ふるさとグランプリ

私が愛してやまない、丸くて白いあいつ。《ふるさとグランプリ》


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:福居ゆかり(ライティング・ゼミ)

「あー、もうそろそろ、そんな季節やなあ」
今度の週末は父方の実家に行くぞ、と言われた私はしみじみとした。
また今年も、あの行事が始まるのだ。そう思うとワクワクした。

私の好きな、白くて丸いあいつ。
また、あいつに触れる時が来るのだ。
柔らかい感触を思い出すと、自然に手が動いてしまう。側から見ると怪しすぎるので、私はさっと手元を隠したのだった。

「あー、あったかいなあ」
「やっぱり寒い時は焚き火やな」
妹の梨香と並んで火にあたる。
雪が降りそうにどんよりと曇った空の下は寒く、外にいると体の芯まで凍えるようだった。
すると、
「ほんなとこでぼけっとしとらんで、こっち手伝いね!」
と祖母の叱責が飛んできたので、私たちは返事もそこそこに慌ててそちらへ向かった。
水を張った桶にしゃもじを入れ、運ぶ。
梨香は梨香で、薪を焚き火の側へと運んでいた。
「ほら、どいたどいた!」
大きな声がしたと思うと、大きな蒸し器用の鍋を祖母が持ってきた。ぶつからないように避けると、祖母は鍋を火の上にどんっと置いた。
蓋をし、薪の量で火の調節をする。
鍋を蒸している間に、残りの道具を用意する。とは言っても大きくて重いため、専ら道具を出すのは男性陣の仕事である。
「はー、えらいこっちゃ」
「腰がいてぇわぁ」
父と祖父がひいひい言って運んでいた。「ほんなくらいで騒いで、全く情けねえ」と祖母に怒られている。しかし見るからに重そうな道具を運ぶのは一苦労で、私は心の中で祖父と父に同情した。
しばらくして蒸し器の中の様子を見た祖母が「もうええ」と言うと、蓋を取り、母と祖母で両端を掴んで持って来た。道具の中に中身を開けると、ほわぁっとあたたかな湯気があたりに漂った。
「んなら、始めるかな」
祖父が柄を持ちながら言う。
私と妹は「辛くなったら代わるでの」と声をかけた。父が横から「いや、その前に俺やろ」と言っていた。母は蒸し器や火の始末で忙しそうにしていた。
「んなら、よろしく」
合いの手を入れる祖母に対し、祖父が声をかけると祖母は小さく頷いた。
いよいよ始まるのだ。年末恒例の、あの行事が。
「そーれ!」
大きな掛け声が響く。
それと同時に、ぺたん! と勢い良い音が響き、杵が真っ白な餅米を叩いた。

皆で代わる代わる餅をつき、汗を拭きながら全員で家の中に入る。
もちろん、ついた餅も一緒だ。
新聞紙を広げ、お盆を用意し、そこに粉を撒く。餅を真ん中にして私たちは座り、手に粉をつけた。
餅を千切るのは祖父の役目だ。均一に同じ大きさになるよう千切らねばならず、しかも熱いので慣れが必要な作業だった。
千切られた餅をそれぞれが手に取り、丸める。表面にシワが出来ないよう、丸く滑らかな形に整える。そうして、お盆の上に並べていくのだ。
小さい頃はまだ触ると熱い餅にびっくりし、うまく丸められず変な形にしては、そのまま自分の口に入れていた。小学校の高学年くらいから、うまく丸めるコツを掴んだのだった。
そのコツは、左手にある。右手で餅を丸めながら、左手の親指を動かし、外面を中心部に向かって入れ込むのだ。そうすると、表面がつるんとした仕上がりになる。
一度慣れてしまえば簡単で、毎年柔らかい餅に触れ、せっせと丸めることが楽しみになってしまっていた。綺麗に丸めた餅がお盆にずらっと並ぶその光景は爽快だった。
自分たちでついて、丸めた餅は格別だ。それをお正月に食べることを毎年、私は楽しみにしていたのだった。

福井県の雑煮は味噌味だ。
味噌汁の中に、丸い餅がぽっかりとお月様のように浮かぶ。具は、その餅だけだ。
だからこそ丸い餅は正月になくてはならず、餅つきは恒例行事となっていたのであった。

「……あれ?」
スーパーで私は呟いた。
袋入りの餅を手にとって眺める。
「どーしたの、ゆかり」
「いや、……餅が四角くない?」
私が言うと、友人は不思議そうに
「えっ、だってお餅は四角でしょ。丸いのは鏡餅だけじゃん」
と言った。
えええええ、と私は衝撃を受けた。四角の餅、四角の餅。そういえば、ごくたまにスーパーで見かけたような。
けれど福井では売っているのも丸餅だ。なんせ、丸い餅が並んで機械から流れて来て、袋詰めされているCMまで流れているのだから。

と、いうことは。
私の無駄に上手な餅を丸める動作は、ここでは発揮できないということだ。
そう思うと、餅の感触が懐かしく、無性に寂しくなったのだった。

今でも、正月になるとみんなでついた丸い餅と、味噌味の雑煮を思い出す。
関東ではしょうゆ味の雑煮に四角い餅なので、子どもたちにその文化を引き継げないことが少し悲しい。
けれど、今は餅つき機なんて便利なものがあるので、そのうち私はそれを利用してまた出会いたいと思う。
私の愛する、丸くて白い餅に。

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