笑顔を捨てよ、ネガティブになれ
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記事:坂本えみ(ライティング・ゼミ)
「この中で誰が一番好き?」
中学生の頃、流行りの少女漫画を巡って、よくそんな会話が交わされていた。
どの漫画にも大抵人気を集める人物がいて、なぜその子がいいのか、いや絶対こっちでしょ、という話で、いつまでも盛り上がっていた。
当時の私は、恋愛に縁のない非モテ女子だった。
いつか私にもこんな恋をする日が来るのかな、いやきっと無理だ、期待しちゃだめだ……と自分に言い聞かせては、ラブストーリーに胸をときめかせていた。
そんな私に、20歳を迎える直前、初めて恋人ができた。
大学のサークルで知り合い、毎日メールを交わしたり、たまに食事に行ったりするようになって、お付き合いを始めることになった。
付き合う直前、もっと一緒にいたいという思いが募ってしまい、山手線のとある駅の改札前で、強く抱き合ったことを覚えている。
今でも思い出すだけで、叫びたくなるほど恥ずかしい。
若かったのだ。
そうやって燃え上がった恋は、半年も経たないうちに、終わりを告げた。
よくある話だ。
周りを見ても、別れていくカップルは山ほどいた。
それでも、当時の私は、別れるなんて選択肢はこれっぽっちも想像していなかった。
ずっとこのまま一緒にいて、いつか結婚して、子供を産んで、そして一緒に縁側でお茶をすするんだと本気で信じていた。
別れを告げられる前に、彼の気持ちが少しずつ私から離れていたことには気がついていた。
何故こんなことになってしまったんだろうと、毎日のように考えていた。
でも、いろんな気持ちを心の奥底にしまいこんで、「これまで本当にありがとう」「これからも友達でいようね」と笑顔で別れを告げた。
周りの友人にも、「付き合えただけでも幸せだったの」と報告をした。
そのあとも何度か恋をしたけれど、相手に彼女がいたり、告白して振られたりの繰り返しで、お付き合いには至らなかった。
その度に私は、時には心の中で、時には本人に向かって、同じ言葉を発していた。
「これまで本当にありがとう」
「これからも友達でいようね」
そして、30歳を目前にした冬。
10年ぶりに、二人目の恋人ができた。
燃え上がるような恋とは程遠く、ずっと仲良くしていた男友達とお互いの気持ちを伝え合って、付き合うことを決めた。
しばらくして一緒に住み始めることになり、引越しに向けて部屋を片付けていると、クローゼットの奥から、ごっそり少女漫画が出てきた。
中学生の頃、友達とよく語り合った漫画だった。
私は片付けを放り出して、全巻むさぼり読んだ。
久しぶりのときめきに胸を高鳴らせていたその時、思わず私のページをめくる手が止まった。
「これまで本当にありがとう」
「これからも友達でいようね」
それは、中学生の頃にいつも一番人気だった登場人物が、大好きな恋人と別れるシーンで口にした言葉だった。
相手の幸せを願って。
自分が振られても笑顔で。
ちゃんと前向きに、相手に感謝して。
ああ、と思った。
そうか。
私はずっと、こういう女の子になりたかったのだ。
どんなに悲しい別れが来ても、ポジティブに前を向いて、ちゃんと笑顔で別れを告げる。
相手の幸せを本気で願っている、そんな女の子に。
その漫画では、紆余曲折を経て、彼女の元に別れた恋人が戻ってくる。
だが、しかし。
アラサーの私は、もうとっくに知っている。
現実はそんなに上手くいかないし、別れた恋人は戻ってはこない。
相手の幸せを願っても、いつも笑顔でいても、心の底に悲しくて醜い思いが渦巻いていた。
初めて付き合ったあの人が、実は他の女の子の家に何度も通っていたこと。
私のどういうところが嫌なのか、友達に笑って話していたこと。
本当は全部知っていたし、すごく悲しかったし、なんでそんなことするんだろうと思っていた。
こっそりSNSで、あの人の女友達を片っぱしから検索しては、浮気を疑った夜もあった。
でも、本人の前では、何も言わず、何も知らないふりをして、「今までありがとう」「これからも友達でいようね」と笑顔で別れを告げた。
あの時、もっと正直になって良かったのだ。
思いっきり泣いたり、怒ったり、恨みつらみをぶつけたりしてもよかった。
この世の中は少女漫画じゃないし、私はその登場人物じゃない。そして相手も、生身の男の人だ。
ずっと一緒にいるつもりだったなら、自分の奥底にある醜い部分も、相手の嫌な部分も、目を逸らさずにちゃんと見つめるべきだったのだ。
そのことに気がつくのに、なんと10年近くかかってしまった。
私は小さく笑って、その漫画をすべて紐でしばって、古本屋さんに売ってしまった。
こうして少女漫画の呪縛から解き放たれた私は、
この文章を書きながら、次に恋人と別れることがあったら、なんて言おうかと考えている。
「ずっと恨み続けるからね」とか。
「不幸になってしまえ!」とか。
「誰かと結婚してもSNSで報告しないでね」も重要だ。
うーん。
でもやっぱり。
「これまで本当にありがとう」くらいは言える女性でありたいな。
あの漫画、買い戻した方がいいかしら。
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