【迷子旅のススメ】旅先では道に迷いたい
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記事:Kasumi(ライティング・ゼミ8月コース)
旅先では、積極的に迷子になると楽しい。
大学時代のアジア一人旅に始まり、国内外で数ヶ月おきに暮らすように旅してきた私の「旅の楽しみ方」だ。
個人的に「迷子旅」と呼んでいる。
ネーミングセンスはさておき、この迷子旅が私の人生をイキイキとさせる起爆剤になってくれているのだ。
最初から意図的に旅先で道に迷ってみていた訳ではない。
きっかけは、大学時代の長崎一人旅だった。
バイトを掛け持ちして、学費を払った残りで青春18きっぷを手にしたことが、迷子旅への扉を開くことになったのだ。
「これで長崎まで、のんびり電車で旅しよう」
青春18切符を手にした20歳の私は、長崎のガイドブックにせっせとシオリを挟んでいた。
まだ慣れない一人旅だったので、行ってみたい場所やお店を回り切れるよう、事前に計画を立てていたのだ。
「このお店から次の見どころまでは徒歩15分」
「ルートはこの順番で回れば、効率よく全部回れそうかな」
時間内に多くの見どころをいかに効率よく回る事が出来るか?
当時私が考えていた旅は、多くの観光地を効率よく回る旅だった。
とにかく有名観光地に「行った」事が重要なのだ。
後から周りに「ここに行ってきた」と言えるから。
一つでも多くの見どころを見たい。
だから、効率よく回れるルートを決めて、だいたいの滞在時間や移動時間も計算しておいた。
「行った事実」が欲しいが為の旅だったと、今なら思う。
その日は、昼過ぎまで順調に長崎旅をクリアしていた。
歩きながら午後からの観光ルートと観光地のメモ書きを確認して、ポケットにしまう。
「次の観光地に向かおう」
くるりと向きを変えたその時、目の端に気になる景色が映り、思わず2度見してしまった。
そこには、小さな草花が生い茂る細い小道があった。
トトロが出てきそうな小道だった。
実際には映像のトトロで観た小道とは違って、階段も民家も点々と続いていたのだけれど、なんでかそう思ったのだ。
よく見ると、ドッジボールほどの大きさの石を並べた階段が、草花の隙間から見え隠れしている。
右へ左へくねくねと、民家と細い木を縫うように小道は登っていき、途中で猫が日向ぼっこをしていた。
この小道を歩いてみたい。
思わず足が進んでいた。
「計画したルートにはない道だけれど、ちょっと進んでみて戻れば良いよね」
ルートを外した自分に言い訳して、草花を踏み分けずんずん進む。
散歩中の猫が足元をすり抜ける
縁側で一息つくおじいさんの民家を通り過ぎる
百日紅の木につかまってチグハグな石段を登る
オジギソウにタッチして
ブレブレの猫の残像を携帯カメラに収めて
人通りが少ないのを良いことに鼻歌まで歌いながら
どんどん登った。
もう、「今から戻ろう」という気にはならなかった。
また同じ道を引き返して予定通りの道を進むより、今はこの道をめいっぱい楽しみたい。そんな気分だった。
振り返ると、長崎の街が見渡せる。
この、小道の途中から長崎の街を見た時のことは今でも忘れない。
思い出すたびに満たされた気持ちになるのだ。
長崎の一人旅で私が1番印象に残っているのは、この小道を登った時のことだ。
有名な観光地も巡ったけれど、1番ワクワクしていたのは、観光名所でも何でもない、ただの民家を繋ぐ小道だった。
結局その後、私は小道を登り切り、てっぺんまで行き着いた。
偉人の銅像が立っていたけれど、到着地のことはあまり覚えていない。
その後は足取りが軽かった。
スキップしているような気持ちで、近くの観光地を回って行った。
長崎の旅を終えてから、私はこれまでのように旅の計画書やルートを作らなくなった。
どうしても行ってみたい所だけピックアップして、後は現地に着いてから自分の直感を頼りに進むのだ。
地図はみない。
当然、迷子になる。
でも、それがいいのだ。
気の向くままに、自分が「行ってみたい」と思った方へ進むことで、思わぬ景色に出会うこともある。
ガイドブックに載っている景色よりも、忘れがたい、絶景だったりするのだ。
二度は辿り着けなさそうだけれど。
道に迷ったら現地の人に聞くと、話が弾むこともある。
なぜか自宅に招待されておやつをご馳走になったり、観光名所のベスト撮影テクニックを教わったりもした。
偶然の絶景、偶然の出会いは、旅先での1番の刺激になった。
有名観光地を計画通りの道順で回る旅より、ずっと面白く、後々まで感動が残っている。
今では、自分の感情と感覚を、揺り動かすために旅をしているのだ。
迷子旅を始めてから、普段の選択肢も興味の向く方、ワクワク感じる方へと舵をきるように変わってきた。
先の分からない展開を楽しめるようになり、変化に強くなってきたように思う。
もちろんたまに失敗もするし、イヤな経験もする。
けれど、それでも感動した経験が上回っているのだ。
だから、どんどん興味の向く方に飛び込める。
「こっちの道を進みたい」
そう思えたら、その先で起こる体験は、全て自分の宝物になる。
いつだって、自分の心が喜ぶ方へ進んだら良いのだ。
***
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