どの席に座るかで、未来は変わるんだよ。
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:宇都宮 秀男((ライティング・ゼミ6月コース)
父親が74歳で建設会社の役員を退任した。
その退任祝いも兼ねて、ふるさとの別府に一時帰省した。
退職したら昼まで寝て、のんびり起きて……という暮らしに変わるのかなと漠然とイメージを持っていた。しかし父はこれまでと同じように毎日、早朝5時過ぎに起きては、家の手入れ、ガーデンづくりを楽しそうにやっていた。
父は工業高校を卒業してからずっと55年建設業界で働いてきた。
僕の記憶では、父はいつも朝7時過ぎには出勤し、誰よりも早く仕事を始めていた。一緒に朝食を食べた記憶がほとんどないし、病気で寝込んで会社を休んだという記憶も一度もない。とてつもないパワプルオヤジである。
「何事も前向きでいることが大事なんだ」
僕を大分空港まで迎えにきてくれた父は車中でそう言った。「よし、今から名言めいたことを口にしてみよう」という気負いもてらいもなく、さらりと言ってのけた。
そうか、前を向いているから、また次の何かを探せるのだろう。今はガーデンづくりを計画立てながらやるのが楽しそうだった。
別府に帰省してから数日後。
何かの雑誌で見てずっと行きたいと思っていたカフェ&オーベルジュの『KAMENOS』に行ってみた。カフェから別府湾を一望できる素敵なカフェだ。
そして目の前では、初老のおじいさんが一人で食事をしていた。そこにオーナーのマダムが座って、気さくに話しかけている。なんて優しい素敵な光景だ。
「東京から大分に最近移住して……映像関係の仕事で……」みたいな声が聞こえてくる。席が離れているから、ぼんやりとしか聞こえない。
そして帰る際になって、マダムとこんなやりとりをした。
マダム「ちなみに普段はどちらにいらっしゃるの?」
僕「東京です。実家が別府でして」
マダム「何のお仕事をされているの?」
僕「映像関係です」
マダム「えー、そうなの……。さっきまでいらっしゃった男性のお客さんも、東京で映像関係の仕事をしてるって言ってたらから紹介したかったー」
僕「あ、そうでしたか」
そうでしたか……と言いながら、
内心、「やっぱりそうだったか」と思った。
まさかここでそういう出会いのチャンスがあるなんて思ってもみなかったから、あの時、わざわざ身を乗り出して会話に入っていく勇気もなかった。
そして、再び東京へ戻り、僕はある著名な経営者の講演会に行った。
出発前の準備がもたついたり、交通機関が遅れたりして、結局、開演ギリギリの到着。僕は最後尾の席に座った。
すると、経営者は、いきなりこう言った。
「あのね、どの席に座るかで、人の未来は変わるんだよ」
僕はドキッとした。
「積極性の高い人は、いつも最前列のセンターに座る」
講演会では、隣同士の席の人と簡単なワークショップをやるのだが、積極性の高い人同士がつながるし、つまるところ積極性の低い人同士がつながることになる。実際に最後列にいる隣の人たちと連絡先を交換したいとまでは思えなかった。
そして講演会で、経営者はこう言った。
「後ろの方の席に座る人は自らチャンスを放棄しているんだよね。前の人たちに『どうぞ私の分までチャンスを持って行ってください』って言っているようなもんなんだよ」
僕は自分に足りなかったものにハッと気付かされた気がした。
後ろに座ることの安堵感と引き換えに、
逃していたこともたくさんあったのではないか。
父はいつも朝早く、誰よりも早く出社して掃除したりしながら仕事をしていた。積極性の塊でしかない。そういう人にはいいチャンスが巡ってきそうだし、実際、父は強運の持ち主だ。人生を謳歌しまくっている。
僕は『KAMENOS』で初老のおじいさんに話しかけられなかったのも、セミナー最後尾に座っていたのも、足りなかったのは「積極性」だ。おそらく父親なら何の気負いもてらいもなく気軽に声をかけたかもしれないし、セミナーの最前列に座っていたかもしれない。
思えば天狼院のライティング・ゼミの初回講義でさえ、早く到着して前のほうの席が空いているのに、後ろの席に座ってしまっていた。
もちろん行動を起こしたとして、何も発展はしなかった可能性はある。だが、そこが問題じゃない。やった後悔より、やらなかった後悔のほうが大きいということなのだ。
悔しい。悔しすぎるし、これを書き記すこの瞬間でさえ悔しさと恥ずかしさが込み上げる。ただ、そんな自分から卒業したくて僕は今、これを書いている。僕と同じように後方に座り続けてしまうタイプの同志に向けて、これが何らかの糧になればと思い書いている。
この一連の出来事を書く上で、唯一の心の支えになっているのは、やはり、あの父親の言葉だ。
「何事も前向きでいることが大事なんだ」
そうだ、いつか最前列に座るメンタリティに変えてみてどう変わったかの「後日談」を書くことが、今の楽しみの一つである。
***
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