雨の日だって悪くない
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記事:星有希(ライティング・ゼミ10月コース)
人は、天気を自分の思い通りにはできない。
どこかの国で、人工的に雨を降らせる実験をしているというような話も聞いたことがある。もしかしたらいずれ、超富裕層がお金をたくさん積んで、自分の好きなように天気を操るようになるのかもしれない。でも私のような一庶民が、自分の都合に合わせて天気を変えられるようになる日は、まず来ないだろう。
絶対に晴れてほしかったのに、あいにくの雨。そんな経験を私は何度もしてきた。でもその度に、思い出す言葉がある。
「雨の日は雨の日で良いよね」
二十歳くらいのころ、友人Aと二人で、タイに旅行に行ったときのことだ。バンコクと、ホアヒンというビーチリゾートを訪れる計画だった。しかしバンコクは晴れていたのに、肝心のビーチリゾートへ行く日が、あいにくの雨。がっかりする私に、友人Aがこの言葉を言ったのだ。
その考えが、私はとても素敵だと思った。確かに、植物は水をたっぷり吸い込んでいきいきとしているし、みずみずしい空気、雨のつくり出すいろいろな音も、なかなか良い。友人Aのおかげで、私は「雨の日だって悪くない」という考え方もできるのだと知った。
友人Aに限らず、雨の日も悪くないと思える人は結構いるようだ。私の母もそう。先月、およそ30年ぶりに一緒にキャンプに行くことになったのだが、事前の天気予報は雨。日付を決定したのが私だったので、その日を選んでしまった申し訳なさもあって、せっかくのキャンプなのに、雨だとあれもできない、これもできない、と悲しい気持ちになっていた。しかし母は「雨でも楽しみ」と言って、楽しそうに荷造りやお弁当づくりをしていた。そんな母の様子に励まされ、私もいっそのこと雨を楽しもうと気持ちを切り替え、上下セットの雨ガッパを用意したりした。結局このときは、天気予報が外れて雨は降らなかったのだが。
そんな私は先週、沖縄に行ってきた。目的は、友人Bの結婚式に参列するため。親兄弟だけの小さな式ということだったが、友人Bの晴れ姿をどうしても見たかった私は、呼ばれてなくても行きたいと申し出た。幸い私のほかにも、参列したいという友人が数人いるとのことで、快諾してもらえた。
前日に確認した天気予報は、滞在4日間すべて雨や曇り。しかも式がある3日目が、降水確率90%と最も荒れそうな予報。雨の日だって悪くない。それはわかっている。でもせっかく沖縄で結婚式をするのだから、その時間だけでもなんとしても晴れてほしい。友人Mもきっと、せっかく沖縄まで家族や友人が来てくれるのだから、青い空と青い海を楽しんでほしいと思っているはずだ。友人Bの気持ちも想像すると一層、晴れてほしいと願わずにはいられなかった。
1日目と2日目は、那覇市内を観光した。事前の天気予報に反して、10月とは思えない強い日差しが降り注いでいた。空を見上げると、雲がものすごいスピードで流れているのがわかる。沖縄の天気は、きっと変わりやすいのだろうと私は考えた。ということは……もしかしたら3日目も晴れるかもしれない。そんな期待に胸が膨らんだ。
そして3日目。午前中は曇りだったが、式が行われる昼過ぎごろから、パラパラと、ついにはザーザーと雨が降り出した。空は360度、分厚そうな雲に覆われている。とても晴れ間は出そうにない。
チャペルに案内されると、祭壇の奥の大きな窓は、霧の中にいるかのように真っ白だった。おそらく晴れていればここに、息を飲むような美しい青色が広がっているのだろう。
でも……私は友人Aと母の言葉を思い出す。
雨の日だって悪くない。
そう思ってから、もう一度チャペルの中を見渡した。すると、曇り空だからこそ、チャペル全体が静かな光に包まれ、より神秘的な空気を湛えているように感じた。
ドアが開くと、そこに白いドレス姿の友人Bが立っていた。その姿を見て、私は肩を震わせて泣いてしまった。どんな天気も味方につけてしまうほど、友人Bは美しかった。やっぱり、雨の日だって素敵なのだ。
夜は、友人B夫妻主催の食事会があった。あいさつで二人はこんなようなことを言っていた。「思い描いていたような沖縄の景色ではなかったかもしれないけれど、皆さんには足元の悪い中になってしまったけれど、皆さんに見守っていただき式ができたことが本当によかったです。私たちとしては、とても良い式になったと思っています」。その言葉を聞いて、私はまた泣けてしまった。
人は、天気を自分の思い通りにはできない。
でも、その天気をどう捉えるかは、自分で思い通りにすることができる。
これからも私は、今日こそは晴れてほしいと願う日に、雨に降られることもあるだろう。そんな時には友人Aや母の言葉、そして白いドレスの友人Bの姿を思い出し、「雨の日だって悪くない」と前を向けるのではないかと思う。
***
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