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あらためて「生きねば」と思った話


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記事:黒﨑良英(ライティング・ゼミNEO)
 
 
人間、誰しも向き合わなければならない何かと向き合わなければならない時がくる。
と、言えば聞こえはいいが、その実、向き合わなければならないことなのに後回しにしてしまったものの、そのツケが来たということだ。
私の場合は、幼少時からの持病がそれだった。
 
この一週間、私は県立の病院に入院していた。透析治療のためである。
透析とは、体の濾過器であるはずの腎臓が機能しなくなり、代わりに機械を通して血液を浄化する治療のことである。
 
そう、私は幼い頃より腎臓を患っていた。
小学校に上がる前に、2,3年ほど入院していたこともある。その後も短期の入退院を繰り返すこともあったが、高校時代に大きな治療をしてからは、しばらく落ち着いていた。
大学を出て社会人になってからも、数値こそ通常の値より悪いが、それでもその値は上下せず、そして特段悪い症状も出なかった。完治したとは思わないものの、これで何とかなるのだろうな、と漠然と思い込んでいた。
 
ところが、2021年のあたりから、事態が動く。
毎月の血液検査で経過を見ているのだが、計るごとに毎月毎月、悪化していくのである。数値はどんどん落ち込み、それに伴い、体の疲労は以前より増してきた。
この数値の悪さは、血液の汚さと一緒。そしてその値は、通常なら、いつ多臓器不全を起こしてもおかしくない値であった。
 
医師は当然、透析治療を薦める。しかし、私はそれを、すぐには良しとできなかった。
治療自体も、週3回、4時間の拘束を強いられる、かなり酷な作業だ。
さらに、先にも言ったように、これは機械を通して腎臓の代わりにすること。すなわち、本来の腎臓に見切りをつけるということである。
私にはそれが、どうしても許せなかった。
今まで大事にしてきた、それこそ金と時間を注いできた腎臓である。
両親の愛情が詰まった腎臓である。大勢の人の手で守ってもらった腎臓である。
それに見切りをつけるのは、そう簡単にできなかった。
だからこそ、まだ大丈夫、まだ大丈夫、と、本格的な治療を後回しにしてきたのである。
 
結局は周囲の、それこそ両親の説得もあって、私はこの治療に臨むことになったのだが、思うところがないでもない。
 
ただ、治療するうちに、一つの考えが芽生えてきた。
 
私は今まで、あまり、おおっぴらに自分の病のことを話すことはしなかった。
以前、恩師である医師に言われたのである。
 
「どうして自分だけが、と思わないで」
 
と。
その通りだと思った。入院中、機械に囲まれて寝たきりの子どもを見たことがあった。また、何度も手術をしている子どもにも出会った。
当然、不幸なのは自分だけではない。いや、不幸ですらない。もっと大変な同士がいるのだから、弱音を吐いてはいけない。
大人になるまで、私はこの信念のもとに過ごしてきた。
 
だがそれは、結果として自分の体を痛めることにつながってしまったようである。
 
私は公立高校で教員の職に就いた。
だんだん世間にも知られるようになってきたが、教員の仕事は多忙を極める。
授業の準備はもとより、学校運営の仕事、係分担の仕事、そして部活動の監督、などなど……挙げていけばきりが無い。
帰宅時間も22時を超えることが常であった。
 
だが、「私は腎臓を患っているので仕事を少なくしてください」なんて言えるはずもない。いや、無論、持病があることだけは申告していたが、さりとてそれを理由に、仕事をしないなんてことは絶対できないと思っていたのである。
 
それが祟って、現在に至るというわけだ。本当はどこかで自分の病の重大さと向き合わなければならなかったのに、今では後の祭りである。
 
だからこそ、今は、少なくとも今年は、体を大事にしようという考えが、自然と頭に浮かんできたのである。
治療を優先に、体を休めることを優先に、1年を過ごそうと考えた。
それこそ、「自分は病気を治療することを優先するので、大変なことはしません」くらいは言えちゃいそうである。いや、言わなくてはならない。
今まで病気に甘えることは悪だ、怠慢だ、と思ってきた。
しかし、これは甘えることではない。
親より授かった体を、大切にすることであり、愛することである。
悪いわけがない。
まだ両親への恩返しもできていない。志も半ばだ。
中年にさしかかったとはいえ、ここでくたばるわけにはいかないのだ。
 
4時間という治療のための拘束時間は、様々なことを考えさせてくれる。
利き腕は固定されている上に、ネットも使用できない。本を読んだり、思考したりするくらいだ。
 
隣の機械を見る。
チューブの中を、真っ赤な血液が通る。それを見て、思う。
 
生きねば。
 
 
 
 
***
 
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2022-04-13 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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