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チケット転売問題はカオナシ問題でもある


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記事:Sono Mamada Den  (ライティング・ゼミ)

どうしても行きたいライブのチケットが、ぴあでもイープラスでもとれないとき、どうするか。

プレイガイドが物理的なお店しかなかった時代なら、友達ルートで伝手を辿るか、会場周辺で「どうしても見たいのです。余っている方1枚譲って下さい」などと手書きで綴られた紙のボードを指でつまみ、胸の前に掲げて待つのが正攻法だったか。直前に友だちが行けなくなった様子で余ったチケットを手にうろうろしている人もいて、そんな二人が出会うと、「あの、チケットありますけど」「わー、嬉しいです」みたいな声が聞こえてくることもあった。そこまで耳をそばだでていたわけではないが、転売利益は殆ど抜きの定価で取引されていたのだろう。買う側が気持ちの金額を乗っけるくらいか。地方紙だと「譲ってください、譲ります」みたいなコーナーもあったような気もする。

それより目立つのはダフ屋との取引だった。

往々にして反社会的勢力とのつながりが取りざたされて、各地の条例で取り締まられていたものの、つい10年くらい前までは、人気アーティストのライブ会場近くに行くと、おじさん(おばさんダフ屋は見たことがない)が独特の低い早口で、手に持ったチケットを軽くパンパンと叩きながら
「チケットない人、アリーナあるよ。余ったチケット買うよ。チケットない人、いい席あるよ」
と繰り返していたものだった。
稀に巡回の警官を見つけたりすると、ダフ屋のおじさんは、口をつぐみ、営業活動を中止して道端に佇立する。きっと警官とダフ屋との間で見えない攻防があったのだろう。「どーしてもそのアーティストが見たい」オーラを噴出したファンが、けっこう、ずけずけと値段交渉しているのも割とよく見かけた。女性10人くらいに囲まれて、押され気味だったおじさんもいた。ライブが始まって30分くらい遅れて会場に着いたときには、定価の半額で投げ売りコールしているダフ屋に出くわしたこともある。

転売利益が反社会的勢力に流れること自体問題だが、ダフ屋の中抜きする利益は、どのくらいだったのだろうか。交渉経験がないのでわからないのだけれど、定価の倍といったら、「ずいぶん高い」と思われていたのではなかろうか。実証できないのだけれども。

ところが、ここ数年、ダフ屋を物理的に見ることは、めったになくなった。利益目的のチケットの転売は専らネット上のオークションサイトや専用のサイトで行われているのだ。

オークションサイトにチケットが出始めた頃、1、2回、利用したことがある。定価の5割増しで落札。出品者から送付されて来たチケットには「思ったより良い席でなかったので、お詫びの気持ちです」という手紙と共に出品者の住んでいる地方の名産品が入っていた。あの名産品って出品者の手にした利益分くらいの値段だったような気がする。つまり物々交換込みだと転売利益なし。たまたま、出品者の住んでいるエリアでのライブだったので「こちらに来られて、お困りのことがあれば遠慮なく連絡してください」とも書き添えられ連絡先まで入っていた。ネット上の見知らぬ人との取引ながら、結構嬉しかったことを覚えている。

さらに時が進み、最近では人気公演チケットの転売価格は、定価の二倍、三倍は当たり前で、ネット上では
「これ、桁間違ってない?」
とつぶやいてしまうような高額の値段での取引が個人間で展開されている。人気ライブだと、定価の2桁上の金額も珍しくはない。オークションサイトでは、他人事ながら見る見るうちに「怖いよ」と思うような金額に吊上がることもある。

とは言え、利のあるところに市が立つ、のは当然と言えば当然。

チケットは突き詰めるとライブ会場に入って特定の座席に座ることができるための抽象的な権利にすぎない。

ネット上の転売に参戦している人たちのすべてが反社会的勢力というわけでもないようで、そうなると
「チケットが欲しい人が、出せるだけのお金を出してチケットを入手すること自体は、何がいけないの?」
という議論にも一理あるように思われる。

しかし、アーティストの生の姿に触れたくて仕方がないという気持ちと、その気持ちが落札金額という数値に置き換えられて勝負が決まる転売、オークションサイト。

なんだか、落ち着きが悪い。

出品者の提示条件はだいたい判で押したように「ノークレーム、ノーリターンでお願いします」というきっぱりしたもの。オークションサイトには大概出品者、落札者に対する評価欄があって、取引に入る人たちはこの評価欄の星の数を見て相手の信用を推し量る。信用までが数値化されているのだ。

気持ちも信用も数値化される世界でのお取引。

カオナシと取引しているみたいだ。映画「千と千尋の神隠し」に出て来た狂言回しのひとり。

映画の中、カオナシの最悪期の気持ち悪さは、金という尺度を釣り上げて千を動かそうとしていたところにあった。

この8月末、アーティストやイベンターが、チケットの高額転売を問題にして「反対します!」という新聞広告を打って話題になった。ネットでも賛否両論巻き起こっている。

論点があれこれ拡散している観もあるが、アーティストと時空間を共有したいという強い思いや、譲り渡し、譲り受ける人の事情も顔も見えない、カオナシとの取引になっているところも、考えどころではないかなぁと思う。

千と千尋の後半、ちょっと毒抜きされたカオナシは、寂しさを含めて感情を表すイキモノになっていた。

好きなアーティストのチケットって、感情込みで取引された方が嬉しくないかな。定価より少し高めに売れたチケットには、その地方の特産品が付いてくるなんて、悪くないと思うんだけどな。お互い「すいませんね」って言い合ってる感じがして。

チケットを買った後で都合が悪くなるとか、片っ端から申し込んでたら必要枚数より多くとれてしまったなんてことはどうしても起きるのだから転売問題が起きるのは仕方ないように思う。問題提起がされて、これから経済学者や法律家があれこれ議論していくんだろうけれども、デジタルな権利だの利益だの効率性だのだけでなくて、気持ちのやりとりができるシステムができるといいな、と思うのは甘いかしら。

カオナシが照れたように「すいませんね」って言いながら、チケットを差し出してくれたら、可愛いと思うのだけれど。

そんなシステムができるまでは、一番非効率、不確実な方法だけど、ライブ会場で「1枚譲って下さい」ボードを手書きで作って、恥ずかしそうに立ってみようかな。

「あの、1枚ありますよ」なんて声掛けられたら、その場限りのスポット取引でも、ずいぶん嬉しいだろうな、と思うのです。

 
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この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。
「ライティング・ゼミ」のメンバーになり直近のイベントに参加していただけると、記事を寄稿していただき、店主三浦のOKが出ればWEB天狼院の記事として掲載することができます。

 

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2016-08-30 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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