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メディアグランプリ

脳内麻薬がドバーッと出るようになるかもしれない外国語学習のススメ


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記事:前田 光(ライティング・ライブ東京会場)
 
 
まだあまり親しくなっていない人に趣味を聞かれたときに「外国語を勉強することです」とちょっと口にしづらいのは、私が向学心あふれる人間だといった誤った情報を相手に与えそうだからだ。本当にそんな風だったらどんなによかったかと思うが、現実は違う。私が外国語を学ぶ理由は、それを仕事にしたいとか明確な目的があったりするからではなく、学習過程で時々、ある種の快感が得られることがあるから。それは自分の意思が相手に伝わったときに湧き上がってくる「っしゃー!!!」な瞬間だ。
 
留学から帰って来て最初に就職した会社で、上司と私で海外生活の話に花を咲かせたことがある。私は入社前に中国に留学しており、学食の中華料理に飽きてくると留学生仲間と料理を作って楽しんでいた。食材の調達はもっぱら青空市場。スーパーマーケットもあるにはあったが当時の品ぞろえは加工品と外国からの輸入品が大半だったし、たまに生鮮食品が置いてあっても鮮度が極端に悪かった。そもそもスーパー自体が北京など大都市の限られた場所にしかなかった時代だ。ただ、私たち留学生は大学内の外国人教師専用宿舎に併設された食堂で食材を売ってもらえたから、市場に行く時間がないときや雨の日には、厨房のおじさんに「鶏肉ある?」などと声をかけて、食材を分けてもらっていた。
 
留学して日が浅かったころの話だ。数人でお好み焼きを作ることになり「豚肉とイカだけは外せない」と全員の意見が一致したが、近くの青空市場では魚介類があまり売られていなかったため、たまたま私がこの厨房に行くことになった。「誰かいます?」と声をかけると中からおじさんが出て来たが、そのときになってイカを中国語で何というのか知らなかったことに気が付いた。一瞬しまったと思ったが、とっさに「海の中にいて足が10本あるやつちょうだい」と口を突いて出た。笑われるかと思いきや、おじさんは無言で厨房に戻ると洗面器のようなホーローのたらいを抱えて帰ってきた。見ると中にイカが何バイか入っている。やった! こんなとき、私の頭の中で脳内麻薬分泌スイッチがオンになる。
 
「こういうときって本当に爽快ですよね」と上司に言うと、上司も自分の体験談を話し始めた。英語が堪能な上司は、若いころブルガリアに駐在していた。1970年代のことだ。単身赴任だったから身の回りのことは自分でしなければならなかったうえ、円は当時1ドル360円の固定レート。使えるお金が限られていたから普段から自炊を心掛け、よく同僚の日本人と連れ立って青空市場で買い物をしていたそうだ。
 
あるとき上司と同僚が連れ立って卵を買いに行ったところ、その日に限って市場のどこにも見当たらなかった。上司は「今日はもう諦めて帰ろう」と言ったが、同僚はどうしても翌朝にオムレツを食べたいから見つけるまで帰らないと言い張った。そして売り子の目の前に立つと「コケーッ!!!!」と大声でニワトリの鳴きまねをし、腕をバタバタ上下させて股の間から「ポンッ!」と卵が産まれるものまねをした。恥をかなぐり捨てたような渾身の演技に上司があっけにとられていると、売り子の娘さんはパッと顔を輝かせ「あーあれね!!! 分かった!!!」と(多分)言うと、後ろの方から卵を出してきた。もちろん同僚はそれを見て大いに喜んだそうだ。
 
上司は「英語が通じひんかったから、日々の買い物はいつも身振り手振りと片言のブルガリア語でなんとかしようと必死やったけど、さすがにあれはすごかった。ワシにはできひん」と笑った。当時のブルガリアはアジア人も少なく、上司たちは歩いているだけで注目を浴びる存在だっただろうに、どうしてもオムレツを食べたいという欲求がその人をニワトリのものまねに駆り立てた。その場にいた人は大笑いしたのだろうか。それとも言葉の通じない外国人は大変だなと思いながら眺めていたのだろうか。ちなみに私はこの話に腹を抱えて笑い倒した。同時に、この人も卵が出てきたときに脳内麻薬が大放出されただろうなと思った。誰かと意思疎通ができるって、本当にうれしいことだ。
 
そう、私は外国語を学ぶことでうれしくなりたいのだ。誰かに何かを伝えたいという欲求は誰しも持っているはずだが、私の場合はそれが他言語で実現したときに大きな喜びを感じるようだ。だからAI翻訳機は使う気にならない。自分でやりたい。誰かや機械に任せると、書籍でいう「行間」の部分、つまりニワトリのものまねすら辞さないような熱い想いがごそっと抜け落ちる気がするから。
 
今私が楽しんでいるのはスペイン語とイタリア語だ。だがこれからこの言語を飯の種にしようなんて大それたことは考えようもないし、当面は海外旅行に行くこともないだろう。きっかけは惣領冬美先生の超大作『チェーザレ・破壊の創造者』だった。この漫画を拝読して、チェーザレ・ボルジアが使った言葉に私も触れてみたくなったのだ。「お金にもならないものを勉強して何になるの?」との声も聞こえてくるが、いいじゃない? いつか使う日がくるかもと思いながら、ただ学ぶことが目的になったって。それが趣味ってもんでしょう。
 
 
 
 
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2022-05-03 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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