「大きくなったらこれになる」が決まらないまま、大人になった私へ。
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:福居 ゆかり(ライティング・ゼミ)
「僕は大きくなったらカメラマンになりたい」
天狼院書店の店主、三浦さんのその文章を読んだ時、私は不思議な感覚に陥った。
「大きくなったら」というのは私の中ではまだ体が成長途中である、中学生以下が使う言葉のような気がしていたからだ。
三浦さんは縦に大きくなるのだろうか、それとも横だろうか……一瞬、そんな不遜な考えがよぎるのを慌てて打ち消す。そういう意味合いとは違うだろうことは、わかっていたからだった。
大きくなったら、何になる。
そう考えたのはいつの日だったか。
幼稚園の頃、お誕生日カードに「しょうらいのゆめ」という欄があった。私はそこに「ケーキやさん」と書いていた。甘いものが大好きだったし、お店もかわいいし、ケーキやさんは女の子たちの憧れの職業だった。
次に書いたのは、小学校の卒業文集。そこにもその欄があった。
六年生にもなると、女子の間ではグループが出来る。当然、陰口も言うし、言われていた。「ゆかり、こんなこと書いてるよ。出来っこないのになあ」そう言われる事が怖くて、何を書いていいのかわからなかった。当時の私はデザイナーやスタイリストなど、華やかな職業に憧れたが、クラス内でも地味な存在の私がそんな事を言うのは場違いだと思って、「世界を旅したい」とお茶を濁したのだった。
中学生になると、将来を見据えての進路の話をするようになった。専門学校でデザインの勉強をしたい、ということを絞り出すように言うと、親の猛反対に遭い、進学校に進むことを勧められた。逆らえず、進学校に進んだ私は、高校でまた新たに夢を考え直すことになった。しかし、そこでもやりたいことが一点に絞りきれなかった私は、そのまま進学を選んだ。
大学では、お世話になった先生たちのように人に物を教えたいと、教員免許を取ろうと思った。そのためには教育実習が必要となり、私は小学校に実習へ向かった。
実習先で初めての授業をするため、教材を作り、指導案を作って準備をした。本番の二日前に、模擬授業ということで他の実習生、先生の前で授業を一度披露し、指摘をしてもらうという事になった。
そして私はいざ、教壇に立った。教科は、家庭科。内容は買物についてだった。
普段、児童が座る席に他の実習生や先生が本番さながらに座っている。ドキドキしながら、授業の導入部分を行おうと思い、口を開いた。
しかし。
私は言葉が出なかった。全くと言っていいほど出ず、手元の指導案を見ても何も話す事ができなかった。かろうじて出た言葉は「えっと、あの」と「……すみません」だった。
私の様子がおかしいのを見て、先生からストップが入った。とりあえずその場はお開きになり、先生からも「ちゃんと授業の詳細を考えてくるように」と言われ、私は1人になった。
教室でぽつんと1人、黒板を見ながら考える。考えていったはずの内容を、どうして言う事ができなくなったのだろう。情けなくて涙が溢れた。
そうして泣いて泣いて、気がついた。言葉が出なくなったのは、教壇に立ったその瞬間に「なぜ、学校でこの事を教えているのか。そしてこの授業はこれでいいのか」ということがわからなくなったからだった。
もちろん、考えればわかるのだ、目的は学習指導要領にだって書いてあることだし。ただ、それに対して自分なりの解釈は完成しておらず、そのため、目的に対してのアプローチに違和感があった。
そこまで考えると、自分はこんな風に中途半端に、人に物を教えていいのだろうかと思ってしまった。結局、悩んだけれど納得しきれないまま指導案通りに授業を行い、「良くはないけど悪くもない」という評価を得た。
教員には向いていないかもしれない、その時にそう感じた私は、採用試験を受けようとは思わなかった。
大きくなったらこれになる、が点々として決まり切らず道を絞れなかった私は、就職活動の時に非常に困った。なりたいものもなく、やりたいこともない。そして、志望動機をコテコテに固めて記憶して暗唱し、勧められた会社に就職した。
そうして、その時点で諦めた。もう、就職してしまったのだし、子どもでもない。大人になった私の「大きくなったら」は、終了したのだ、と。
「僕は大きくなったらカメラマンになりたい」
三浦さんのこの文章を見た時に、私は、その全てを思い出したのだった。
「大きくなったら」が中学生までだなんて、誰が決めたのだろう。確かに身長は止まるし、体の成長という面ではそのあたりが二次性徴の時期でトップなのかもしれない。
けれど、人としての成長はまだまだ、生きている限り途中なのだ。まだまだ私たちは大きくなれる、そう思った。
私は大きくなったら、何になろう。
何がやりたいかを考えると、たくさんある。本に携わる事をやりたいし、書く事もやりたい。写真を撮る事も好きだからカメラマンもいいし、ヨガもやりたいし、着付けの資格も取りたい。料理も好きだし、チクチク何かを縫うこともやりたい。
具体的な案としてはまだ漠然としているが、考えていると子どもの頃に戻ったように、ワクワクした。夢は膨らむばかりだ。
今、私は就職が決まって未来を諦めたころの私に言いたい。人生は死ぬまで続くから、まだまだ終わりじゃないよ、と。
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