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綺麗にするのは誰のため?


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:Pauleかおり(ライティング・6月ゼミコース)
 
 
大型商業施設のエレベーターの中、10名ぐらいいた。
ドアが閉まるや否や、静まった空間の中、70歳くらいの男性が
「口紅ぐらいつけろよ」
そばにいる同じくらいの年齢の女性に向かって発していた。
多分? 奥様?
彼女は一言。
「めんどくさい」
その男性から視線を逸らし、エレベーターの階数表示を目で追っていた。
その男性は、女性を少し見続けたが、すぐに背を向けた。
 
その瞬間、すっーっとあることを思い出した。
綺麗にするのは、なんのため? 誰のため?
 
私は高校生の頃からファッションに関することに興味あったし、どうしたら可愛くなれるか、どうしたら素敵に見えるかにアンテナが立っていた。
 
とはいえ、私が服飾業界で働き始めたのは40歳過ぎた時で、それ以外は一度もない。
 
私が婦人服の販売員になる時までの考え方は、
ファッションは自分のため
綺麗にするのは自分のため
ずっとそう思っていた。
だって喜ぶのは自分だから。
自分のテンション上げるためって。
 
しかし販売を始めてからは、少しづつ変わった。
お客さまにもいろんな人がいる。
私、これ好きだからこれにする!
と言い切れる人もいるし、
ねえどれがいい?、とパートナーに頼る人もいるし、、、、
 
「すみません、男ウケする、モテる服はどれですか?」
と異性からの目線を私たち販売員に聞いて選ぶ人もいる。
またまた同性ウケを狙う人もいる。
本当に十人十色を教えてもらえる楽しい世界だ。
 
私が社員として席を置いていたブランドは、経済的にも精神的にも自立した女性向けだった。
自分を楽しませることができ、誰にも媚びない生活をしている人……
そんなイメージの人向けのものだったと認識している。
言ってしまえば、ややハイソな生活をし、自分の意見を持ってるようなカッコいい女性。
ブランドのイメージを守るため、販売員には化粧、髪型、立ち居振る舞い、言葉、履く靴、あらゆることをルールのように教え込まれる。
 
そこで数年の在籍だった私だが、ファッションに関する様々な情報が蓄積された。
それは、他ブランドの人、我が社の別ブランドの人、当ブランドのディレクターや先輩仲間たち、もちろん店長会議で営業の人からの話以外にも、お客様からの情報も大切な一つだった。
素材の良し悪し、立体的な製法、糸の数値や編み方、毛皮のこと、ターゲットとなるお客様のライフスタイル、世界観、とにかくあらゆる話に没頭し、引き込まれ、吸収した。
 
ある店長会議でのこと。
当ブランドを一から立ち上げたというディレクター、のちにトップクラスの人になっていくかたなのだが、その女性からコートについて語られた。
 
ねー、実は、コートってすごく大切なのよ。
なんでかわかる?
ホテルやちょっとした名の知れたレストランでお食事したことある人なら分かると思うけど……
クロークや入り口で預かってくれるのよ。
そして帰る時には、
ちゃんと羽織らせてくれるの。
いつも彼ら(スタッフたち)は、
コートのタグ、コートの重さ、手触り感、発色などたくさんを見てきているの。
そして羽織らせる時に、彼らは感じてるの。
上質なコートは、すっと引っかかることなく綺麗に羽織らせられることを。
 
いいレストランほど、お客さまの質をそこで判断してるのよ。
 
特にそうゆうところへは一人で行くより、誰かと行く人の方が多い。
例えば男性と一緒の時ならば、
その男性がどんな女性を連れているのか、そこで見てるのよ。
 
上質なコートを着せてあげられる(プレゼントできる経済力のある)男性
あるいは、
上質なコートをお召しになるようなクラスの女性と繋がってる男性
そうゆう風にみているのよ!
 
だからこそ、お客さまに、上質なコートを持つ理由を伝えてほしいの。
 
自分のために着るんじゃないのよ。
相手の価値を高めるために着るのよ。
そこには思いやりと心配りがあるということを。
そう、お洋服はね、ファッションはね、相手への敬意を表す指標になるの。
 
私はその時、はっ!
と改めて思い出したことがあった。
父とホテルで待ち合わせした大学時代の頃のこと。
父と会うなりさらり言われた。
「もう少し考えたスタイルにした方がいいんじゃないか?!」
父はいつもはっきり言わない。
遠回しにいうタイプ。
横に並ぶ父が恥ずかしくなるような服装や持ち物を私が身につけていたということらしい。
「え? 何が悪いの? べつに私はいいと思うけど……」
私はスルーしていたっけな。
 
その当時は、自分がご機嫌であればいい、そう思っていたのだ。
一緒にいる人のことを一つも考えていない私だったのだ。
そもそもファッションは自分のため思考だったから。
 
服飾業界に勤め、店長会議でのディレクターの話は、衝撃的だったことを今でも忘れない。
あの日以来、私は、もう一つの視点を持つことができるようになり変わった。
 
綺麗にする、何を着用するかは、自分のためだけじゃなくて、一緒にいる人のため。
それは、取り巻く周りの空気をも変えてしまうし、一緒にいる人の価値をも変えてしまうということ。
だからこそ、服装選びは、TPOだけの話だけではなく、相手を思いやる行為の一つ。
私はこれからも、相手との時間を想像して選んでいこうと変わった。
 
今現在は、服飾から離れ、結婚相談所で仲人をしている。
会員さんの中でも、男性さんが服装や持ち物に気を遣わないケースは多々ある。
彼らは決まって「自分、全然気にしてませんので」 という。
いやいや、そうじゃないから。あなたがどう思うって話じゃないから。
ステキにするのは自分のためより、横に並んで歩く相手のためだから。
それが思いやりってことなんだよー。
今は、そんなことを伝えている。
 
あのエレベーターで出会った年配男性が発した言葉は、
『自分のために、自分を喜ばせるために口紅ぐらいつけてほしい』
そういうことだったんだよね。
言い方がちょっと良くなかっただけで、本当は自分のことも気にかけて! なんだ。
 
これから私は、60歳、70歳、80歳になっても、ずーっと、相手のことを思って綺麗を探求し続けたい。
だからそばにいる人には言ってほしい言葉がある。
「今日も (自分のために) 綺麗にしてくれたんだね、嬉しいよ」
 
 
 
 
***

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2022-07-20 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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