娘が書いたサンタさんへの手紙が秀逸過ぎて悶えた件
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記事:赤羽かなえ(ライティング実践教室)
エントランスの扉を開けて外に出ると、師走の洗礼にあった。
「うわー、寒い」
つぶやくそばから白い息が流れ出て行く。少し前に12月に入ったら急に寒くなるという予報が出ていたけど、できるならば外れて欲しかったなあ。
すくめた首をもとに戻すことができないまま、子どもたちをせき立てて車に乗り込み、エンジンをかけて出発する。いくら寒くても、学校の始業時間は待ってくれない。
少し焦りながら赤信号をじっと見つめていると、小3の長女が後部座席から助手席に手を滑らせた。
座席の上に置かれたのは、半分に折りたたまれた白いコピー用紙だ。
にっこりと笑ったサンタの絵とその下に「サンタさんへ」という文字が書かれていた。
「サンタさんに送って。見ちゃダメだよ」
「はいはい」
さして興味がなさそうに返事をして、視線を道路に戻し、車を走らせた。
娘たちを送り、マンション下の駐車場まで戻ってくるとホッと一息つく。いつもなら、座席に座ったまま、少しスマホを見るのだけど、今日は、助手席のサンタさんへの手紙を手に取った。
微笑む手書きのサンタの絵がなんともかわいらしい。よほど力を入れて塗りつぶしたのだろう、目の部分の鉛筆の跡が力強く残っている。そ知らぬフリをしていたけど、実は興味津々だった。
どれどれ、今年のプレゼントの希望は何かな……。
手紙を開いて、最後まで読んだら、涙が出るほど大爆笑だった。久々に、笑いすぎてお腹が痛くなった。車の外からマンションの住人に見られなくて良かった、というくらいにしばらくの間笑いが止まらなかった。
なんなんだ、この手紙の破壊力は!
しげしげと、手紙を眺める。いや、しかし、これは秀逸だなあ……。文章を書く人間として、人に最後まで文章を読んでもらう、ということにこだわった作りであることにちょっと感動した。
真っ白いB5の紙には、雪だるまやサンタさんやトナカイの絵が散りばめられている。文章だけでなく絵で楽しませようという工夫がされている。
冒頭は、
『サンタさんへ わたしが2さいの時にあったのを覚えていますか』
という文章から始まっている。彼女が小さい時に、サンタさんにプレゼントを配達してもらうサービスを利用したのだが、そのことに触れて、自分のことをより身近に感じてもらう作戦の模様。その後に、
『ほしいものが4つあります。多いですがよろしくおねがいします』
と続く。4つもあるのかよ! と軽くツッコミを入れてしまうが、最初に4つあるということを最初に断っておくあたり、論理的な文章になっている。
その先にプレゼントの希望が4つ書かれていて、ひとつ目が、誕生日プレゼントにもらう予定の文鳥が止まるためのグッズを希望している。
これがどうやら本命プレゼントのようだ。そして、2つ目は、
『こんぶが好きなのでおしゃぶりこんぶ何箱か』
こんぶかよ! しかも、何箱かって、業者の仕入れかよ!! そして、3つ目は、
『こんぶなんですけど、酢こんぶ何箱か』
今度は、酢こんぶかよ!! どんだけ昆布好きなんだよ!!
もはや、これはサンタさんへの手紙と見せかけた、駄菓子屋の発注なのかもしれない……。
このくだりで、腹筋崩壊である。笑い転げた後に、最後のリクエストが来る。
『4つ目は、世界が平和に暮らせるようなもの。もちろんサンタさんも』
ここで、一気に世界レベルの平和を望むで優しい娘なのである。そして、サンタさんにも平和を願っちゃうあたりで、めっちゃいい子じゃーん……と親バカなのだけど、ホロリがくるのだ。
そして、彼女の手紙には最後にオマケがある。右下に四角で囲んで、字が書けない妹のために、彼女の希望を書いてくれている。
『いもうとから。わたしは1つです。梅エキス20こくらい』
ここで一気にオチに持っていくのだ。またもや、発注モードである。しかも、頼む物が渋い健康食品……なぜ、それをサンタに頼んだ?! っていう最大ツッコミを入れたくなるオチになのだ。
手紙を3回くらい読み返して、その度にしつこく笑いがぶり返す。しまいにはため息がでた。
本人としては、人を笑わせるつもりもなく、大真面目に手紙を書いているのだけど、なんて人の心をつかむのがうまいんだろう。私がこんなに毎週、毎週PCに向かって眉間にしわを寄せながら頑張っているのに敗北感がぬぐえない。私だって、読み手の人にどんな気持ちの流れで読んでほしいか、この文章で読み手の気持ちがちゃんとつかめるかなと考えながら書いているというのに、娘ときたら、こんなに短い文章で人を笑わせたり、ホロリとさせたりできるのだ。
娘の手紙を読んで、改めて文章の力のすごさを感じたのだった。この子がどんな感性で大きくなって表現をしていくのか。もしかすると、私なんかあっという間に飛び越えて素敵な表現者になるのかもしれないなあ。
まあ、とりあえずは、今年のクリスマス無事にサンタさんが来てくれるといいね。母さん、ちゃんとサンタさんにお手紙届けるからね。
手紙をそっとカバンにしまって車を降りると、太陽の光が柔らかく私を照らしてくれた。
***
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