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メディアグランプリ

ひと粒のタネが人をゲリラに変える


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記事:かずお(ライティング・ゼミ)

今年の春、私は家の近所のあちこちにタネをまいて歩いた。何かの比喩としてのタネではなく、正真正銘、植物のタネだ。正確にはオクラのタネである。

私の趣味に畑が加わったのは4年目ほど前。兼業農家さんの農地の一角をお借りし、10坪弱(約30平米)の土地であれこれと季節の野菜を育てて楽しんでいる。

私が挑戦しているのは「自然農」と呼ばれるスタイルだ。化学肥料や農薬はもちろんのこと、土や身体にいいとされる有機肥料も使わない。ちょっと栄養が足りないかな、と思うときは、野菜の根本付近に米ぬかをまいて肥料代わりにしている。

何でもそうかもしれないが、農の世界もこだわり出すと奥が深い。たとえ趣味レベルでも、だ。「なんとか農法」といった流儀に厳格な人も多くて、「自然農」の定義だって、人によってマチマチだったりする。

私が自然農スタイルを気に入っているのは、そうした流儀の違いによる主義主張があってのことではない。ずぼらな性格にピッタリだからに過ぎない。

野菜づくりには手間のかかる作業がけっこう多い。できるだけたくさん収穫しようと思うと、いろいろとやるべきことが出てくるのだ。

でも私のスタンスは、運よく育った野菜をいただければありがたい、というゆる〜いもの。天候次第では不作のこともある。ちょうど収穫どきに虫に食われることも多いが仕方ない。せいぜい週末しか畑に行かない私に対し、虫たちは毎日そこにいるのだ。かなうわけがない。

こんなぐうたらな週末ファーマーでも、食にまつわるライフスタイルには多少の変化が現れた。いちばん大きいのは、買い物のときの感覚が変わったこと。

以前であれば、野菜が切れたらスーパーへ、という思考回路しかなかった。でも今では、家とスーパーの間に畑がある感じである。野菜が切れそう。でも週末になれば、トマトとジャガイモは畑で調達できるはず。じゃあ、とりあえずはレタスだけ買えばいいか、といった具合に。

些細なことかもしれないが、お金を出さずに手に入る食料の蓄えが家の外にある、というのは、けっこうな安心感をもたらしてくれる。自然豊かな地域に育った人なら、きっとあたり前のことなのだろう。でも東京に生まれ育ち、なおかつ賃貸暮らしで自分の土地を持ったことがない身からすると、とても新鮮な感覚だ。

ただひとつの難点は、畑には片道25分かかることだ。ママチャリではなく、変速ギア付きのスポーティな自転車で疾走して往復50分。脂肪が少しは燃えるというオマケはつくが、日々の食材を調達する場所としては、ちょっとばかり遠い。週末以外に気軽に行きたい距離ではない。

そこで、家の近所にもタネをまいちゃえばいいじゃん! そう思いついたわけだ。そうすれば散歩ついでに収穫できる。

でも、どこにまけばいいだろう? 私の住まい23区の西端。JRの駅からは徒歩7分と交通至便。住宅や商業施設ばかりで、当然ながらムダに遊んでいる土地はない。

日課にしている朝の散歩ついでに、あるいは仕事に向かう道すがら、キョロキョロと辺りを伺いながら歩いてみる。オーソドックスにまず目星をつけたのが公園だ。住宅密集地にも、小さいながら憩いの場としていくつかの公園が徒歩圏にあった。次によさそうなのが、車道沿いの街路樹の植え込みだ。

こういうところは明確に誰の土地ってものでもなさそうなのがいい。さすがに人さまの庭先に勝手にタネをまくわけにはいかない。

候補地の中から日当たりのよさそうなところを厳選し、数カ所に分散して大好きなオクラのタネをしこんだ。いい歳をした大人が道端にしゃがんでいると、なぜか奇異に映るらしく、じろじろと不躾な視線も浴びたが気にしない。

バス通り沿いの街路樹のふもとに、色鮮やかな大輪の花が咲き(ハイビスカスの仲間だけあってゴージャスなのだ)、スッと青空を見上げるようにサヤが伸びていく様子を思い浮かべると、ついニコニコしてしまう。その存在に気づいた通りすがりの人が、「あら、こんなところにオクラ? 誰が植えたのかしら? 採っちゃおうかな? いや、まずいかな?」などと逡巡するところを想像するのもウキウキする。

そう、街なかに食べられる野菜が育っているのって、なんだか楽しくないだろうか。実利的なメリットもあるけれど、農家でもないのに「生産者」気分を味わえるのもいい。みんなもやればいいのに!

そう思っているのは私だけではないらしい。ネットを見ると「ゲリラガーデニング」なる呼び名があることもわかった。ゲリラって……。ちょっと大げさだけど悪くはない。畑でもないところで野菜をつくろうというのだ。たしかにゲリラ的と言える。よし、今日から私もひとりゲリラ作戦を開始しよう!

そんなふうに人知れず興奮しながら、タネをまいたところを回遊するのが新たな散歩コースになった。

滑り出しは順調だ。どこもきちんと芽が出ている。スクスク育っておくれよ! そう見守る日々。

ある日、例のごとく巡回していると、恐ろしい光景に出会った。タネをまいた公園が親子連れで大にぎわいなのだ。あれ、どうしたことだろう? あまり人が来なそうだから選んだのに……。公園の使われ方は、曜日や時間帯によってまったく違うのだと思い知った。

ちょうど小さな芽が出ているすぐ脇にある、ごく低い柵を平均台に見立て、その上を小さな女の子がよちよちと歩いている。

わっ、危ない!

そう思った矢先、その子はよろりとバランスを崩し、トンと勢いよく地面に片足を着いていた。

はやる気持ちを必死に抑え、その子がお母さんに呼ばれて柵を離れたすきに現場を検証する。案の定、せっかく芽を出したオクラは踏みつぶされて台なしだ。

うーむ。

子なしの私は子どもの生態をまったく想像していなかった。そりゃあ、柵があれば上るよな。私だってよくやってたじゃん。遠い目で自分の子ども時代を思い起こしながら、読みの甘さを猛省した。

イヤな予感にとらわれ、その足でバス通り沿いの植え込みを確認しに行く。
なんと! こちらは跡形もない! 私のオクラだけではない。街路樹の根本がきれいサッパリ刈り取られているのだ。どうやら、定期的に雑草を刈り取っているらしい。草が勢いを増すのは初夏。その前に一掃しておくのは理にかなっている。

こういう管理は、通り沿いの商店街の仕事なのだろうか? あるいは行政から委託された専門業者がいるのだろうか? いずれにしても、こんなふうに街路樹が手入れをされているなんて気にもかけてこなかった。

かくして私のゲリラ初戦は見事に玉砕した。

季節はめぐり、秋まきシーズンの到来だ。春の失敗を生かし、今度はどこにまくべきか慎重に作戦を練る。東京のあちこちにゲリラが生まれたらいいのにな、と願いつつ。

 
***
この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。
「ライティング・ゼミ」のメンバーになり直近のイベントに参加していただけると、記事を寄稿していただき、店主三浦のOKが出ればWEB天狼院の記事として掲載することができます。

 

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2016-08-30 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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