変わっていくことと変わらないこと、どちらが難しいのだろう
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記事:あさいあきこ(ライティング・ゼミ)
「これからは、時代の激しい変化についていける人だけが生き残っていける」
大学卒業後に入社した会社で聞いた言葉だったか、就職活動時に聞いた言葉だったかは忘れたが、この言葉を聞いたときに思ったことがある。これからの私の人生、きっと変わらないことなんてなくて、変わっていくことばかりなのだろう、と。あの言葉を聞いて数年。私の人生、変わっていくどころか、なにひとつ変わっていないことばかりだ。
20代も後半になると、人間の人生にはいろいろな変化が起こるらしい。
とある友人は、最年少管理職になったと話していた。給料は上がるけど忙しくなるんだよね、でもまあ仕事楽しいからいいや、と嬉しそうに話していた。
別の友人は、事務職から営業職へ転身した。もともと人と話すことが好きな性格もあり、気が付いたら支店を任されるようになったらしい。少し前に、企業のホームページで仕事のやりがいについて学生に向けて語る姿を見た。
10年近くの付き合いの友人は、最近婚約をした。まだまだ遊びたい、がずっと口癖だったがようやく覚悟を決めたらしい。恋人の愚痴を言いながらも、プロポーズが成功したことを照れたように話してくれた。
学生時代の友人のお腹には、現在新しい命が宿っている。妊娠初期はつわりがひどく大変だったが、ようやく落ち着いてきたと年賀状に書いてあった。あと3ヶ月もすれば、彼女は母親になる。
……おかしい。皆それぞれなにかしら変わっているというのに、私はなにも変わっていない。
会社ではずっと伝票を起こし続けている。異動はないと思ってほしいと上司から言われたばかりだ。結婚の予定もなければ出産の予定もない。社会人になってから住んでいる6畳一間のアパートは、この前の夏に2度目の更新をした。
変わったことと言えば、シミができやすくなったとか、飲み会の次の日は朝ごはんが食べられなくなったとか、オールで遊ぶことが出来なくなったとか、そんなことばかりだ。これは変化ではない、ただの退化だ。私もなにか、良い方向へ劇的に変わらなければいけないような気がしてきた。
変わらない自分に焦りを覚えていたある日、私は学生時代を過ごした京都へ向かっていた。
友人の結婚式へ出席するためだ。友人に最後に会ったのは確か4年ほど前のこと。あのときは、恋人と別れたばかりなんだよね、これからどうしようといった話を聞いたような気がする。たった4年、されど4年。私が伝票を起こし続けていた4年の間に、友人は新しく知り合った男性と恋に落ち、家族になるという。この差はなんだというのだ。
京都駅に降り立ち、学生時代によく通っていた地下街へ向かうと、そこは私の知っている地下街ではなかった。よく服を購入していたあの店がない。友人の誕生日会を開いたあの店もない。地上へ出て歩いてみると、ダイコクドラッグだったはずの薬局がマツモトキヨシに変わっていた。なぜそんなよく分からない変化を遂げるのだ。ダイコクドラッグでよいではないか。
学生時代のアルバイト先へ顔を出してみても、知った顔などほぼいなかった。唯一知っているアルバイトの後輩も、来年から違う会社で正社員として働くんです、と言っていた。
皆、変わっていく。人間だけではない。街すらも変わっていくというのに、なにも変わっていない私はなんなのだろう。
結婚していく友人は学生時代、自分勝手な男性に振り回され続け、恋が成就していてもあまり幸せそうではなかった。いつも、どこか寂しそうで、なにかに耐えていた。もう終わりにしたいけど、好きだからどうしようもないと、諦めたような口調で呟いていたのを覚えている。
あれから数年が経った。あのときの辛そうな友人はもういない。ヴァージンロードを歩くその姿は、本当に綺麗だった。幸せそうな表情を浮かべ、こちらに向けられた笑顔は心からのものだった。人間は、付き合う人によってこんなにも変わるのか。友人をこんなにも幸せにできた男性はいったいどんな人なのだろうと、友人の隣に立つ男性をまじまじと見た瞬間、私はあることを思い出した。
そうだこの友人、確か目の細い男性が好みだったはずだ。
好きな芸能人も目の細い芸能人ばかり、学生時代に交際していた自分勝手な男性も目が細く、確かそのあとの恋人も目が細かった。今、友人の隣にいる男性も、目が細い。友人の好みはまったくぶれていない。変わっていなかったのだ。簡単に変わらないものもあるのだなと、笑いそうになった。
私はなにを焦っていたのだろう。変化は、無理やり起こすものではなくて、毎日が積み重なって少しずつ起こるものなのだ。無理に変わろうと焦らなくてもよいのかもしれない。もしなにも変わらなかったとしても、きっと未来は明るい。幸せそうな友人と、その隣の目の細い男性を見ながら、そんなことを思った。
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