切り取られていく。
こんなの一人旅はもちろん、旅行会社のパックのツアーとも違う。
サークルの合宿ともちょっと違う。
「大人のための修学旅行」
ほんとだ、学校のクラスみたいだった。
卒業アルバムを覗いて、わーきゃー盛り上がっているみたいだった。
ほぼ初対面なのに。
ただ、一つだけ、
ひっかることがあった。
……みんな、かわいいのだ。
すっごく。
話をしていてもそうだし、
特に写真に写った女の子(女の人)たちを見ると、それをより強く感じた。
カメラの前なのに、
ひるまない。表情がゆがまない。
わざとらしさや厚かましさはもちろんなく、
それでいてぼーっとしているわけでもない。
そこにいる確かさがある。
ちょうどよく、こちらに「いること」を訴えかけてくる。
惹きつけてられてしまう。
さりげなくかわいいのだ。魅力的なのだ。さりげなく。
カメラ写りに限ったことではない。
彼女たちの惹きつけ力は、
カメラを向けられた時だけでなく、
ただ話しかけられたとき、視線を向けられた時にもそうだった。
惹きつけというか、相手との距離の取り方。
私のように、おろおろしたり、恐縮して一歩退いたり、
かと思えば媚びてせめ寄りすぎたりせずに、
ちょうどいい間隔でいられるのだ。
それが羨ましくて仕方なかった。
私も「さりげなくかわいい」でいたい。
「かわいくなりたい」と思っているなんて、
恥ずかしくて今まで誰にも知られたくなかった。
「え? おまえが?」
と馬鹿にされるのが嫌だった。
「かわいくなるために」努力するなんて、
もっと恥ずかしくて知られたくなかった。思われたくなかった。
だから、そのための努力なんて初めっから諦めていたし、
「そういうの興味ないんです」と、女の子が好きそうな話題や、
見たら羨ましくなってしまうであろう、かわいい人たちは、
意図的に無視し続けてきた。
でも今回は無視できなかった。
そして気づいてしまった。
「かわいい」に憧れを持ちながらも、無理して抑えていたことが、
自信のなさや、人見知りにつながっているということ。
それに、
たまに膨らんでしまう自意識の対処に困るために、
うまく人との距離をとれないのだということに。
私でも、ちょっとくらい、
「かわいくなろう」としても、いいんじゃないかと思ってしまったのだ。
旅部に参加しなければ、こんな夢、持たずにすんだだろうに。
夢なんて、持ってもすぐ消える。
私には無理かな、と思ってしまえば、簡単に諦めることができる。
夢を持つことを馬鹿にしてしまえば、簡単に捨てることができる。
夢なんて、そんなものだと思っていたのに、
ここでは違った。
あんなふうになりたい
こんなことしてみたい
――そう? ならやってみればいいよ。
いや、でも……
――どうすればできるか、わかる人、その道のプロに聞けばいいんだよ。簡単じゃん。
私にも、できる?
――もちろん。素人だろうが関係ないよ。すごく楽しいよ。一緒にやろう?
どこからか、そんな声が聞こえてくるのだ。
天狼院旅部に集まる人。
写真なり、映画なり、ライティングなり、小説なり、演劇なり……
興味の対象は違えど、
ここにいる人は皆、自分の夢にも、他人の夢にも肯定的で、
子どものように、純粋にそれを追いかけ、楽しんでいる人たちだった。
これまでいた環境とか、
他人の視線とか、
過去のトラウマとか、
原因は何かは分からないけれど、
自分の大小の「やってみたい」「なってみたい」に、
大人はたいていブレーキをかけている。
海の大きなエネルギーをもらったのか、
非日常な出来事に心が開放的になったのか、
集まった人のポジティブな空気にそうさせられたのか、
旅部は、私の中にある無意識のブレーキに気づかせ、とっぱらってしまった。
ああ、旅部に参加しなければ、
興味のないふりをして、黙っていられたのに。
地味で人見知りな女の子、に安住していられたのに。
夢に近づくための努力なんて、面倒で恥ずかしいこと、しようと思わなかったのに。
明日、
【6/4 Sat.天狼院女子部】今最も勢いのある女性誌「ar(アール)」編集長・笹沼彩子さんトークライブ〜「雌ガール」「おフェロ」はどうやって生まれたの?女子の心をぐっとつかむブームの作りかた〜
明後日、
【東京6/5(日)】15名限定!ガールズフォトの巨匠・青山裕企氏によるポートレート講座/自分史上最高にセクシーな自分に出会う!
そんな私の夢を、楽しく叶えてくれそうなイベントを
目の前に出されてしまったら、
参加をためらう理由がどこにあろうか?
天狼院は四次元ポケットみたい。
もちろん道具を使うかどうかは、自分次第なのだけど。
天狼院旅部。
みんな、それぞれ大小さまざまな、純粋な夢という、
キラキラした宝石のような何かを抱えて集まって、
帰るころには確かにクタクタだけど、
接触による化学反応でさらに輝きを増して帰っていく。
7月末にも、今度は泊りがけで、旅部が開催されるそうだ。
次は私も、自分の中に見つけた原石を胸に、また参加できるといいな。
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