ふるさとグランプリ

初めてのゼリーミルクには思い出が詰まっていた《ふるさとグランプリ》


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:かのこ(ライティング・ゼミ)

ある日、ふといきつけの本屋で目に留まった本を開いてみた。
タイトルは「京都で珈琲」――何やら素敵なカフェがたくさん載っている。
何かと理由をつけ、年に2回以上は関西方面に赴くので、次はこの中のどこかのお店に行ってみようかなぁなどと夢想しながらページをめくっていると、1枚の写真が目に飛び込んできた。

喫茶店の中一面が真っ青だ。
こういう少しくすんだブルーを蒼いというのかしら。
青白く光る液体。その中に、七色に光る宝石のようにピカピカしたゼリーが浮かんでいる。そのきらめきをじっと見つめていたら、何だかとても懐かしいと感じた。

これ、どこかで見たことがある。

帰宅して、ごそごそと本棚を漁ってみる。
旅行は、計画準備する時も行っている時も楽しいが、私は帰ってきてから旅のことを思い返す瞬間が一番好きだ。その思い出す過程において大事な相棒であるガイドブックはすべて大事にとってある。

あった! 

手に取ったのは「京都を歩く」刊行は1995年――あなたが歩けるようになってからは、それはたくさんの旅行に連れて行ったのよ、と母には文句を言われそうだが、この本を買ってもらった京都行きが、私の記憶に残る最も古い旅行だ。絵本を読むように、幼き私はこのガイドブックを何度も読み漁った。その中でも一番好きだったのが、この青い喫茶店のゼリーミルクが載っているページだった。

どんな味がするんだろう……と気になってはいたものの、喫茶店は大人が行くものだと思っていたし、修学旅行の時には旅先で行く場所よりも、友人と夜遅くまで語り合うことの方が大事だった。10代の私にとって、まるで絵本の中の美味しそうな料理のように、ゼリーミルクは素敵だけれど現実味を帯びない飲み物だった。

よし、一人旅も大分板についてきた頃だ。
京都はマニアックな場所も含めてほとんど回っているし、今度はこの喫茶店に行ってみよう。そう決めて、私は連休を取り、初秋の京都に向かうことにした。

京都市役所前で電車を降りて、川沿いに歩く。
川沿いのお店には段々と明かりが灯されていく。川沿いの柳がさわさわと風に揺れ、何だか異界に向かっているみたいだな、と思った。そのまま20分ほど歩き続けると、やがて目的の青く光る喫茶店に辿り着いた。

重厚なドアを開けると、優しそうな店主が迎えてくれた。
二階の方が、眺めが良くてくつろげるらしい。平日の18時過ぎということで、人気店にも関わらず店内も人はまばらで、ひとまず私はホッとした。

ソファに体を埋め、ウェイターさんに注文をお願いする。
「ゼリーミルクをひとつ、ください」

我ながら大げさだけれども、注文を終えて、何だかひとつ夢が叶ったような気分になった。
ああ、ようやく夢に見ていたゼリーミルクが現実のものとなる。
わくわくしながら窓の外を眺めていると、川が窓ガラスを透して青白く光って見えて、横を歩いていた時とは違った姿を見せ始めた。

歩いている時には気付かなかったが、喫茶店の前を流れるのは、森鴎外の小説にも出てくるあの有名な高瀬川だ。
かつて、島流しになる罪人を乗せて運んだ渡し舟が通った川―
ミルクを待っている間、薄暗い高瀬川を見下ろしていると、さっきまでの高揚感が次第に薄れ、何だか妙な気分になってきた。

三途の川ってこんな感じかな。

ちょうど祖母が亡くなって間もない頃だった。
90歳の大往生だったので、悲しいというよりも育ててくれたことへの感謝の思いの方が強かった。
祖母は若い時に大病を患って、私が生まれるずっと前からまともなコミュニケーションが出来なかったが、その分世の中の邪気に触れておらず、とても無垢な目をしたひとだった。

きっとおばあちゃんはこの川を無事に渡って、天界に行ったか、生まれ変わる準備をしているんだろうな。

そう祖母の死に思いを巡らすと同時に、果たして自分はこの川を渡るとき、何も問題なく生まれ変わることが出来るのか、とだんだん不安になってきた。
極悪人ではないとは思うが、小さな罪は日々少しづつ犯しているんじゃないか?
毎朝、いつも遅れる私鉄にイライラしていないか?
上司への報告をする際、大げさに言い訳して自分を守っていないか?
思い当たる節はたくさんあった。
一旦思いを巡らすと、これまでの自分の人生の悪行ばかりが思い起こされる。

明日はお寺に行って、座禅にでも参加させて貰おうかな……と己を戒めていたとき、
「お待たせしました」と、ウェイターさんがミルクを運んできてくれた。

何はともあれ、これを目的に来たのだ、とゼリーを一口頬張ってみる。
カラフルな見た目に負けず、味も言葉にならないくらい、美味しい。
何かを食べてすごく美味しいと思えることって、とても幸せだ、と思った。

今までの小さな罪たちはどんなに後悔しても消すことは出来ない。けれどこうして息をして、美味しいものを食べて喜ぶことが出来る人生に感謝することなら、今からだって出来る。人生はまだまだ長い。天界には行けなくても、また地上に生まれ変われるような人にならなければ……と私はミルクを飲みながら襟を正した。

憧れのゼリーミルクを飲みに行く女子旅だったはずが、京都で自分の人生を反省させられることになるとは思わなかった。

今まで昼の姿にばかり気を取られていたが、京都の夜は昼間の明るい雰囲気とは違って、訪れる者をすっぽりと包んで、そのままするりと吸い込んでしまいそうな濡れた黒色をしている。
京都を知り尽くした、なんてどの口が言ったものか。
街中の喫茶店ひとつとってみても、京都には古くからこの地を守ってきた人々の思いが凝縮されている。京都はやはり、他の観光地とは一線を画している。

明日からは1本早い電車に乗ろう――そう心に決め、ゆっくりと店のドアを閉めた。

***
この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。
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