大人のあなた、将来の夢はなんですか?
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記事:栗(ライティング・ライブ大阪会場)
「ママの将来の夢って、なあに~?」
子供が幼稚園児のころ、いきなりこう聞かれて言葉に詰まったことがある。
「ママ」に「将来の夢」ってあるんだっけ? そもそも大人になっても「将来の夢」って持ってもいいんだっけ?
2人の娘は無邪気に話している。
「私は将来、モデルになる~」
「私は幼稚園の先生になりたい~」
そういえば私の夢って何だっけな……。
遠い記憶を探って、真っ先に思い出したのは10歳ごろ。クラスメートは私を「原始人」と呼んでいた。なぜかというと、外で遊ぶのが好きでいつも日に焼けて真っくろだし、休み時間は校庭の登り棒やうんていに一目散。それに、給食の早食い競争が一番燃える時間、という子だったからだ。
当時の願いは、洞窟に住みたい! そして木に飛び移るターザンみたいな生活がしたい! ということ。自然の中で自由に生きたい少女だったのだ。
ある放課後、いつものように仲よしのさっちゃんの家へ遊びに行った。すると隣の家が空き地になっている。庭だけが残され、その真ん中に大きな木があった。なんて楽しそうな庭! 登るのにうってつけの木だ!
「さっちゃん、ここに家をつくろう!」
興奮した私は叫んだ。昔、テレビで見た木の上に建てられたツリーハウスを思い出したのだ。周りには古い板や段ボールが山積みに置かれていて、材料には困らない。ターザンとまではいかないが、ツリーハウスでも十分エキサイティング!
それからは毎日、2人で集まって家づくりに夢中になった。ドアの代わりに板で囲って、段ボールを壁にして……。中に入り込むと木のいい匂いがした。太い幹に座って、さっちゃんと私は持ってきたおやつを食べた。風に吹かれながらジュースを飲んだり、なんて素敵なひととき! それは世界に1つだけのツリーハウス。
それからの1週間はワクワクしかなかった。そしてやっと完成に近づいたある日のこと。いつものようにさっちゃん家へ向かうと……。何かが違う。なんと、ツリーハウスがない! もぬけのから! 一体どうした。
どうもさっちゃんのお父さんが、木から落ちるのを心配して全部捨ててしまったらしい。あんなに頑張ってつくった板の囲いも段ボールの壁も。お父さんは私たちに向かって怖い顔をして言った。
「木に登ったらいけないよ。女の子でしょう?」
がっかりだ。大好きなツリーハウスがなくなってしまった。もうあんなすばらしい場所なんて見つからないし、探すのもむだなんだ。
なんとなく気が抜けた私たちは、それからあまり一緒に遊ばなくなった。高学年になり、さっちゃんは隣町に引っ越していった。あの木も切り倒されて新しい家が建った。私は外で走り回るのをやめ、「原始人」と呼ばれることもなくなった。
それ以来、木に登る機会もなく、私はそれなりのレディーに成長した。進学し、就職し、結婚、出産……。忙しいけど充実した日常。愛する家族とやりがいのある仕事。幸せと思える毎日が続く。
でも、娘に将来の夢を聞かれたとき、私の頭の中で聞こえたささやきとは……。
「あの「原始人」はどこへ行った?」
「あのツリーハウスはどこへ行った?」
いきなり思い出した木と風の匂い。自由と冒険と創造の世界、あのツリーハウスには全部あったというのに、すっかり忘れていた。
あのツリーハウスを実際に壊したのは、さっちゃんのお父さん。でも、自分の夢の中から消してしまったのは自分。夢を追うなんてむだと言い聞かせたのも自分。でも、大人になっても、いや、むしろ大人になった今だからこそチャレンジする意味があるんじゃないか。たとえどんなにささいな夢であっても。
「ママの夢はね、ターザンになること!」
「ターザン!? ターザンってなに?」
それからは、自分のできるチャレンジから始めてみた。
土を感じたくて市民菜園を借りて野菜づくり、山登りの会に入って低山にトライ、田舎暮らしの本を買ってどこに住むか妄想、富士山のふもとのグランピングに行き、薪割りと薪ストーブに挑戦、などなど。
そして、最近になってとうとうツリークライミングに初挑戦した。よその子供たちに交じって汗だくだったが、気持ちはなんとも晴れやかだった。高い木の上から見える景色がまた最高! こんな大人の自分でも木登りをやっていいんだね。
「おばちゃんも登るの?」
と隣で聞いてくる男の子。
「おばちゃんも登るんだよ! 登っていいんだよ!」
不思議そうに見ているその子に、そう言えた自分がちょっと誇らしかった。
大人になったんだから、もう誰かに「○○してはいけない」と言われる時代は終わったのだ。大人もママもおばちゃんも、将来の夢を持っていい。まだまだ先は長いんだから。さて、次は大人のためのツリークライミングクラブでもつくって、本格的にターザンになる研究を始めてみようかな。
大人のあなた、将来の夢はなんですか?
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