身の毛がよだつバボちゃんのひみつ
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記事:南英樹(ライティング・ゼミ)
殴られるのが仕事だ。殴られなくなったら終わりだ。
人間でないことに気付いたのは5年ほど前のこと。人間たちにひとしきり殴られたあとの、フロアにポツンとひとり取り残されたまま一夜を明かした朝、背中に太陽の光を浴びて伸びる自分の影に驚いた。
「俺って手もなければ脚もないじゃないか! しかもまん丸って!?」
そういえば、ふと気がついたら俺は空を舞っていたのだ。なにかの激しい衝撃が全身をつんざき、深い眠りから目覚めると、俺は地上に落ちないように、人々に次々に殴られながら広い空間を舞っていた。その感覚は日に日に研ぎ澄まされていき、とにもかくにも俺は、1つの弄ばれるまん丸な物体としてこの世界に現れていて、みんなを夢中にさせてしまう特徴があるらしいことを認識した。
それからというもの、人々を観察することに夢中になった。悪いことをしたわけでもないのに、その人たちは嬉々として俺を殴り続ける。まったくもって理不尽な奴らに絡まれてしまったものだと思う。まあ、だからって血が出ることもないし、骨折もしないのが俺だ。その意味では俺の身体は暴力に耐えうるよう、衝撃を吸収するように良くできている。それに人間たちもひどい奴ばかりじゃあない。たまに俺のヘソに棒を差し込んで、空気を注入してくれる。なんだかこそばゆいのだけど、それをしてもらった後の俺のからだは、弾むように軽いんだ。
その人たちはルールというものを決めていた。ネットを挟んで二手に分かれて、自分の陣地に俺を落とされないように、必死になって動き回る。そうやって陣地を守っては、相手の陣地に俺を叩き落とすために全力でジャンプしては俺の頭をぶん殴る。しかも常に3回以内に俺を相手の陣地に返さなきゃいけないことになっているらしく、その動きの慌ただしさと言ったら、働きアリのゴチャゴチャな動きをもはるかに凌ぐものがある。しかもそれぞれの9メートル四方の陣地の中にはたった6人ずつしかいないのに、なかなかどうしてこれが結構、ラリーが続くんだ。
そうこうしているうちに俺は、人間たちに殴られるのを楽しめるようになってきた。殴られ続けてラリってくると、恍惚状態が訪れる。そうすると、奴らの表情や言葉からその意図が読めるようになってきたんだ。そして、分かったことが2つある。
どうやら、奴らは俺の身体を使った、ネット上でのモグラたたきゲームを楽しんでいるらしいということだ。
要は、そのほとんどがネットの真上で勝負が付いているのだ。つまり、より正確に相手の動きを読み、ネット上の俺の通過点をふさいで、コースを潰すことが出来たチームが勝つ。そのため、分析を担当する人間が、徹底的に情報収集し、より俺の通過する確率の高い地点を探り当てる。さらには、誰がどんな体勢で打ってくるのか、どんな状況でそいつのところに俺が飛ばされるのかまで徹底的に分析する。強いチームになればなるほど、その精確さが際立ってくるのだ。
そしてもうひとつは、たかが玉遊びだが、人間たちにとってかけがえのないものであるということだ。
だって考えてもみてほしい。大の大人が、俺が陣地に落ちるか落ちないかくらいのことで必死になっている。世界には食べるものもなくて飢餓で苦しんでいる人たちがごまんといるというのに。極端な奴は仲間と抱き合って喜んで涙をボロボロと流して、金メダルがどうのこうの、世界一がどうのこうのと国家をあげて大騒ぎしている。
いったいなにが奴らをそうさせるのか?
そこには秘密がある。
実は俺、宇宙人だったのだ。
昨日、教えられた。
いつの間にか仲間たちと交信できるようになっていて、なかでもあのバレーボールのマスコットキャラクターとして名高いバボちゃんから、メッセージが送られてきたのだ。
「おまえにもそろそろホントのこと教えてやる。俺たちは人間の能力を分析するためにバボ星から送られてきた。チャチャチャ!」
バボちゃん曰く、こうだ。
「俺たちは人間を夢中にさせて、奴らを遊ばせることで、ひたすらデータを蓄積してきた。人間の作戦遂行上の知性はどこまで働くのか、人間の身体はどこまで環境に適応させることが出来るのか、個々バラバラの特性をもった人間がチームとなって最高のパフォーマンスを発揮するときはどういう原理が働いているのか。地球上のあらゆる人種のデータを集めることによって、人間の限界を分析し、地球を侵略する準備をしているのだ」と。
俺は、このスポーツというものに、とてつもない可能性が秘められているものだと信じ始めていた。豊かな精神世界が広がっているものだと素直に感じ始めていた。それなのに、俺はバボちゃんの指示に従うしかないのか。
バレーボールの大会を放映するテレビ局の本社ビルがなぜ、宇宙船のようなかたちをしているのか、なぜアイドルを使って強引に大会を盛り上げようとしているのか、それしか俺に明確な答えを示してくれるものはなかった。
***
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