メディアグランプリ

母を「面白れぇ女」に格上げしたXmasの赤かぶ事件


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記事:パナ子(ライティング実践教室)
 
 
「あー! どうしよっかなー!! やっぱアレクサかなぁ!?」
聖夜にもらうプレゼントで頭がいっぱいの様子の長男(7才)を見ていると(もう、そんな時期か)とハッとする。少し向こうで足踏みしている師走がこちらに突入してくるのも時間の問題だ。
 
日頃利用しているSNSでも、多くの親たちが子供の願いを叶えるために動き出している。「何が欲しいのか」をあくまで自然な形で聞き出す様子はもはや刑事の事情聴取もしくはカウンセリング……ともかく子供たちが何の疑いもなしにサンタの存在を信じているのが微笑ましく、そしてちょっぴりうらやましい。
 
私には、サンタクロースの存在を盲目的に信じた経験がない。
それを決定的にしたのは、今は亡き母が起こしたある事件だった。
 
母はゆるくパート勤務などする時もありながら、大体は主婦をしていたのだけれど、自分が「これは!」と思ったものへの情熱の注ぎ方が尋常ではなかった。
 
ある時はお菓子作りに没頭したが、それがなぜか栗饅頭一択。寝ても覚めても栗饅頭栗饅頭栗饅頭……。近所のお菓子の師に教わったとかで焼き上がりに納得のいかない母は、そこそこ値が張る栗の甘露煮を買ってきては生地を練り上げ栗饅頭を焼きまくった。栗とにらめっこし続けたおかげで、栗饅頭は最終的にお店のレベルまでになったが、その分ディナーはおかずなしの納豆ご飯になったこともあった。
 
またある時はニットを編むことにハマった。家族が切るセーターやカーディガンを次から次に制作し「どうしてもここの編み方がわからないから!」と夜にチャリを飛ばしてニットの師を仰ぐこともあった。今思えばなかなかの非常識さに胸が震える。
 
とにかく、何かが降りてきた時はもうその事以外考えられない様子の母はまるで、筆がノッてきたからと寝食を忘れてボロボロになりながらも書き続ける文豪のようでもあった。一般人の主婦でありながらその生き様はロックを感じさせずにはいられない。というかゾーン入っちゃった母はもう誰も止めることができないのだ。
 
とはいえ、極端に衣食住で困ることもなかったし、明るく賑やかだし、子供に何かあれば鞘から刀を抜く勢いで学校にも飛んでいくような情に厚い母を私は愛していた。
 
小学2年生の12月、まだクラスメイトの大半は信じているような大変可愛らしい状況のなかでも私はサンタへの多大なる信頼というものを抱けずにいた。実績がないのだ。過去に(もしかしたら)と紙にリクエストを書いてみたものの淡い期待は外れ、枕元にはブーツに入ったお菓子やちょっとした文具がなんとなく置いているだけだった。何にもないわけでもないし、この中途半端な状況は小2女子を悩ませるには十分だった。
 
そしていよいよその中途半端な状況を一気に解決するときが来た。
25日、クリスマス当日の朝、今回ばかりはこれまでの不安を払拭するような大きなプレゼントがないものかと期待に胸を膨らませ薄目を開けた。
 
すると、目に飛び込んできたのは、枕元に転がる二つのかぶだった。
しかも大きくて赤い!
何が色だけでもクリスマス仕様だよ!!
怒りに震えた私と4つ離れた姉は早速そのカブを手に一つずつ持って母に抗議に行った。
 
「ちょっと! お母さん!! なんでかぶなの!!!!!」
すると台所に立っていた母は振り返りながら笑ってこう言った。
「あらー! かぶ!? いいじゃない! あれ? なんかメッセージ……」
言われて目を凝らすとカブには油性ペンでメリークリスマス! とある。しかもご丁寧にへのへのもへじまで描いてある。
メリークリスマスの文字が何の修正もなく、思いっきり母の薄くて流れるような癖字だったのを見た時、偽サンタのキャラが強すぎて込み上げてくる笑いをもう止めることはできなかった。
ブハハハハハハ! ごまかす気ないんかい!
 
お金がなかったからなのか、これでひと笑い取りたかったのか、真相は定かではないが母は私たちの手からかぶを受け取るとこう言った。
「よし! 今夜はこれでかぶパーティをしよう!」
結局その夜はチキンでもローストビーフでもなく、酢漬けやらサラダやら味噌汁やら赤かぶのオンパレードで泣けるほど体に優しいディナーとなった。
 
母を「面白れぇ女」に格上げしたこの事件は、今もなお、私と姉の間で語り続けられる伝説となったのである。
 
その物事の善悪をいったん枠外に蹴とばして考えていいとしたら、振り切った何かを持つ人間とは、時に周囲には魅力的にさえ映ることがある。
私が10才の頃、かつての名優、勝新太郎は違法薬物で逮捕され記者会見でこう言った。
 
「(違法薬物が)勝手にパンツに入っていた。もう一生パンツをはかないようにする」
誰もが論点はそこじゃないだろーっと思ったはずだが、そのすっとぼけながらも機転の利いた物言いをする彼に、呆れながらも面白みや可愛らしさ、人間味を感じてしまったからこそ、多くの人に愛されたのかもしれないと思ったりする。
 
こんな大物と肩を並べさせるのは大変恐縮な話だが、やはり母にもそれに通ずるところがあるような気がするのだ。母は54才という若さでこの世を去ったが、端からみても「楽しかっただろうね」という人生を歩んだ。好きなものは必ず手をつけたし、会いたい人には会いにいく手間を惜しまなかった。母として必要なことは私たちに与えてくれたが、かといって自分が犠牲になる気も毛頭なかった。だから母の口から「あんたたちの為に○○したのに」という愚痴めいた言葉も出なかったのだろう。
 
果たして私は母みたいになれるだろうか。
良妻賢母枠にも面白れぇ枠にもまだ入りきれてない中途半端な私は、今年のクリスマスに向けてアマゾンでプレゼントをポチったり、百均で包装紙を購入したりする。いつか息子たちに「面白れぇ女」と言われる日を夢見ながら。
 
 
 
 
***
 
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2023-11-22 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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