トイレ記念日を制定して、かけがえのない幸せに感謝する
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記事:吉田実香(ライティング・ゼミ9月コース)
最近、トイレで幸せを感じるようになった。
心に余裕があるときではないと感じられないのだけれど、トイレに座っているとき、すっきりしてトイレを出るときに、「あー、シアワセだなぁ……」と思えるようになった。
私は、介護職員として10年ほど特養などの介護施設で働き、現在はケアマネジャーとしてお年寄りと関わり続けている。
老化や病気、障害によって、思うように体が動かせなくなってしまった方々のお手伝いをしてきた。
だから、自分でトイレに行かれることは、幸せなことだとわかっていた。
トイレだけではなく、見えること、聞こえること、食べられること、歩けること……、毎日自分が当たり前にしていることが当たり前ではなく、どんなに幸せなことかはわかっているつもりだった。
祖父母が年老いて、自分でできることが減っていく姿を見ていたときにも、そう思ったはずだった。
でも、わかっていなかった。
頭でわかっていただけで、心から、全身で、自分ごととしては、わかっていなかったのだ。
そのことを理解するに至ったのは、半年あまり、トイレについて悩んだからだった。
それは、自分のトイレではなく、愛犬のトイレについての悩みだった。
愛犬が、家でトイレをしなくなってしまったのだ。
仔犬の頃、わりとすぐにトイレを覚えてくれたので、トイレトレーニングに苦労した覚えはない。
犬の散歩のマナーとして、トイレは家で済ませて外では排泄させない、と教わった。大を持ち帰るのは当たり前だけど、小も水で流したとしても道路や電柱を汚してしまうことには変わりないし、木々や植物にも悪影響だから外ではさせないように、でも、散歩の刺激で催してしまうこともあるから、そのときは後始末をきれいにするように、と。
家でトイレをしてくれるから、そのマナーはずっと守れていたし、雨で散歩に行かれない日があっても、運動不足にならないように遊んであげれば問題なかった。
それなのに、家でトイレをしなくなってしまった。
一年ほど前から、散歩を待って、家でのトイレの回数が減ったとは感じていた。
でも、たいしたことではないと思っていたら、気がついたら家でまったくトイレをしなくなってしまっていた。
いろいろ調べてみると、シニア期にはよくあることだと知った。愛犬は8歳だから、人間でいうと48歳くらい、立派なシニアといえる。
かかりつけの先生にも相談したところ、「もともと家でしていたのだから、我慢できなくなったらするから大丈夫。そうやって気にしていると、それが伝わって余計にしなくなるから、気にしない方がいい」と言われた。
そうか、気にしないほうがいいのか、気にしない、気にしない……。
気にしてはいけない、と思いっきり気にしていた。
愛犬がトイレの近くに行く度に気になり、でも、見つめていたら愛犬も気になるだろうから、そっと、といいつつぜんぜんそっとではない眼差しで見つめたり、聞き耳を立ててしまったりしていた。
天気予報も気になり、雨予報ならば何時に雨は止むのかと、執拗に天気予報をチェックするようにもなってしまった。
そんな日々を過ごす中、台風で一日半家から出られなかったときに、28時間もトイレを我慢してしまった。
病院でみてもらって問題なかったが、「だから、気にしすぎ」と、私の問題だと言われてしまった。
もう、どうしていいかわからなかった。
大切な愛犬の体を心配しない、気にしない、なんて無理だ。
でも、これを機に少しふっきれて、「飼い主に似ずに我慢強いねー、強い子だねー、私も見習うよー」と毎日ほめるようになった。
それでも、愛犬は、なかなか家でトイレをしなかった。
それが突然、家でトイレをするようになった。
まったく家でトイレをしなくなって半年以上経過していた、9月30日のことだった。
以前は、毎朝、起きたらまず自分がトイレに行って、その次に愛犬のトイレ掃除をするのが日課だったが、最近はあまりにも家でしないため、トイレをチェックすることすら忘れていた。
バタバタと身支度をしていて、ふとトイレを見ると、しているではないか!
え? どうしたの? なにがあったの? えらいね! すごいね! とまだ寝ていた愛犬をわしゃわしゃなでまわして、抱っこしてスキップして喜んだ。
愛犬が家でトイレをしてくれることが、こんなに嬉しいなんて、安心できるなんて!
仔犬の頃に、トイレを覚えてくれたときより、ずっとずっと嬉しかった。
その日を境に、以前のように家でトイレをするようになった。
どうしてするようになったのか、そもそもどうして半年以上もしてくれなかったのかは、謎だ。
なんとなく外の開放感がいいと思っているうちに、私が気にしすぎていたことがプレッシャーになってできなくなってしまったのか。
我慢強いと毎日ほめたことで、以前のように家でトイレをしてもいいと思ってくれたのか。
なんなのだろう? 永遠の謎だ。
愛犬のトイレ問題が解決した安堵感とともに、改めてトイレを我慢する辛さを思って胸が苦しくなったが、愛犬が身をもって教えてくれたのだ。
愛犬も私も、自分でトイレに行かれる幸せ、それだけではなく普段当たり前だと思っていることのすべてが当たり前ではなく、かけがえのない幸せだということを。
だから、9月30日を「トイレ記念日」として、当たり前の幸せなんてないことを忘れないようにしたいと思う。
もちろん、9月30日だけではなく、日々感謝を忘れないように、心の余裕があってもなくても、トイレに行くたびに幸せを感じられる人間になりたいと思う。
***
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