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出会いには「別れ」がつきものであると教えてくれた、運転手のおじいさん

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:堀部 佳野乃(ライティング・ゼミ 2月コース)
 
 
あなたはもし、明日大切な人がいなくなってしまうとしたら、後悔することはありますか?
 
わたしは先日、自動車免許を取るために学校へ約3週間通った。
わたしが通った自動車学校は、学校の行き帰りをサポートしてくれる送迎バスのサービスを行っている。
今回は、その送迎バスの運転手のおじいさんとの出会いについて話したい。
 
おじいさんと初めて話したのは、学校に通い始めて1週間くらい経ったころ。
バスの担当運転手は毎日変わるのだが、その日初めて、おじいさんがわたしの路線の担当になった。
 
平日の昼間だからか、わたし以外は誰もバスに乗っていない。
 
突然、おじいさんが
「運転は順調?」
と、尋ねてきた。
 
「はい、順調です!
車を運転することが新鮮な体験で、毎日楽しいです」
 
おじいさんとの会話は、そんな感じの始まりだった気がする。
自然と会話がはずみ、いつの間にか話題は恋バナへ。
 
若い女子たちが恋バナを好んでするように、キラキラした目でわたしの恋愛について聞いてくるおじいさんがどこか可愛くて、思わずいろいろ話してしまった。
 
「実は好きな人がいて……。
行きつけのお店のオーナーさんなんですけど、何度か2人でお話ししたり、手作りお菓子を差し入れに持って行ったりしたんです。
そしたら後日、相手の方から食事に誘われたんですよ!」
 
「おお! それは良かったね! それでそれで?」
 
「相手の方が、もつ鍋が好きだって言っていたのを覚えていたから、いきなりハードル高いかなとは思いつつ、もつ鍋でも良いですよって言ったんですよね。
そしたら、相手も喜んでオッケーしてくれたので、次の日に2人でもつ鍋を食べに行くことにしました」
 
「うんうん、それでそれで?」
 
「予定通り、2人でもつ鍋を食べに行きました。
楽しかったです!
でも、お店を出るときに相手の方が一言、疲れた、って言ったんですよ~」
 
「何だと?
それは聞き捨てならん!」
 
わたしは軽い笑い話くらいのテンションで話したのだが、おじいさんは自分のことのように、というか、わたし以上に真剣に怒っていたのだった(笑)
 
(ちなみに、相手の方の名誉のため補足しておくが、とても素敵な方である)
 
ひと通りわたしの恋愛話をした後、今度はおじいさんが自分の奥様について話してくれた。
 
「女房にはね、本当に感謝してるよ。
俺は若い頃は仕事ばっかりだったから、子育ても任せっきりでね。
子どもたちが立派に育ったのは、女房のおかげだよ。
 
女房との出会いは、19歳の頃だったな。
俺が新聞配達の仕事をしていて、女房は自分が担当する地域に住んでいたお嬢さんだったんだよ。
 
ある日、急にラブレターを渡されてね。
バイクに乗って配達している姿がカッコよかったんだとさ。
 
え? おれのどこが? ってびっくりしたけど、嬉しかったね」
 
「素敵ですね!」
 
「ありがとう。
でも、もっと女房に感謝を伝えれば良かったなって、後悔してるよ」
 
「え?」
 
「女房は、もう何年も前に死んでしまった。
若くして、病気でね」
 
少し寂しそうに、でも幸せそうに奥様のことを話すおじいさんのルームミラーに映った顔が、とても印象に残っている。
 
その後も、おじいさんはわたしの路線の担当になるたびに、
 
「最近、恋の方はどう?」
 
と、ニコニコしながら聞いてきた。
おじいさんとの会話はとても楽しくて、30分ほどある帰路もあっという間に感じた。
 
ある日のこと。
おじいさんから、こんなことを言われた。
 
「そろそろ、卒業試験でしょ?
あなたとも、もうすぐお別れだねぇ。
 
あなたは、素直でいい子だよ。
その素直な部分を、これからも大切にしてほしい。
でも素直である分、人を信じやすいだろうから、傷つきやすいんじゃないかって心配だよ」
 
おそらく、まだあの「もつ鍋疲れた事件」を根に持っていたのだろう(笑)
そして最後に一言、
 
「あなたには、幸せになってほしい」
 
そう言ってくれた。
 
わたしは本当に嬉しかった。
 
そしてついに迎えた、卒業試験の日。
 
「試験、どうだった?」
 
「合格しました!」
 
「やったー!」
 
おじいさんとわたしは、ハイタッチをして一緒に試験合格を喜んだ。
おじいさんは自分のことのように、というか、わたし以上に喜んでくれた。
 
わたしが今まで出会ってきた人たちの中には、たった数日間話しただけのおじいさんよりも、多くの時間を過ごした人はたくさんいる。
クラスメイト、部活の先輩、習い事の友達……
 
だけど、おじいさんとの出会い、そしておじいさんがくれた言葉は一生忘れないだろうし、これからもわたしの背中を押してくれるだろう。
自分自身、「一期一会」の精神でおじいさんと真摯に向き合えたと感じる。
 
では、なぜその違いが生まれるのか。
それは、「終わり」を意識しているかどうかだと思う。
 
わたしは、おじいさんと過ごせる時間が、自分が自動車学校に通う間だけだということをわかっていた。
それは、おじいさんも同じだったはず。
だから、お互いに今しかない瞬間を大切に過ごした。
 
おじいさんが一番近くて、一番大切にしていたであろう奥様との間に後悔を残していたこと。
それは、わたしも含めた多くの人が経験するかもしれない、人生での過ちのひとつだ。
 
「もっと両親に感謝を伝えればよかった」
「もっと家族との時間を大切にすればよかった」
「もっと親友の言葉に耳を傾ければよかった」
 
わたしたちは、近くて大切な人に対してほど、その人との時間を「永遠」だと錯覚し、大切なことを伝えそびれ、後悔するのかもしれない。
 
どんな出会いにだって「終わり」がある。
だってわたしたち人間の命には限りがあるのだから。
 
人との出会いで重要なのは、「どのくらい時間を過ごしたか」ではなく、「どんな時間を過ごしたか」であると思う。
 
「あのお嬢さんとの出会いには後悔がないなぁ……」
 
おじいさんがそう思ってくれていたらいいなと、願っている。
 
 
 
 
***
 
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2023-04-21 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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