メディアグランプリ

「ジョジョの奇妙な冒険」を見ていて、すべてのクリエイター志望は岸辺露伴を目指すべきなんだと気づいた


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記事:永尾 文(ライティング・ゼミ)

 

正直言って、「岸辺露伴」という男について私は詳しくはない。原作の漫画も読んでいないし、某トーク番組の「ジョジョの奇妙な冒険芸人」も見ていない。

まぁ、名前だけは知っていた程度。だって、有名じゃないですか、彼。

しかし、彼が初めてテレビの中である台詞を発するのを見たとき、私は雷に打たれたように動けなくなった。

いや、彼の言い分はあまりに正論で、当たり前すぎて、新鮮さのかけらもなかった。私だって彼と同じことを考え、小説家になる夢を掲げ、生きてきたはずだったのだ。

なのに、どうしてだろう。どうしてこんなに衝撃を受けているのだろう。

――私は、なぜ泣いているのだろう。

 

「ジョジョの奇妙な冒険」を見るのが、週に一度の楽しみだ。深夜に放送されているテレビアニメなので、わざわざ録画して見ている。

書店に勤めていたころ、ちょうど第1部「ファントム・ブラッド」のテレビアニメが始まった。アニメ放映開始後、あまりに文庫版「ジョジョの奇妙な冒険」の売れ行きがいいので、それならばせっかくだしアニメで「ジョジョ」を見てみるか、と何気なく見始めたところ、どハマりしてしまった。

一時期は原作を集めて一気に読もうとも思ったのだけど、毎週一話ずつ次の話をわくわく待つ感じがまた楽しいのだ。ちょうど週刊少年ジャンプで連載作品を待つ少年の気持ちを味わっているようで。

現在は第4部「ダイヤモンドは砕けない」が放映されている。第1部から通してここまで見てきて、個人的にはおどろおどろしい戦闘の中に、どことなく日常の、コミカルな雰囲気漂う第4部が一番好きだ。

「岸辺露伴」はテレビアニメ14話「漫画家のうちへ遊びに行こう」で初登場を果たす。表題にある通り、漫画家のスタンド使いだ。髪の毛をまとめるためか、珍妙なヘアバンドをしていて、ビジュアル的にかなり胡散臭い。

「岸辺露伴」はリアリティを求める漫画家だった。

人物にも、出来事にも、部屋に出た蜘蛛の味にまでこだわり、すべてを漫画の材料にしようとする。蜘蛛を舐めるその姿はもはや「狂人」だ。彼の家に遊びにやって来た高校生の広瀬康一も、恐怖するほどの。

正直、私だってドン引きしていた。

……あの台詞を聞くまでは。

「この岸辺露伴が金やちやほやされるために漫画を描いていると思っていたのか!」

「岸辺露伴」の突然の激昂に、思わず息を飲んだ。すでに金も名誉もあるのにどうして漫画を描くためにそこまでするのかと尋ねられ、彼は怒り狂ったのだ。

では、何のために「岸辺露伴」は漫画を描いているのだろう。

――満足のいく作品を描くため?

――自分の世界を紙の上に表現するため?

私の予想したいくつかの理由は、ことごとく外れた。

「岸辺露伴」が語る漫画を描く理由はあまりに正論で、当たり前すぎた。

なのに、作家志望の私に大きな衝撃を与える。自然と涙があふれてくる。

あぁ、私は何もわかっちゃいなかったんだ――そう、気づかされた。

テレビの中の漫画家は高らかに宣言する。

「ぼくは『読んでもらうため』に漫画を描いている!」

 

私は口では小説家になりたいと言いつつ、本当のところは自分の作品を誰にも読まれたくなかったのだと、そのときようやく気づいた。

読んでくれる人がいなければ、小説家にはなれないのに、だ。

書きたいことを好きなように書き、自分に都合のいい物語の世界の中に引きこもっていたかった。物語の中でならキャラクターを動かすことで普段言えない悪口も口にできたし、嫌いな人を殺すことだってできた。

