あの夜、道端に落ちていたみかんを見つけた人はいませんか?
【10月開講/東京・福岡・全国通信対応】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜《初回振替講座有》
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記事:おはな(ライティング・ゼミ)
「ついに見つけた!」
私の胸は高鳴っていた。
この数ヶ月、ずっと探し続けていた。
きっとそんな人は見つからないだろうと、半ば諦める自分もいた。
でも、心の奥ではずっと探し続けていた。
きっといるはずだ。いてほしい。
そう願い続けていた。
そして今夜、私はついに見つけた。
私が探し求めていた人に。
あの日、私が道で見つけた一欠片。
その別の欠片を持っている人を、ずっと探し続けていた。
それは、5月の終わりのことだった。
連休の賑やかな記憶もすっかり薄れ、雑務に追われる毎日。
身も心も疲れているのに、もう「五月病」の言い訳すら使えない。
東京の時間の流れはあまりにも速く、息をつく間もなく過ぎ去っていく。
まだ梅雨入りしていないというのに、すでに空気は重くなってきている。
日曜の夜。
時刻は間もなく22時になろうとしている。
こんな時間に外にいては、月曜の朝がますます憂鬱になるのはわかっている。
だけど、そんな毎日を変えたくて、池袋の天狼院書店に通い始めた。
「人生が変わる」
その言葉を信じて、人混みをかき分け、小さな本屋に通うようになった。
日曜の夜の2時間。
本当は憂鬱なはずの時間が、明日からの希望を蓄える時間に、いつからか変わっていった。
書くことで、人生が変わる。
講座に通い始めてまだ間もないころ。
そこまで到達してはいないものの、絶対に自分の人生も変わるだろうと、確信を持って行った。
根拠の無い自信。
実証されていないから語れないだけで、いつか身を持って証明出来る日が来るだろうと思っていた。
真っ暗なトンネルのその先に、光差し込む出口が見えているように、
いつか私も輝く毎日に身を投じることができる。
そう、信じることができた。
ワクワクしながら天狼院書店を出ると、真っ暗な道もなんだか明るく見えてくる。
人通りの少ない道を歩いていても、すべてがぼんやり浮かび上がってくるようだ。
きっと明日からは何かが変わる。数カ月後には、1年後には、もっともっと楽しい毎日が待っている。
人の心は不思議だ。
前向きになれるだけで、見える景色が変わってくる。
そうして歩いていると、足元に何かが落ちているのが目に入った。
小さなかたまり。
なんだ?
足を止めて見てみると、
それは、一粒のみかんだった。
なんでこんなところに?
みかんの皮が落ちているのは、時々見たことがある。
家庭ごみの袋をカラスが物色し、食べられない物があちこちに散らばっている。
その中に、誰かが食べる時に剥いて捨てたみかんの皮が入っている。
一度は甘い香りに惹かれてカラスがつまんだものの、食べられないと気付き、そのへんに投げ捨てる。
自転車に踏まれ、車に踏まれ、風に流され飛ばされる。
都会の街中でみかんの皮を見かけても、恐らく気には止めない。
でも、一粒だけキレイなままで落ちていたみかん。
同じようにカラスに見つかったなら、きっと食べられていたり、つつかれた跡があるはずだ。
なのに、今目の前に落ちているみかんは、キレイなままだ。
友達同士で道端でみかんを食べた人でもいるのだろうか。
「はい、どうぞー」って一粒ずつ分けていると、
「あ」
一粒だけ道に落ちてしまった。
わざわざ拾ってまで食べる物じゃないし、みんなに配るのに充分な数もある。
「ま、いいか」と、そのまま道に放っておく。
そうして放置した一粒のみかんを、偶然私が見つけたんだろうか。
そんなことを考えていると、
一つの思いがふと湧き上がってきた。
「もしかして、私以外にも見つけた人がいるのかもしれない!」
誰かがヘンデルとグレーテルのパンみたいにあちこちにみかんをばら撒いて、誰が見つけるのか、試しているのかもしれない。
ドラゴンボールみたいに、みかんの粒を見つけた人達みんなが集まったら、龍が現れて願いを叶えてくれるのかもしれない。
そんな妄想をし始めると、ワクワクが止まらなくなる。
もしかしたら、落ちていたのは2粒のみかんで、もう1粒を見つけた人が私の運命の人かも?
えー、だとしたら、どうやって私がみかんをみつけたって伝えるべきなんだろう。
ネットに書く? みんなに言いまくる?
あー、どうしよう!!
