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就活中にテレビ出演してしまった原因は、猫のように忍び寄ってきた運のせいだった


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記事:菊地功祐(ライティング・ゼミ)

「運って一体何なんだろう?」
これまでの平凡な人生の中で、運が必要な場面があまりなかったかもしれない。

運命の人と出会うための運なのか……
人生の岐路に立たされた時に、生まれる運なのか……

私が、運というものを初めて真剣に考えるようになったのは、
就職活動がきっかけだった。

大学4年の時、生まれて初めて見る就活という得体の知れないものに対して、
私は何をしていいかわからなかった。

ひとまず、就活の先輩であるOB訪問をすることにした。

大学のキャリアセンターに登録してあるOBたちの連絡先にメールを送り、
何人かに会うことができた。
すると、どのOBの方々も就活について、だいたい同じようなことを言っていたから不思議だった。

「就活は、ほぼ運と縁だよ」

人生を決める就活って、ほぼ運と縁で決まるのか?

なんじゃこりゃ!

私は中学卒業の時期が来たら、そこそこの高校を受験して、
高校卒業が近くなると、そこそこの偏差値の大学を受験して、
そこそこ有名な大学に入った。

ほとんどの人が歩む社会のレールに、私は知らないうちに乗っかることで安堵していたんだと思う。

社会には、歩むべきレールというものがあるのに、大学生のある時期になったら急に、あとは自分で決めろ! と言われる……

就活って何なんだろう?

突然、社会という海原に放り込まれた感じだった。

どこ向いて走っていけばいいんだ? と私は途方に暮れてしまったが、
ほぼ運と縁で決まるらしい就活という得体の知れないものを、
ひとまずやってみることにした。

エントリーシートを書いては落とされ、
面接をしては、いいなと思っていた会社ほど、お祈りメール(不採用通知)が飛んでくる。
あまり興味がない会社ほど、最終面接まで進んだりした。

同じような顔つきの、同じようなスーツを着ている就活生を、一人一人相手していく面接官も大変だと思う。

受かる人と落ちる人の差って一体なんだ?

15分くらい面接官と話をして、
なんとなくこの人は使えそうだから採用、
なんとなくこの人は、会社の社風に向いてないから不採用……

というような感じで、なんとなくで、採用か不採用か決められていく感じだ。

日本の就活に怒りを感じる人が多いのは、この部分なのだと思う。

初対面の人の顔やしゃべり方の印象を見て、なんとなく仕事ができそうという感じで、その人の人生が決められていく。

ちゃんとした受かる理由や落ちる理由を、当の本人には教えてくれない。

だから不採用通知が連続で来ると、自分は社会に必要とされてない人間のように思えてきて、苦しくなってくるのだ。

私もそんな就活で苦しんだ就活生の一人だった。

大学4年生の7月が近くなり、周囲は内定を決めていく。
ほとんど運と縁という意味のわかんないもので決められていく就活というものに私は嫌気がさしていた。

もうどうにでもなれ!

就活なんかしている自分がかっこ悪い。

そう開き直って、就活をおろそかにして、脚本を書いていた。
大学時代は、私は自主映画を作っていたので、脚本作りには慣れていた。

当時は、現実逃避するかのように無我夢中で脚本を書いていたと思う。

この意味わかんない就活というものをいつか映画にするんだ! と思い、
いつの日かの映画化のために、リサーチという意味を込めて、面接をするようになった。
(この時書いていた就活についての題材は映画「何者」で先を越されてしまった……無念)

この就活という地獄を脚本にしてやる! 
と就活自体よりも脚本を書くことに無我夢中になっていると、運というものは不思議で自分に向いてきた。

ある日、いつものように脚本執筆のためのリサーチと称して、
合同説明会に潜入していた帰り道、
新宿の西口で、とあるテレビディレクターに声をかけられた。

その人はニュース番組を制作していて、7月の猛暑、スーツを着ている就活生に街頭インタビューをしているという。

「暑いのになんでスーツを着ているのか?」 
「なぜ、就活生は周りと同じような格好をするのか?」

こんな質問を投げかけられた。

私はその時、クソ暑いのに、スーツを着せられ、エントリーシートを送っては、落とされまくる日本の就活への怒りがこみ上げてきてしまった。

そして……

テレビカメラに向かってブチ切れてしまったのだ。
今までの就活の恨みを発散するかのように。

「周りと同じような服装をしていないと落とされる気がするから、スーツしか着れない!」

「7月に面接は暑い! 面接の時期というものを大人はもっと考えてくれ!」

こんなことをカメラに向かって叫んだと思う。

するとどうなったか?

夕方のニュースに、スーツを着て、汗だくでカメラに向かって叫んでいる就活生(私)の姿が、全国ネットで流れてしまったのだ。

親戚からLINEががんがん飛んできた。

「さっきテレビに出てなかった?」

「飯食っている時に、テレビで君の姿を見かけて、吹き出したよ!」

LINEが飛びまくる。

テレビの影響力ってこんなにすごいのか……

インターネットが広がり、テレビは終わったとよく言われているが、
こんな時代でも、テレビの影響力は凄まじいんだ。

テレビというマスコミの力を身にしみて感じた。

街頭インタビューでブチ切れたら、夕方のニュースに流れた体験を、
とあるテレビ制作会社の面接で話したところ、爆笑されて、即内定をもらえた。

40社ちかくエントリーしたのに、就活の終わりは呆気なかった。

就活ってこんなもんなのか?

日本の就活はやっぱり、運と縁の要素が大きいみたいだ。

運というものは猫みたいなもので、自分からじゃれ合おうとすると余裕ある素振りでそっぽを向かれ、自分が他のものに夢中になっていると、「もっと私の方にもかまってよ」という感じで、向こうの方から近寄ってくる。

私は、内定をもらえなきゃ死ぬ! という勢いで面接を受けまくっていた。
その時は、運がまったくめぐって来なかった。
しかし、就活に嫌気がさして、脚本を書くことに夢中になっていると、
「もっと私にかまってよ」という感じに、今度は運の方から近寄ってきた。

人の運や縁っていうものは本当に不思議だ。

新宿の西口に行くたびに、私はあの時のことを思い出す。
街頭インタビューのカメラに向かって、就活の恨みを発散した場所。
新宿の西口は毎日、何万人という利用者がいるが、こんな特別な思いを
この場所に持っているのは私ぐらいだろう。

私は今、ライティングというものに無我夢中になっている。
だから、運も猫のように「もっと私にかまってよ」と近づいて来ないかな?
と思ったりしている。

 

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2016-12-01 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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