楽しくピアノがひいてみたい~大人になったから、できることがある~
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:ネナムラ(ライティング・ゼミ4月コース)
「うわぁん、ひけないよぅ!」
こう泣きながら叫んだのは、いい年した大人の私です。
かれこれ30分ほどピアノの前に座り、同じ曲の同じ個所をぐるぐると練習しているのに、毎回どこかをひき間違えてしまいます。
レッスンのために家を出る時間が迫っていて、気持ちも焦ります。
私には無理なのかな?
脳が老化しちゃってるのかな?
そう思って脱力したすきに涙がこぼれ、自分でも恥ずかしくなるような泣き声が出てしまいました。
家に誰もいなくてよかった……。
ピアノに再挑戦しています。
再挑戦というのは、小学生のころにクラシックピアノを習ったことがあるから。
ただ、教室一番の落ちこぼれでした。暗く悲しい思い出しかありません。
私だけ、上達スピードが並外れて遅かったのです。
おそらくピアノは私に向いていません。
ピアノ演奏はかなりのマルチタスクです。
左右10本の指で鍵盤をたたき、足でペダルを踏む。
目では楽譜を追いつつ、鍵盤にも視線を飛ばします。
手足をタコのように操り、あちこちに目を配り……。
こういうの、スポーツでもゲームでも、私はすごく苦手です。
自分の才能のなさが露呈する発表会が一番いやでした。
友だちはベートーベンやモーツァルトをひくのに、私だけ子ども向けの単純な練習曲をあてがわれる。
しかも、それさえ間違えずにひくことができないのです。
屈辱と劣等感にさいなまれ、逃避するように自宅練習をさぼり、ますます上達しないという悪循環。
結局、曲らしい曲は何もひけないまま、教室をやめてしまいました。
みんなのように楽しくピアノをひいてみたかったな。
やめた後も、そう思い続けました。何年もフツフツと……。
ためこんだ気持ちがウン十年を経て爆発したのが昨年のこと。
ダメもとで、もう一度! 死ぬまでに1曲ひけたら上々!
そんな決心をして、自宅近くにあった大人向けのジャズピアノ教室に通い始めました。
続けられるかなと不安も感じつつ始めたレッスンですが、初日から心を奪われました。
先生が目の前でひいてくれる模範演奏のすばらしいこと!
まるで歌っているかのように情緒を感じる演奏で、聞くたびに胸がいっぱいになってしまうのです。
私もがんばれば、延長線上のはるか先には、こんな演奏があるんだ。
これが強い動機になり、子ども時代より今のほうが忙しいはずなのに、時間を確保して練習に励んでいます。
それでも悲しいことに、今日みたいに練習しても上達しないことがあるのです。
泣きながら、再挑戦を始めてからのことを思い返しました。
新しい曲に着手するときはいつも、「こんな難しい曲は無理!」と思います。
子どものころは、ただ練習から逃げた。
でも大人になった今は、困難なことも、岩山に登るように少しずつ攻略すればいいと分かっています。
1小節ずつ丁寧に練習して足場を作っては次の小節へ進んでいけば、ついには曲全体がひけるようになる。
相変わらず上達はゆっくりだけれど、子どものころはひけなかったような曲をマスターしました。
こみあげるような達成感が、たまらなかったな……。
自分の機嫌をとるのだって、昔よりずっとうまくなっています。
今の教室でも、じつは私がダントツの下手っぴです。
でもね、プロじゃないのにあんなに上手な皆さんがおかしい。
才能もないのにがんばる私、初心者の希望の星!
……なんて自分を持ち上げ、それを半ば本気で信じつつあります。
さて、今回はどうするか。
泣きながら考え始めます。
そうだ、脳に糖が行きわたってないのかもしれない。
冷凍ごはんをレンジであたため、好物のキムチと納豆を混ぜて、グスグス、ヒックヒックいいながら食べました。
食べながら、さらに考えます。
そういえば、魚油は脳に良いらしい。
グスグスいいながらスマホをいじり、Amazonでサプリを注文しました。
どうにか涙が止まったころには、もう家を出る時間。
全然ひけないままレッスンへ向かいました。
この豆腐メンタルでは、ささいな言葉で傷つきそうです。
なので、レッスンが始まって開口一番、先生にお願いしました。
「今日はやさしくしてください……」
子どものころは先生の言うことを聞くだけだったけれど、大人になった今は、こんなに図々しい要望も言えるようになりました。
このセリフは言った後で、自分でもキモッと思いましたが。
先生から励ましの言葉をもらい、レッスンが終わるころには気持ちが復活していました。
また練習がんばれそう。
こんな私ですが、このたび都内のライブハウスで、プロのベーシストとドラマーとともに、トリオで演奏します。
観客は、教室の生徒たちと、その家族や友人。
これが私の通うジャズピアノ教室の発表会なのです。
大人向けの教室は、こんなすてきな企画をしてくれます!
思い切り楽しんできます。
***
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