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妊娠出産時のたったひとつの間違い


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記事:ほしのちかこ(ライティング・ゼミ8月コース)
 
 
1月。飲み会前にふと気になって妊娠検査薬を買った。
陽性だった。その日はお酒を飲まず、少しだけそわそわしたまま飲み会を終えた。
 
はじめての妊娠、後期に貧血や早産傾向があったものの、大きなトラブルなく過ぎていった。
妊娠中、つわりはあるが、食事をとるのは問題なかった。妊娠中食べ物の好みが変わると聞くが、やたらとパンを食べたくなった。困ったのは、禁煙でカフェインと糖質に配慮したドリンクメニューのあるカフェ・飲食店を探すこと。冬に温かい飲み物を買いたい時、カフェインと糖質を両方避けると、コンビニにも買えるものがほとんどなかった。
 
出産予定日の半年前から徐々に仕事を減らし、おなかが大きくなる前に引っ越しもした。引っ越し先の病院は、きちんと調べて比較し、ふたつの病院で妊婦健診を受けてから決めた。居心地の良い病院を選ぶことができた。私は病院を選ぶと同時に、分娩方法を選択した。
 
しかし、この分娩方法が間違いだった。
 
和痛分娩という言葉を聞いたことがあるだろうか。
無痛分娩は、少なくとも出産を控えた女性や出産を経験した女性は、だいたい知っているだろう。陣痛の痛みを和らげるために麻酔を用いる分娩方法である。産後の回復も早いという。
無痛分娩と和痛分娩に医学的に明確な定義はない。病院によっても和痛の定義は違うらしい。無痛分娩と言っても全く痛みを感じないわけではなく、和痛分娩と同義だという病院もある。しかし、無痛分娩で痛みをほとんど感じなかったという人もいる。無痛か和痛かは、人それぞれの痛みの感覚、病院の方針、麻酔の量によって決まるのかもしれない。
 
私が選んだ病院では「和痛分娩」を選択できた。全く痛みがないほど麻酔をかけると、いきむことができずに分娩時間が長くなるなどリスクがあるため、麻酔の量をコントロールし、痛みを5~7割ほど軽減しながら、自然に、自力で生むことができる、という。こう説明されると魅力的ではないだろうか。私はこの和痛分娩を選んだのだった。
 
出産予定日が過ぎても、一向に生まれてくる気配がない。
陣痛促進剤を用いることになった。錠剤で1時間に1錠ずつ、最高6錠まで服用する陣痛促進剤を使った。しかし、それでも陣痛はこない。点滴の陣痛促進剤に変え、夜遅く、ようやく陣痛が始まった。
 
陣痛はつらかった。
分娩室の近くにある部屋のベッドの上で、激しい痛みに身動きがとれず、横にもなれず、冷や汗をかきながら、ただじっと耐える。「鼻からスイカが出るような痛み」と言われる例えはよくわからなかったが、お腹を壊したときや胃腸炎のときの痛みを100倍にした感じだった。陣痛の合間、一息つくことはできるが、完全に痛みがないわけではない。寄せては返す波のように、また数分後にくる陣痛に怯えながら、特にできることもなく、ただただじっと耐える。いつまで続くんだろう。永遠に続くような気がした。そんな時間を繰り返し、気がつくと朝になっていた。
 
子宮口が開いてきてやっと、痛みを和らげるための麻酔を背中にうつ。もうこの時点で十分痛い。今更、とは言わないけれど、もっと早く和らげてもらえないものか。
 
麻酔を打ったら楽に……なんてことはなかった。あれ? 「和痛」はどこにいったの?
看護師さんに支えられながら分娩台に移動した。いよいよ出産というとき、私はずっと「もう無理! もう無理!」と叫んでいた。痛みが強くて、いや、私が痛みに弱いのか、おなかの中の子を想う余裕もなかった。暴れたつもりはないのだが、先生たちに押さえつけられ、それでもなかなか出てこず、最後は吸引分娩になった。
 
あんなにも長い時間痛みに耐えたはずなのに……うまれるまで12時間ほど。初産としては平均的な時間だった。
 
無事生まれたあと、しばらく分娩台で休み、病室に戻った。ベッドで一息つき、お手洗いに行こうとしたとき、力が入らなかった。なんとか自力で降りようとして、ベッドから落ちた。これはまずいかもしれない、と思ってナースコールをしようとしたその時、タイミングよく看護師さんがきた。
支えてもらって病室から出たあと、の記憶がない。気づいたら数歩先に座り込んでいた。私の体を支えている看護師さんとは別の看護師さんが、車いすを持ってきていた。おそらく数分ほど、私は意識を失っていたのだった。吸引分娩により切れたり裂けたりしたのか、その縫合が上手くいっていなかったのか、とにかく血が足りないらしく、また分娩室に戻ることになった。数時間の処置のあと、やっと落ち着いた。
 
「え? あれで5割なの? 本当に?」
落ち着いた頃、ふと思った。和痛分娩、それなりの痛みは覚悟していたが、あれで5割なのだろうか。麻酔があまり効かなかったのだろうか。
麻酔が効いていて、あの痛みで5割なのだとしたら、和痛分娩を選んだことは半分正解だったと思う。10割の痛みだったら、耐えられたかどうか……。
 
しかし本当のところはわからない。
比較対象がないのだ。他人の出産の話を聞いたことはあっても、どのくらい痛かったのかは想像でしかない。私自身が初産でなければ、まだなんとなく予想はついたかもしれない。でも私は初産で、10割の痛みがどんなものかわからない。だから5割の痛みと言われても、それが本当かどうか、判断できないのだ。
 
初産で、和痛分娩を選んだのは間違いだった。
 
産前の私に言いたい。
痛みに弱いのであれば、最初から潔く無痛分娩を選ぶべきだ。
その際、どのタイミングでどのくらい麻酔を入れるのか、の確認も忘れずに。
 
 
 
 
***
 
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2022-09-22 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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