ナンパお兄さんにインタビュー 〜人生色々ある〜
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:内野真紀(ライティング・ゼミNEO)
「ねぇ、なんでそんなに俺好みなの?」
23時20分の池袋駅。
私は電車に乗って家に帰るところだった。
うまくいっても帰宅するのは24時ぴったりくらいだろう。
私は疲れていた。
「すみません、仕事帰りで今すぐ帰りたいんで……」
そう言って私は改札に向かう。
それでも彼はついてきた。
「俺も仕事帰りなんだ」
「だったら家に帰りましょうよ……」
そのまま改札に入れば良いのだ。
しかしそうは思っても勝手に話を切り上げて去るのも申し訳なく、改札に入るスレスレのところで私は立ち止まった。
「私、本当に帰りたいんですけど」
ここまで誠実に対応しなくたっていいのだろうが、なにはともあれ私は優しいのだ。
20分後、私は無事に家の最寄り駅に着き、歩いて家に向かうところだった。
……と言いたいところだったが、結局私は最寄駅ではなく池袋の居酒屋にいて、ナンパしてきた例のお兄さんと飲んでいた。
「あぁ、結局優しすぎるせいで相手に流されてついて行っちゃったのね」と思うかもしれない。(特に私の母はそう思ったかもしれない笑)
でもこうなったのは優しさのせいではない。
私の好奇心のせいだった。(まったく……)
彼は(建前だろうが)「誰かと話したいだけだ」と言った。
そして私はかねてからナンパをするお兄さんに直接聞いてみたかったことがあった。
だったらちょうどいいのでは?
「……じゃあ、少し話しましょう。でも、私には彼氏がいるし、一杯飲んだら絶対に帰りますから」
そういうわけで、私たちはお酒一杯分のおしゃべりをしに居酒屋に入ったのだ。
しかし、わたしが聞きたいことを彼から聞き出すことは簡単ではなかった。
彼にとっては不利益でしかない質問ばかりだったからだ。
例えば
「いつもどうやって女の子に声かけてるの?」
「どんな気持ちで声かけてるの?」
「そもそもどうしてナンパしてるの?」
とかそう言ったことだ。
言ってしまえば、これは「インタビュー」だった。
あまりにも現実的すぎて、色気なんてものは無い。
しかしそんな質問にも焦ることなく、彼はさらりとはぐらかして別の話題に変えるのが上手だった。
まるで、ドッヂボールの試合で最後までフィールドに残った人がするような、巧妙なよけ方をした。
思わず感心するくらいだ。
また、彼は平然と嘘をつく人だった。
わたしが彼の名前の由来を聞き返しても
「俺の両親は忍たま乱太郎が好きでね、そのテーマソングの『勇気100%』からユウキってつけたんだ」とかいうテキトーすぎる返事をする。
何を聞いてもそんな調子。
会話に全く手応えがない。
ボールを投げても投げても、全部外野に飛んでいくような感じだ。
さすがに嫌気が差してきた。
「ねぇ、どうしてバレバレな嘘をつくの?」
「別に真剣に嘘つこうと思ってないもん。今が楽しければいい」
へぇ。
「聞いてもバカにしないから本当のことを話してよ」
「真面目なんだね。でも俺はバカにされるのが怖いんじゃない」
「じゃあなんなの?」
「……」
「教えてよ」
「……」
彼は何も言わなくなった。
沈黙。
その間に、彼の表情はだんだんと真顔に変わってゆく。
やがて、息を吸い込み、ため息を吐くように彼は言った。
「俺はバカにされたって、死ねと言われたって、そんなことはどうでもいい」
「それならどうして話さないの……?」
「……本当に話す?」
「聞きたい」
「少しでもこの先の可能性があるなら俺は絶対に話さないけど」
「この先の可能性なんて全くないから大丈夫だよ」
私がそういうと、さすがに彼も吹き出した。
「俺もそんな気がしてきた」
そうしてようやく、彼は語り始めてくれたのだった……
「俺ね、普通にしていればモテるんだ」
ほう。
確かにそう見えた。
だからこそ、なぜ彼がナンパをしなければならないのか気になって話を聞こうと思ったのだ。
「相手が何を求めているのかが俺には分かる。だから相手に好かれるのは簡単なんだ」
「じゃあどうして彼女作らないの?」
「今そんなことをしていても俺は幸せになれないとわかったんだよね。相手に求められるがままに与えるのはもう嫌なんだ。俺はただ素直になりたい」
「あんなに嘘ついていたのに?(笑)」
「素直になりたい部分だけ素直になってるだけ。これから深い関係になるとは限らないのに、自分の嫌いな部分まで素直に見せる必要なんてないと思わない?」
「なるほど」
「俺はね、『この女の子が気に入った』っていう自分の気持ちとか欲求に素直になれていればいい。死ねと言われても、自分が正直で入れたことの方が嬉しいんだ」
「でも、ひどいこと言われて傷つかないの?」
「傷つく奴は傷つくよ。でも俺は本当の自分になるために毎日女の子に声をかけてるんだから、何を言われたってそんなことは本当にどうでもいいんだ」
「そっか……」
正直、「理解」ができても「共感」はできなかった。
「私ならナンパじゃない別の手段を取るけど……」と思ってしまうからだ。
でも、彼は彼なりに一生懸命考え、信じて行動している。
私が簡単に否定できるものではない。
いろんな人がいて、それぞれに事情があって、そのなかでみんな一生懸命生きている。
そんな当たり前のことを改めて思い出した……
「あ〜もう、全部ベラベラ喋っちゃったじゃん」
彼は悔しそうにそう言いながら笑って場を和ませた。
「いつもそうやって素直になればいいと思うけどな」
それができなくて苦しんでいるのだろうが、私はそう言わないわけにはいかなかった。
彼はにっこりした。
「じゃ、今から口説くよ」
彼が仕切り直して言うから吹き出してしまった。
「やってみな」
結局、彼は私を口説けなかった(笑)
当たり前だ。最初から言ったじゃないか。
しかし、もはや彼も本気で口説こうとしていなかった。
「終電大丈夫?」と彼の方から心配したくらいだ。
時計を見たら24時27分。
「うわ、やば……」
「走れば間に合うかもよ」
私たちは居酒屋を飛び出して駅へ向かった。
「泊まっちゃおうよ」
「やだ」
「俺も明日仕事あるからやだ」
「ハハハハハ……」
「応援してるよ」
心から言った。
それに対して彼は何も言わなかった。
「じゃ、LINE交換する?」
「しない(笑)」
必要なのはナンパではない。
私のLINEでもない。
それは彼自身がよくわかっている。
「明日にはナンパをやめていたりしないかな?」
そういう期待というか、願いをこめて、私は笑顔で手を振った。
***
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