パリでスマホを落としたら、色々あって嬉しい気持ちになった
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:増田拓実(ライティング・ゼミ1月コース)
「どうしよう、カバンにスマホが入ってない……」
異国の地、フランス・パリのサント・シャペルで声に焦りを滲ませて妻がつぶやいた。
「さっきまで、写真を撮るために使ってたよね!?」
壁一面の美しいステンドグラスの真ん中で、妻が必死にカバンの中を覗き込んでいる。身長152cmの小柄なシルエットが、さらに小さく見えた。
「ルーブル美術館にいた時は持ってたと思うんだけど、サント・シャペルに来る途中で落としたみたい……」
私たち夫婦は新婚旅行でフランス・パリを訪れていた。
念願の初めてのヨーロッパだった。
フランス、イタリアの主要どころ、ローマ、バチカン市国、ヴェネチア、モン・サン=ミシェル、パリを観光した。訪れる場所、食べるもの、全てに大満足で迎えた最終日。午前中にヴェルサイユ宮殿を訪れ、午後にはルーブル美術館で生のモナ・リザを見た。
「サント・シャペルの後は夜の凱旋門にでも行きたいね」
そんなことを話していた矢先の出来事だった。
急いでサント・シャペルのフロントに駆け込み、拙い英語でスマホの落し物が届いていないか確認した。
「こちらにスマホの落し物が届いていませんか」
「緑のカバーがついたiPhoneなんです」
サント・シャペルのフロントはとても親切な方たちだった。すぐさまセキュリティゲートのスタッフに落とし物が届いていないか確認してくれた。しかし、スマホは見つからなかった。
「ルーブル美術館に忘れてきたんじゃないか?」
フロントのフランシスさんが聞いてきた。
ルーブル美術館を出る前に、地図を広げたベンチが頭に浮かんだ。多分あそこだ。
「いまからルーブル美術館に行って聞いてみます」
「ルーブル美術館はもう閉館しているから入れないよ。ルーブル美術館のセキュリティは厳格だから閉館後には絶対に入れないと思う」
どうしてもスマホを探しに行きたいから、これからルーブル美術館に行きます、と伝えた。フランシスさんと連絡先を交換し、サント・シャペルを後にした。
妻は「盗まれていたらどうしよう」という不安よりも「写真に残したたくさんの思い出が見られないなんて」という絶望でいっぱいだったように見えた。
サント・シャペルからルーブル美術館まで、雨の中を走った。セーヌ川を左手にルーブル通りをひたすら直進した。
着くと、ルーブル美術館の入り口はすでに閉じていた。
入り口にいた若い男性のセキュリティスタッフに「中にスマホを忘れたかもしれない。少しでいいから入れないか」と伝えた。しかし、フランシスさんの言っていた通り、中には入れなかった。
「明日飛行機で日本に帰らないといけないんだ」
そう困り顔で伝える私たちに見かねて、セキュリティスタッフの彼は責任者らしき人に掛け合ってくれた。
しかし、やはり中には入れなかった。閉館後は館内の各ゲートが閉じてしまうため、探すことは困難だ、ということだった。掛け合ってくれた彼に心からの感謝の言葉を伝えて、私たちはルーブル美術館を後にした。
私たちは予定していた凱旋門には向かわず、ホテルに直帰した。妻のスマホにはホテルのルームキーが入っていた。
「紛失したカードキーの再発行費用を請求されるんだろうな」
「でも、自分たちの責任だから仕方ないよな」
そんな気持ちでフロントにルームキーを紛失したことを伝える。すると、
「ルームキーなんて気にしないで。スマホを無くしたことの方が一大事じゃないか。大丈夫かい」
と笑顔を見せながら、優しく声をかけてくれた。
フランスの人々の温かさに触れ、心が救われた瞬間だった。
翌日には妻も少し元気になり、日本に帰国した。
「違法利用される前にスマホのアカウントを凍結しないと」
「新しいスマホを契約しないと生活できないね」
なんて妻と日本で話していた昼過ぎ、Troovという宛先からあるメールが届いた。
メッセージにはこう書かれていた。
「素晴らしい、あなたはマッチを持っています!」と。
Troovとは、フランスのベンチャー企業が開発した落とし物管理アプリだ。
落とし物をした人、見つけた人のそれぞれが落とした/見つけた場所、落とし物の情報(例えばスマホであれば型式、カバーの色味、カードケースに入れているもの)を登録する。すると、それぞれの情報が一致している問い合わせを識別し、マッチングしたことを利用者に通知する、というサービスである。
2020年の調査によると、フランス全土での忘れ物総量は3,500万個にも及ぶそうだ。
落とし物の在庫を管理し、問い合わせのやり取りを行うのはかなりめんどくさい。しかも、美術館などの運営者側からするとお金には全くならない付帯的な業務である。そのめんどくささを解決する画期的なソリューションなのだ。
私たちは、Troovをサント・シャペルのフロントのフランシスさんに紹介してもらった。登録はしたものの、見つかる可能性は正直低いと思っていた。
しかし、失くしたスマホが見つかったのだ!
言葉もほとんど通じない、日本から9800km離れた異国の地で。
日本人のユーザが初めてだったのか、なぜかTroovの画面から日本の住所を入力できないというトラブルに見舞われながらも、海を越えて無事にスマホは戻ってきた。手元に届いたのは、落としてから1か月が経った6月のことだった。
Troovを紹介してくれたフランシスさんに感謝のメールを送った。「あなたが教えてくれたTroovのおかげで、落としたスマホが戻ってきました!」と。
彼からは「またサント・シャペルに来てください。今度はゆっくり楽しんでね」と温かい返信をもらった。
妻はスマホを受け取るとすぐに、旅行で撮影した写真が保存されていることを確認していた。
「諦めていた旅行の思い出が見られるよ!」
とびきり嬉しそうに伝えてくれる彼女を見て、私もとても嬉しい気持ちになった。
海外で落とし物をすると、絶望的な気持ちになる。言葉も通じず、どうすればいいかわからない。「楽しい旅行が台無しになった」なんて気持ちにもなるかもしれない。
でももしフランスで落とし物をしたら、ぜひTroovを思い出してほしい。もしかしたら、あなたの大切なものも戻ってくるかもしれないから。
***
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