不妊治療で究極にお金の不安を感じたから、寄付してみた
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記事:淋代朋美(ライティング・ゼミ2月コース)
今月のクレジットカードの請求額も、先月と同じく50万円を超えていた。
いつまでこれが続くんだろう。
お金の不安……。というか、もはや恐怖だった。
その時私は、不妊治療をしていた。治療を始めて3ヶ月が経過した頃だ。
不妊治療における、お金の不安との闘い。
治療をした多くの人が、この不安を感じたことがあるのではないだろうか。
今でこそ、不妊治療は保険適用となったため(2022年4月より)、費用負担が軽減されたとは思う。しかし、それも、年齢制限や回数制限、治療内容の制限などがあり、治療を受ける側にとっては、万全の体制とは言えないだろう。
私が治療を受けていた頃は、この保険適用すら整備されていなかったため、当然ながら全額自己負担だった。
治療開始前に、費用面の予測を立てることも、難しかった。どの治療にいくらかかるなどの情報は開示されていたものの、自分がこれからどの治療を受ける必要があるのか、素人にはよくわからない。
実際、開始してみたら、2ヶ月連続50万円超えの請求が来たのだ。治療する病院を決めた時には、クレジットカードが使える病院で良かった! などと思ったりもしたが、カード会社から付与されるポイントなんて、焼け石に水、だった。
金銭感覚が麻痺する。
よく、マイホームを購入すると金銭感覚が麻痺して、数万くらいだと安い気がしてオプションをつけまくってしまう、という話を聞くが、まさにその状態。
ただ、マイホーム購入なら、あらかじめ総額が見えているのに加え、マイホームという資産が残る。
しかし、不妊治療は……一体いつまでその治療が続くのか、誰にもわからなければ、お金をかけ続けたら結果が出るかどうかも、神のみぞ知る、なのである。
貯金はあるには、あった。
結婚して5年。旅行という趣味はあったが、お互いフルタイムで働いていたし、それなりに「老後」を意識し始める年齢に差し掛かっていた。生きていくのに必要な貯蓄はお互いにしていた。
ある。でも、怖い。怖いのだ。
貯金が底をついてしまうかもしれないから? そうなった場合に、私たちの未来の何かを諦めなくてはいけなくなるから?
正直、それはある。ただ、その「諦める何か」は、夢が叶えられないとかそんな大それたものではなくて、旅行をしばらくの間は年1回で我慢するとか、その程度のもの。
その程度の怖さと引き換えるくらいなら、不妊治療などしなければいい。
むしろ、不妊治療にお金を使わないということのほうが、子供を産み育てるという人生の大きな夢を諦めるという、大それたものだと思う。
じゃあ、何? この怖さの正体は?
そして、どうしたら、この怖さを解消できる?
そこで私は、奇策に出た。
寄付することにしたのだ。
一度きりではなく、毎月定期的に。期間は、不妊治療を終える時まで、と決めた。
なぜ出ていくお金の不安がある時に、わざわざ寄付する? と思われるかもしれない。実際、この話を友人にすると、100%の確率で、なぜ? と聞かれた。
理由は、ただひとつ。
心の豊かさを先に手にいれるため、だ。
当時私は、ファイナンシャルプランナーという仕事をしていた。たくさんの人の人生設計のお手伝いをする中で、その人たちのお金に対する価値観を聞くことができた。
お金の価値とは、本当に不思議なのだ。その価値は一律で、平等であるにも関わらず、そこから得られる豊かさは、誰がそのお金を手にするかによって大きく変動するように思えた。
仮に私が、100円ショップで「なんでも好きなものをひとつ買っていいよ」と言われたら、生活に必要な実用的なものを選ぶだろう。おそらく今なら、ちょうど買い替えを検討していた食器洗い用のスポンジだろうか。そこには特になんの感動もなく、あっても、スポンジが新しくなって気持ちがいいな、くらいの感情だけだろう。
しかし、もし今、私が3歳の子供だったら、同じように100円ショップで「なんでも好きなものをひとつ買っていいよ」と言われたらどうだろう。おそらく、店舗中を探索し、何十分もかけて心が一番動くものを見つけ、心躍らせながらレジでお金を払うだろう。家に帰るまでもそれを手から離さず、家族に今日のお店でのできごとの一部始終を話し、大切に大切に、それを使うだろう。
100円で、得られる心の豊かさが、全く違うのだ。
つまり、物質的にある量に関わらず、「豊かだ」と思えば「豊か」だし、「不安だ」と思えば「不安」になる。ただのお金持ちであれば、常になくなる不安と隣り合わせだし、真に豊かなお金持ちは、どれだけ人や社会のために使っても、豊かであり続ける。
気持ち次第でいかようにでも変化するのが、お金という存在の正体のような気がした。
それであれば、先に気持ちだけでも「豊か」でいようと思ったのだ。
そして、物質的なお金は使っても、心の貧乏になるのはやめようと決めたのだ。
寄付する先は、子供たちの豊かな未来につながる場所がいいと思った。
そこで、児童養護施設の子供たちを支援するN P O法人にした。
例え、不妊治療で子供を授かることができなくても、この行動がどこかで子供たちを笑顔にすることができたら……と思ったら、それだけで、私の心を母にし、豊かにしてくれた。
これは壮大な人体実験のつもりだった。
心の豊かさを先に手に入れるために行動したら、本当に、お金の不安が消えるのかどうか……。
結論から言うと、私の場合は、不安はどこかに溶けていった。お金の不安がなくなると、不思議と、不妊治療自体が楽しくて仕方なくなった。毎回病院に足を運ぶのが、楽しかった。都度何万というお金が飛んでいくのに。苦しさとは無縁だった。
そのおかげかどうかはわからないが……。そこから2ヶ月ほどで、私の不妊治療は終わった。子供を授かる、という結果で。
私はもしかしたら、天に寄付をしていたのかもしれない。そんなことを思った。
妊娠がわかった後も、寄付はそのまま1年続けた。
約5年の不妊期間を経て臨んだ不妊治療は、自己負担総額約200万円、5ヶ月間で終了した。それが高かったのか、長かったのか、それは人と比べてもなんの意味もなさないことだとわかっている。ただひとつ言えるのは、その金額も期間も、私にとっては幸せの象徴であるということ。今、目の前で元気に笑う娘を見ていると、娘に出会うまでのあの道のりを「豊か」に染めておいて良かったと思うのだ。
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