道端に落ちていた一粒のみかんが、ダイヤモンドみたいにキラキラ輝いて見えた。
それから毎日、みかんのことを考えた。
「みかん」の単語が耳に入ってくると、つい聞き耳を立ててしまう。
愛媛のゆるキャラ「みきゃん」を見かけると、そこにヒントがあるんじゃないかと、探ってしまう。
みかん、みかん、みかん、みかん。
そういやそんな歌が昔あったなと懐かしい記憶がよみがえる。
私の頭の中はみかんでいっぱいになる。
みかん一粒を手にした勇者達はどこかにいるんだろうか。
それともやっぱり、運命のみかん王子がどこかにいるんだろうか。
自分でもおかしいとはわかっていても、どうしてもみかんが頭から離れられない。
きっと答えはあるはずだ。
あのみかんを見ていた人も、いるはずだ。
本当は無理だとわかっている。
そんな答えは見つからないし、そんな人も存在しない。
だけど、どうしても諦めきれない。
あのみかんには、何か意味があるはずだ。
あの一粒のみかんは、私へのメッセージのはずだ。
そうして考え続けて約4ヶ月。
ようやく私は、見つけた。
道端に落ちていたみかんを見つけていた人を。
「これだ!」
私の胸は高鳴っていた。
一人ひとりの顔を見ながら、思わずニヤけそうになる。
そんな思いを抑え、いつもと変わらず飄々と過ごす。
でも、本当は叫びたかった!
「見つけた! ついに見つけた!」と。
でも、叫びはしない。
ぐっと抑える。
叫んだら変な人だと思われる。
それに、「は? みかん?」と言われるだけだ。
誰も、あのみかんを見ちゃいない。
本当には見ちゃいない。
でも、私がこの数ヶ月探し続けていたのは、この人達だったと、確信を持てた。
それは、天狼院書店で新しくスタートした
「ライティングゼミ・プロフェッショナル」の受講生だ。
ライティング・ゼミを過去に受講し、入試に合格した人だけが参加できる新しい講座だ。
参加している人はみんな、天狼院の「メディアグランプリ」では上位に輝く人ばかり。
「どうしてこんなに面白い文章を書けるんだろう」と溜息をもらす人達ばかりだった。
私がその中に紛れ込んでいることは信じられないけど、それよりも嬉しくて興奮が止まらない。
このメンバーの中で、自分も修行するんだ! と思うと、その先に待っている未来は必ず明るいものだと確信が持てる。
そこにいる誰もが、自分の過去や未来、そして現在と向き合っていた。
自分の中に眠っている宝物をなんとか掘り起こそうと、必死になっている。
今はまだ、どうなるかわからない。
動機も目的もそれぞれ違う。
「書きたい」という思いを共有し、その場に集まっていた。
誰かに読んでもらいたい。面白いと思ってもらいたい。
誰かに認められることで、自分の道を作っていきたい。
その為には、どうしたらいいのか。何をするのか。
自分の内側と向き合い、外にアンテナを伸ばし、前へ前へ進もうとしている。
書き続けていると、当然各ネタは無くなってくる。
想像にも限界がある。
そうなると、必死で身の回りや街の中にも目を向けるようになる。
日常の何気ないことを、どうにか文章にしたい。
誰かに喜ばれるような記事に変えたい。
そんな思いが強くなってくる。
そうすると、道端に落ちているみかん一粒さえ、宝の原石に見えてくるのだ。
それは、一見バカバカしいことかもしれない。
理解されにくいことかもしれない。
でも、それこそが第一歩であり、すべてなんじゃないかと思う。
どんな書籍や曲や映画、商品、サービスも、すべて誰かの身近な生活につながっている。
日常的な悩みや問題を解決してくれるから、多くの人が買い求める。
「あるある!」と共感できるから、ついつい誰かに話したくなる。
人の心を動かすのは、特別なものじゃない。
すぐ足元に落ちている、誰かが落としたものや捨てた物の中にヒントがたくさん詰まっている。
そして実際にそれを作品や商品やサービスに作り変えるプロがいる。
私は、そんな人達に出会いたかった。
誰かの日常を照らしたい、そうすることで自分も輝きたいと願う人を探していた。
その中に自分も見を投じ、切磋琢磨していきたいと願っていたのだ。
そしてようやく出会えた。
道に落ちている一粒のみかんから、物語を想像し、誰かを喜ばせたいと、きっと思うだろう人達を。
ここからまた新しい旅が始まる。
書くことで人生はどんどん変わる。
今日も私は、街中をキョロキョロしながら、宝物を探す。
きっと共感してくれる仲間の笑顔を想像しながら。
***
この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。
「ライティング・ゼミ」のメンバーになり直近のイベントに参加していただけると、記事を寄稿していただき、店主三浦のOKが出ればWEB天狼院の記事として掲載することができます。
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