小学1年生がトラベルプランナーに教えてくれた、博物館の楽しさ
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記事:須田 久仁彦(ライティング・ゼミ)
先日、小学1年生の甥っ子と幼稚園児の姪っ子を、ある博物館に連れて行った。この博物館は自然をテーマにした博物館で、とても人気のある場所である。トラベルプランナーとして、幼稚園や学校の遠足をお手伝いさせて頂く機会も多いが、その目的地としてもこの博物館の人気は極めて高い。
甥っ子は大の恐竜好きである。母親である私の妹に話を聞くと、家でも図鑑やDVDを飽きずにしょっちゅう見ているようである。ちょうど甥っ子の誕生日が近づき、モノだけではなく、何か体験もプレゼントしたいと考えていた。そして、この博物館のことが頭に浮かんだ。博物館には恐竜の化石も数多く展示されていたからだ。
それを妹に連絡し、甥っ子に伝えてもらうと「行きたい!」と即答だったようである。こうして、甥っ子の他、妹や姪っ子にも付いてきてもらい、博物館へと行くことになった。もちろん甥っ子に心ゆくまで博物館を楽しんでもらうのが最大の目的だったが、実は私にとってはもう一つの目的があった。
当日の朝、妹たちと待ち合わせ、車で博物館に向かった。人気の博物館ということもあり、10時頃に到着した時にはすでに駐車場にはかなりの車が停まっていた。よほど楽しみにしていたのか、甥っ子は早くも興奮気味だった。さっそく入館すると、まずは実物大に組み上げられたマンモスの化石が出迎えてくれた。あまりの大きさに私自身、「あれ? こんなに大きかったっけ?」と驚くくらいだった。しかし、驚くのはまだ早かった。展示スペースに足を踏み入れると、そこは吹き抜けになっており、10数メートルはあろうかという巨大な草食恐竜の実物大の化石が組み上げられていたのだ。
あまりの大きさに呆気にとられた私だったが、傍らを見ると、甥っ子は驚くよりも目をキラキラさせていた。どうやら、彼にとって大きさはあまり驚きの対象にはなっていないようだった。
展示スペースをさらに進んでゆくと、さらに大小様々な恐竜の化石や復元模型が並んでいた。また実際の化石に触れられる場所もあった。嬉しそうに駆け寄っては、様々な角度から恐竜を眺め、触れてゆく甥っ子だったが、それだけではなかった。「おじちゃん、この恐竜はね……」と恐竜一つ一つの説明をしてくれたのだ。それは小学生とは思えないくらいに詳しいばかりか、熱狂的とすら感じられるものだった。
その知識に驚くとともに、熱狂的に語る甥っ子を微笑ましく思ったが、そこで彼が恐竜の大きさに驚かなかった理由が分かってきた。
彼にとって恐竜はアイドルだったのだ。甥っ子は毎日、恐竜の図鑑やDVDを見ていた。そのため彼の中で、ある程度大きさなどはイメージが出来ていたのだ。それよりも普段、図鑑やDVDの中でしか見ることが出来ない「恐竜」というアイドルを生で見られることの方が嬉しかったのだ。そして、その愛情が甥っ子を熱狂的に語らせていたのだ。
これだけでも連れてきた甲斐があったと思ったが、展示スペースにはまだまだ続きがあった。次に入ったのは、森の中の様子を精巧に再現した部屋だった。様々な生き物の剥製が躍動感を持って展示され、まるで実際に森の中に迷い込んだような感覚になるくらいだった。
恐竜というアイドルに出会った直後で、甥っ子のテンションも落ち着くかと思いきや、ここでも興味津々に森の様子を行ったり来たりしながら見続けていた。何をそんなに行ったり来たりしているのか? 甥っ子に聞いてみた。すると、「おじちゃん、この中にいっぱい動物や虫が隠れているよ」と目をキラキラさせたまま答えてくれた。森の中に潜む、様々な生き物や虫を見つけるのが楽しかったのだ。確かに目を凝らして見れば見るほど、生き物や虫を見つけることが出来た。誰に教えられたわけでもないが、甥っ子なりに宝探しのような楽しみ方を直感的に見つけていたのだ。
そして、館内を楽しんだ後は、屋外へと移動した。この博物館は館内だけでなく、屋外にも自然を楽しく体験できる施設が充実しているのも人気の理由だった。トランポリンのように飛び跳ねたり、複雑に組み合わされた縄の中をくぐり抜ける遊具のような施設もあり、ここでは甥っ子だけでなく、姪っ子も十分に楽しんだようだった。
屋外の施設を満喫した後は、館内に戻り妹が作ってきてくれたお弁当をみんなで食べた。ここまで3時間近く休むことなく動き回っていたこともあり、もう少し休みたかったが、子供達はまだまだ楽しみ足りないようだった。まさにエネルギーの塊だった。
お昼を食べた後も、館内の好きな場所を好きなだけ楽しんでもらい、博物館を出たのは15時前。お弁当の時間を除き、実に4時間半近くも休みなく動き回っていた。
「お兄ちゃん、本当にありがとうね!」帰りの車の中で妹が私に感謝しつつ、缶コーヒーを渡してくれた。さすがに疲れたのか、甥っ子も姪っ子も車に乗ってからすぐに寝てしまっていた。「いや、ここまで楽しんでくれたんだから、連れて来た甲斐があったよ」疲れた体にコーヒーが染み渡るのを心地よく感じながら、私は答えた。そして同時に、この博物館の楽しさもコーヒーのようだと感じていた。
コーヒーはブラックをそのまま飲んでも美味しいが、ミルクや砂糖を加えて自分なりの味を楽しめる飲み物だ。甥っ子の楽しみ方を見ていると、この博物館もコーヒーと同じように、自分なりの楽しさをみつけ、自分なりの楽しみ方が出来る場所だと感じたのだ。
甥っ子にとってのアイドル、「恐竜」が展示してある場所では、熱狂的なファンのように楽しんだ。そして、森の中では隠れた動物や虫を見つける宝探しのような楽しさを見つけた。そのままの展示を見るだけではなく、自分なりの楽しさを見つけ、楽しんでいた。
それこそが、この博物館を訪れたもう一つの理由だった。トラベルプランナーとして、子供がこの博物館をどのように楽しんでいるかを知りたかったのだ。
私一人で博物館を訪れ、訪れていた子供達がどのように楽しんでいるかを観察することも出来た。しかし、次にどこを見たいか? 何をもっと楽しみたいか? 直接話しを聞きながら楽しみ方を知る事は出来ない。生の声を聞くことが出来る、またとない機会が今回だったのだ。
なぜ、この博物館がここまで人気があるのか? 自分のプランニングにこの博物館をどう活かせるのか? トラベルプランナーとして疑問に思っていたことを解決してくれた妹や甥っ子、姪っ子には逆にこちらが感謝したいくらいだ。
私が一緒にどこかへ出かけようと言いだしたら、きっと何かトラベルプランナーとして確かめたい事があるのだと思ってもらって間違いない。この仕事を転職としている私にとって、トラベルプランナーとしての視点は無意識でも出てきてしまうからだ。そして、それを治そうという気持ちはサラサラないのだ。
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