メディアグランプリ

この夏、ベトナムで明石家さんまに出会った


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記事:つん(ライティング・ゼミ)

 

「いやー、しかし外はほんまに暑いな。あ、トイレは行かなくて大丈夫?」

私は耳を疑ったが、そう言ったのは紛れもなく、ベトナム人のドックさんである。この旅のツアーコンダクターを務めてくれる男性で、彼が私を3日間案内してくれると聞いていた。

「あのー、つばさと言います。はじめまして。ドックさんですよね?」

「はい、そうです。よろしくね!」

こんなことがあっていいのか。なぜ旅行者の私から彼の名前を確認しているのだ。おかしい。しかも関西弁。見た目も完全に日本人だ。騙されているのか……。

 

私は毎年夏になると、一人旅を決行する。夏が呼んでいる! と言うと恰好つけすぎだが、毎日の同じルーティーンを繰り返す仕事や業務から飛び出して、ほかの世界を見に行くことが自分の思考を深く、やわらかくしてくれることに気付いてしまったからだ。それがちょうど、5年前の夏。それから私は常に1人で、旅をし続けている。今年の夏はベトナムへ。きっかけは全く覚えていないが、躊躇なくベトナム観光と孤児院での交流の旅を選んだ。8月12日。私は今年の新たな出会いと発見に期待し、日本を旅立った。

 

そのスタートが、ドックさんとの出会いである。強烈な関西弁をくらわされた私は、久しぶりに言葉を失い、しかしわずかに感動していた。なんでこんなに日本語が上手いのだろう……。私はこの人から必ずその能力を盗み取るべく、ヒアリングを開始したのだった。

聞くとドックさんは中、高校時代はロシア語専攻。大学は英語を勉強し、ニューヨークへ留学もしていたのだという。しかし最もはまったのが日本語。言語にとどまらず、日本という国自体に惚れてしまい、ベトナムに行きつけの日本料理屋ができてしまったほどだった。そこで、ドックさんは運命の出会いを体験する。それが、ある日本の自動社メーカーの社長との、偶然の隣席である。たまたまベトナムに支店を出したかった社長が、そこでドックさんと意気投合。連絡先を渡してこう言った。

「いつでも連絡してきてくれ。嫁候補を用意して、日本で待っているよ」

よこしまな……いや、日本を勉強したいという熱心な気持ちが大きく、ドックさんは1年の期限付きで来日。そこから社長の役に立ちたいと、日本語の猛勉強に励んだ。自動車の製造の仕組みを日本語で学び、ベトナム語でアウトプットしながら現地の人々が自動車の生産に携われるようにと、自分なりにノートをまとめて復習したという。私はただただ茫然と話を聞きながら、その行動力と向上心に感服しっぱなしだった。

「でも、大事なのは言葉を学ぶまじめさじゃない。ユーモアなんだよ」

ドックさんはにっこりと笑いながら、こう話した。

「え、ユーモア?」

私は思わず聞き返してしまった。ドックさんは話す。

「これは国とか関係ないよ。相手の話の間を感じ取って、どうすれば笑わせられるか、それを考え抜くんだ」

何を言っているんだドックさん……。あなたはコメディアンじゃないんだから……。そう思いながらも、さらに話を聞いてみる。

ドックさんが言いたかったのはこうだ。人との会話には必ず、絶妙な「間」というものが存在する。それは言葉と言葉の間のことでもあるし、相手との見える距離感であったり、あるいは考えをまとめるためにあえて設ける時間のことでもある。それは国を超えて存在し、個人と個人の関係によって違うのだ、と。

「それを感じ取ったら、第1段階クリア。次はこの人のつぼを探す段階だ」

ドックさんには、「間」が見えるという。それを見つけた後は会話をしながら、その人が笑う瞬間を見逃さないように探す。けして警戒されないように、さりげなく。そして、その笑いスイッチを押せるように、何度も何度も会話の中身を調節する。そして、人の心に近づいて行くのだ、と。

私には2つわかったことがある。まずはドックさんの日本語が上手い理由。それは言語能力や、その知的能力が高いことだけではない。ドックさんは、対峙する人間そのものに対する、「知りたい」という欲求が高いのだ。だから向かい合う人が一番リラックスできる状態を作ろうとする。それが日本語にとどまらず、彼の言語能力を向上させる。それは日本人独特の「えー」とか「まー」とかいう言葉の使い方が日本人以上にうまく、「とんでもない」とか「ほめすぎでしょ」といった謙遜を適度に使用するドックさんの話し方を見れば一目瞭然だった。そしてもう1つ。ドックさんは、最短距離で相手との距離を縮めるために、笑いを用いている。それはこわばった2人の間の空気を和ませる、最強の手段だとドックさんは話す。大阪は、それには最適な地だったと。漫才、落語、新喜劇。街を歩けばおもしろい話をする大阪のおばちゃんがたくさん。その1つ1つをメモし、記憶し、ビジネスの会話に織り交ぜることで、交渉はみるみるうちにまとまり、大きな金額が動かせるようになったと、嬉しそうに話す。笑いは国を超えた武器。だからこそ真剣にもがき苦しみながら、相手を楽しませる方法を考えるのだ、と。

「僕、将来の夢は明石家さんまになることなんだよねー」

ドックさんは去り際にこう言った。本気だった。笑っていたけれど、あの目は、確実に本気である。私は5年後のベトナムのテレビ番組にドックさんが出演する姿を想像し、小さく微笑んだ。

 

私はこの夏決めた。英語はできなくても、せめて、ドックさんの心持ちには負けない女性になりたい。会話する相手の国籍にとらわれず、まずは相手を知ろうとする姿勢で、まっすぐに向き合ってみたい。それが営業としての私の姿を、少しずつ少しずつ、大きくしてくれるはずだ。

 

青い空が広がる。今日も日本は暑い。

「あー、ほんまに暑いな。溶けて小さくなるわ。あ、池乃めだかちゃうよ」

またどこかで声がする。

 

この空のはるか向こうに、彼はいる。

ベトナムの明石家さんまに向かって、私は大きく笑顔を送った。

 

***
この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。
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2016-08-25 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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