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水たまり容疑で逮捕された件


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記事:光山ミツロウ(ライティング・ゼミNEO)
 
 
「ったく、困った時だけ頼りにしやがってよう! 普段からお参りに来なさいっつうの!」
 
名指しでそう言われているような気がした。
 
穴があったら入りたかった。
 
やはり神様は全てお見通しなんだな、と思った。
 
昨年のことだ。
 
当時、私は離婚をしたばかりだった。
それも勢いで結婚した挙句の、スピード離婚を。
 
いい歳をしてやらかした、と思った。
 
どこでどう間違えたのか、映画『男はつらいよ』の主人公、車寅次郎の孤高で高等遊民な生き方に憧れ、独り身で何不自由なく生きていた私は、自分が求婚された上にいつの間にか結婚までしてしまうとは思ってもいなかった。
 
が、その8倍くらい離婚するとも思わなかった。
 
自分の静かな人生に結婚、さらスピード離婚という、自己主張が強くてリアルが充実してそうな人向けの派手なイベントが短い期間で立て続けに起こるなんて、全く予定になかった。
 
とはいえ、寅さんには申し訳ないが、予定になかった結婚にも意外に楽しい時間があったことも事実で、自ら離婚を望んだとはいえそこは人の情、過ぎ去った楽しい思い出をどう自分の中で処理したものか、未熟な私は混乱するしかなかった。
 
いやしくも独身の無頼派を気取っていた自分が、過ぎ去った結婚生活の思い出に未練を持ちはじめているその事実に愕然とし、自分とはいったい何者なのかと悩みに悩んだ。
 
アイデンティティの喪失といえば聞こえは良いが、要は一切の思考が停止してしまったのだ。
 
生まれて始めての感覚だった。
 
そんな時だった、ふと神社に行ってみようと思ったのは(現行犯で逮捕されるとも知らずに)。
 
いつ振りだろうか。
 
物心ついてから、かれこれ30年ほど、神社には初詣で年に1度行くか行かないかくらいで、数年行かない期間もざらにあった。
 
信心深さでいうと、水たまりくらいだったと思う。
 
藁をもすがる思いだった。
 
勝手ながら、神社に何か答えがあるような気がした。
 
天からの啓示が突然聞こえるとか、後光が差すとか、神様が思考停止で暗闇の中にいる私に人生のあたたかい光(のようなもの)を照らしてくださるのではないか、と期待していた。
 
甘かった。
 
非常に甘かった。
 
神様は私の水たまり疑惑を全てお見通しだった。
 
無論、光は差すには差した。
 
が、その光は、人生を照らす光といった類のものではなく、昭和の刑事ドラマの取り調べ室で、水たまり容疑で逮捕された者に向けられるスタンドライトの痛い光……神様のお怒りの光だった。
 
というのも、藁をもすがる思いで引いたおみくじの「神の教」の冒頭で、こんな御言葉が目に飛び込んできたからだ。
 
「難儀苦労のある時ばかり、神の御袖にすがる気か」
 
「えっ!?」
 
私は二度見した。
 
「難儀苦労のある時ばかり、神の御袖にすがる気か」
 
かなり抑えた筆致ではあった。
 
だからこそ、神様の強い感情的なものを感じた。
 
これまでおみくじを引いたことは、もちろんある。
 
が、そのほとんどが優しい御言葉、柔らかい御言葉だったような気がする。
 
人生まだまだこれからとか、良い経験が人生を豊かにするとか。
 
なのに、よりによってこのタイミングで、こんな水たまり容疑の核心を突く御言葉を目にするとは思いもよらなかった。
 
「難儀苦労のある時ばかり、神の御袖にすがる気か」
 
これは相当お怒りなんだろう。
 
信心深さの水たまり容疑で現行犯逮捕され厳しめの取り調べを受けた、そんな心地であった。
 
神様は私の水たまり具合を最初から全てご存知だったのだ。
 
ウチに来たら絶対に現行犯で逮捕してやろう。
 
万引きGメン(というか水たまりGメン)よろしく、糾弾の機会を窺っていらっしゃったに違いない。
 
ふと周りに目をやると、信心深さでいうと、いかにも大海原という感じの高齢のご夫婦や、太陽が降り注ぐ爽やかなビーチという感じの若いカップルが、おみくじに良い御言葉が書かれてあったのだろうか、それぞれに互いのおみくじを見せ合い、笑い合い、はしゃぎ合っていた。
 
水たまりの私だけが、ひとりだった。
 
以来、私は毎月1日には必ず神社にお参りをするようにしている。
 
いわゆる一日参りだ。
 
アメリカの心理学者ロバート・ザイオンスが提唱した心理効果にザイオンス効果というものがある。
 
単純接触効果ともいわれているこのザイオンス効果は、相手に何度も繰り返し接触することによって、だんだん好感度や評価などが高まっていくという心理効果のことだ。
 
神様にザイオンス効果が有効かは不明だし、ザイオンス効果を狙う自分がやや姑息な感じもしないでもないが、引き続き私は一日参りを続けていきたいと思う。
 
今のことろ水たまりは、公園の噴水くらいにはなってきているような気がしている。
 
 
 
 
***
 
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2022-04-21 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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