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メディアグランプリ

夢の中へ連れてって。そしてちゃんと連れて帰って。


記事:安達美和(ライティング・ゼミ)

今から言うことが本当かどうか、わたしだってよく分かりません。だから、信じなくて良いんです。

でも、全部が全部ウソだと決めつけてしまうと、なぜか泣きそうになるから、ほんの一部だけは、きっと本当のことなんです。

だから、その、普通に聴いてください。でも絶対に最後まで聴いて、お願い。

 

わたしは11才まで夢遊病でした。知ってますか? 夢遊病。寝ているあいだにフラフラ歩いちゃったり、楽しげに喋っちゃったりする病気。病気? ていうか、症状。わたしは別に病気だったわけじゃないもの。絶対に違うもの。

 

もちろん、毎日そうってわけじゃありませんでしたよ。朝までちゃんと自分のベッドで良い子に眠っていられる日だってありました。太陽がまぶたをあっためてふと目を開く時、ちゃんとお布団の中にいられた時のホッとした気持ち。良かった、ちゃんと眠れたわ、って。どこかお散歩へ行ったりしなかったわ、って。

 

でも、そんな風に思っていると、ほーらきたきた、また眠りながら歩いちゃうの。そして、朝ハッと目が覚めると、リビングの床に横たわっていたり、台所にいたり、ひどい時には玄関の外にいたこともあったわ。散歩中の犬と低ーいところで目が合ってしまった。

 

それで、タチが悪いことに、わたしは眠りながら歩く時、黙っていられなくて。

必ず泣くの。

 

わたし自身は覚えてないんだけど、姉がいつもそう言ってた。しかもその泣き方が、なんていうか……姉の言葉をそのまま借りると「今さっき自分が死んだことにやっと気づいたみたい」な、すごく絶望的な泣き方らしいの。もう何もかもおしまいだ、みたいな泣き方をするらしいのね。なにがそんなに悲しいんだか、目が覚めた後のわたしにはさっぱり分からないけど。

 

とにかく泣きながら家の中をグルグル歩き回って、食器棚からお気に入りのマグカップを取り出してはしまってをくり返し、気持ちよさそうに眠っていて飼い猫のモモをうどんをこねるみたいに両手で伸ばそうとしたり。お鍋をかぶってすりこぎを持って、構えていたかと思ったら急にその場に横になってスヤスヤ寝始めたり。

 

バカみたいでしょ? わたしもそう思う。でも、ひとつすごく心配なことがあったの。

 

それは、寝ている間に何かすごく悪いことをしてしまったらどうしよう、って。猫をこねてうどんにしようとするくらいならまだ可愛いけど、お金を盗んだり、誰かにケガをさせたり、そういう「マヌケ」じゃ済まないことを、いつか自分がしてしまう可能性だってあるわけじゃない。

 

江戸川乱歩の「二撥人」という短編小説を読んだことがある? 夢遊病患者の主人公が、眠っている間に殺人を犯してしまうお話。お話の中では、主人公は冤罪だったと分かるんだけど、これを読んだ時に思った。

 

冤罪じゃなかったっていう結末でも、何もおかしくないな、って。

 

言い忘れてたけど、わたしが眠りながら歩いてしまう時、必ず見ている夢があったの。決まって同じ夢。

 

わたしは、ミッキーとふたりで樽の後ろに隠れてる。遠くから、ディズニー映画によく出てくる、太った悪い犬、いるじゃない、あいつが集団で大樽を転がしながらすごい勢いでこっちへ迫ってきて。ミッキーが言うの。

 

「早く逃げなくちゃ!」

 

でも、一向に動かないのね。

 

「早く逃げなくちゃ!」

 

口だけはそう言うのに、逃げないの、ミッキー。そしてそのまま犬たちに見つかって。

その後の展開はいつも忘れちゃうんだけど。ひどい目にあった気がする。

 

逃げれば良いのに。バカなミッキーとわたし。

 

それがね、ある日、また別の変な夢を見るようになったんです。夢の中で、わたしはいつも悪いことをしている。カフェで隣り合わせたOLの食べかけのチョコドーナツを盗み食いしたり、舞台の本番中セリフを全部忘れて劇場から飛び出したり。

 

そうして、切羽詰って冷や汗をダラダラかいてると、決まって目の前に列車が飛び込んでくるの。そして、つるっとした頭にヒゲをたくわえた車掌さんが車窓から身を乗り出して、ニヤニヤしながらこう聞いてくる。かぶっている帽子のつばをツイーっとなでながら。

 

「乗りますかー?」

 

わたしはいつもなんの迷いもなしにその列車に飛び乗る。そして逃げる。見つかりませんようにと必死に祈りながら。このまま永遠に、誰にも見つかりませんように。

 

あの日も、夢の中で必死に祈りました。

でもね、ふと我に返ったんです。

 

この願いが叶ってしまったらもう戻ってこられないような気がする、って。

 

12才になる直前、わたしの夢遊病は治りました。今までのことがウソみたいに。それ以来、毎朝お布団の中で満ち足りた気分で目を覚まします。姉も、わたしが猫をこねなくなって喜んでいました。ずっと心配してくれていた両親も、ホッとしたみたいです。

 

だけど、時々思います。

あの日から変わらず、わたしはちゃんとわたしなんだろうか?

夢の中で列車に乗って逃げた自分。

一生、誰にもわたしを見つけないでほしいと願いながら逃げた自分。

 

もしかして、あの願いは叶ってしまったんじゃないだろうか。

 

だってね、小さなことかもしれないんだけど、わたしは元々クッキリとした二重だったんです。それが、夢遊病が治った時期から、完全な一重になってしまった。元が二重だったなんて信じられないくらい、つるんとした一重に。

 

今までお話した全部、わたし自身ウソのような気がして仕方ありません。でも、絶対どこかは本当だと思いたいんです。だって、なんだか泣きそうになっている。どこか遠くにいるわたしが。

 

誰か言ってくれたら良いのに。

君は生まれてからずっと変わらずに、安達美和のままだよ、って。

そしたら、なんて答えよう。

 

ありがとう、でも、違うんですって言ってしまう気がする。

 

***
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2016-07-07 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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