満足のいく作品を書きたい、自分の世界を紙の上に表現したい、とは綺麗事に過ぎなくて、単に書くことで『気持ちよくなりたかっただけ』だった。

書くことは、どろどろと鬱屈した心の膿を出すこと。だから、小説家を目指しているくせに矛盾していると思うが、書いたものを人に読まれるのがひどく怖かった。

自己矛盾を抱えて夢を追いかけるのはあまりに苦しくて一般企業に就職した。一度は筆を折りかけたのに、どうしても長年温めてきた夢を諦めることはできなかった。このままでは『いつか小説家になりたいと思っている私』がその『いつか』を迎えられないまま一生を終えることになると思い、一念発起してネットで見かけた「ライティング・ゼミ」の門を叩いた。

「ライティング・ゼミ」での私も、これまでと同じように矛盾の塊だった。

毎週の課題を出すのが怖かった。

講評を読むのが怖かった。

合格をもらってもFacebookでシェアをして友人に読まれるのが怖かった。

この怖さの原因は『読んでもらうため』に書くことができなかったからだ、とやっとわかった。

「岸辺露伴」は『読んでもらうため』なら何だってする。それこそ、味を確かめるために気持ち悪い虫を舐めてみたりもする。異常な行動だと思う。狂っていると思う。

けれど、読者に『読んでもらうため』に堂々と狂える「岸辺露伴」に、私はなりたい。

 

小説家になりたい人をスラングで「ワナビ」というらしい。

小説家になりたいと言っている割に大口を叩くだけで何も生み出さない人の蔑称でもある。

私は間違いなくそれだった。「ライティング・ゼミ」や「小説家養成ゼミ」を受講し始めただけで、今も私は「ワナビ」なのだろうと思う。

同じゼミを受ける人の作品を読み、自分の文章の稚拙さに恥ずかしくて落ち込むこともかなりある。

というか、どちらかと言うと嫉妬している。「川代ノート」なんか更新されるたびに真っ先に記事を読んで、毎回読み終わった瞬間にクッションにスマホを投げつけている。

自分に書けないものを書けてしまう彼や彼女のことが妬ましくて、悔しくて、どんなに素晴らしい書き手であっても絶対に憧れてなんかやらない、と思う。まだまだ全然勝算もない「ワナビ」のくせに、そのうち逆に憧れられる書き手になってやるから首を洗って待ってろ、と思う。

PV数を競うメディアGPは、読んでもらわなきゃ勝てない。

だからみんな、『読んでもらうため』に書くんだ。

読んでくれる人のために、狂うんだ。

大事なことにようやく気づいた。「ライティング・ゼミ」はもうすぐ終わってしまうけれど、遅くはないだろう。プロの小説家を目指すのなら、むしろここがスタートラインなのだから。

 

私と同じ臆病な「ワナビ」たちに告ぐ。

ううん、小説家だけじゃない。

絵でも写真でも音楽でも演劇でも、とにかく何かを生み出したいと思っているクリエイター志望の「ワナビ」は皆、「岸辺露伴」を目指すべきだ。

『読んでもらうため』に狂うこと、それが「岸辺露伴」に気づかされたプロとして生きていくための「覚悟」。

私も、堂々と狂おう。必要とあらば蜘蛛の味だって確かめよう。

ほら、さっそくおあつらえ向きに部屋の白い壁を小さな蜘蛛がちょこまか歩き回っていることだし。

……。

……。

……。

……いや、でも、やっぱり蜘蛛は無理だろう!!

「岸辺露伴」への道のりは果てしなく遠い。

***
この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。
「ライティング・ゼミ」のメンバーになり直近のイベントに参加していただけると、記事を寄稿していただき、店主三浦のOKが出ればWEB天狼院の記事として掲載することができます。

 

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2016-09-27 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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