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胸キュン映画『PとJK』を観た32歳のわたしはあまりにも恥ずかしくて胸がズキズキと痛んだ《プロフェッショナル・ゼミ》


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記事:木村保絵(プロフェッショナル・ゼミ)

「ヤバい〜、キュンキュンしすぎて死にそう!!!!」
映画が終わると、場内では女子高生や女子大生達が、キャーキャー騒いでいる。
だけど、わたしは彼女達のように興奮してはしゃぐことはできなかった。
「つまらなかった」からではない。
むしろ、その逆だ。
面白かった。面白いし途中でジーンと来る場面も何度もあった。
そして気が付いた。
心が動かされたことに、衝撃を受けている自分がいることに。
「胸キュン映画はつまらない。女子中高生や大学生がハマるものは理解できない」
無意識のうちに、そう決めつけていたことに気が付いたのだ。
あの頃、そうやって見下されることが大嫌いだったのに。
「あー、その年代はそうだよね〜。まぁ、そのうち現実は甘くないってわかっていくよ」
そんな風に得意気に話すおばさんを見ると、心の中でぶっ飛ばしたいくらい嫌だった。
絶対自分はそんな大人になりたくない、なるわけがない、そう思っていたはずなのに。
それなのに、32歳になったわたしは、気づかぬうちに心の中で同じことをしていた。
「若い女子が見るものはつまらない。学べることなんてない」そうやって決めつけていた。
そんな自分の恥ずかしい過ちに気付かせてくれたのは3月末に公開されたばかりの映画『PとJK』だ。

「PとJK? あ……、ポリスと女子高生か」
真面目な男性警察官と素直な女子高生の、結婚から始まるラブストーリー。
原作のコミックは累計310万部を超える大ヒット作だと言うが、正直、普段漫画を読む習慣のないわたしは、そのタイトルの意味を理解することにすら時間を要してしまった。
「う〜ん、どうしようかな」
その映画が公開されると知った時、正直わたしは迷っていた。
もう30を超えてしまったわたしが、若い女子高生や大学生に混じって「胸キュン映画」を見ることは、正直映画に登場する「胸キュン」シーンよりもずっと恥ずかしい気がしていた。
——うわー、おばさん一人で来てる。こういうの好きなんだー。
——流石にさ、30過ぎてもこういうの観てたら、痛いよねー。
映画の宣伝を観ているだけで、若い女子達の心の声が聞こえて来る気が勝手にしてしまう。

そ、そうだよ。大人の女は、そんな胸キュンなんて見ないよ。もっと命がけの恋とか、ドロドロしたお子ちゃまには理解できない不倫物とか、恋より愛を貫く物語とか、そういうのじゃなきゃ、興味がないんだよ。
それは、言い訳でもあるし、事実でもある。
一度、大好きな俳優さんが出ている「胸キュン映画」と呼ばれる作品を観に行った時、正直わたしは置いてけぼりを感じてしまった。
——え? 「好き過ぎて死ぬ……」って早くない? 会ったばっかじゃん。
「あなたじゃなきゃダメなの!」いやいや、もうちょっと色んな人に会ってから決めてもいいんじゃない? 
「もう顔も見たくない!」おぉ、どうした。何があった。死ねるくらい好きだったんじゃないのか? 
心の中でツッコミを入れているうちに、「やっぱり好き!」と二人が駆け寄って抱き合い、あっという間にクライマックスを迎えてしまった。
それから「あぁ、わたしはもうこういうのを見る年じゃないんだ」自分にそう言い聞かせた。

ところが。
先日公開された映画「PとJK」はわたしの故郷の函館で撮影したという情報を耳にした。
これは、困った。
わたしは、函館で撮影された映画は、ただそれだけで見たくなってしまう。
見ないと、なんだか気になって気持ちが悪い。
気持ちが悪い思いをし続けるくらいなら、ちょっと恥ずかしい思いをしても見た方がいい気がする。「見た」と言う既成事実があれば、それだけで安心する気になるからだ。
しばらく迷っていたが、例え胸キュンシーンの背景として映るだけだとしても、函館の短い美しい夏を久しぶりに見たくなった。

それに一つ気になっていたことがある。
わたしの部屋にあるDVDレコーダーは「函館」という単語の入る番組を自動で検索するようになっていて、ある時この映画のメイキングの番組がリストに入っていることに気が付いた。「映画に登場する美しい函館の街」とキャプチャーに惹かれ録画して見たところ、ヒロインの土屋太鳳や主演の亀梨和也と一緒に全速力で走る監督の姿が映し出されていた。それは、若い女性ではなく、おじさんだった。
「え? おじさんが胸キュンを撮るの? 中年男性の映画監督とか、一番胸キュンとか嫌がりそうなのに……」
見てみたいな。少しだけ、そう思うようになった。
レビューを調べて見ると「数々の作品を生み出した名匠・廣木隆一監督」と書かれている。
正直わたしは映画や監督には詳しくない。
それでも『ゲレンデが溶けるほど恋したい』や『余命一ヶ月の花嫁』はわたしでも知っている有名作品だし、『雷桜』や『娚の一生』などの話題作も手がけており、何より西加奈子原作の『きいろいゾウ』はわたしの大好きな映画トップ5に入る作品だった。

やっぱり観てみようか。
そう思っていると、レビューからある単語が目に飛び込んできた。
「これまでの胸キュン映画とは違う。大人こそ見るべきだ」
それを見た時に、何だかドキッとした。え? どんな作品何だろう。気になる。
居ても立っても居られな苦なり、翌日、わたしは映画館へと駆け込んだ。

「ヤバい〜、キュンキュンしすぎて死にそう!!!!」
映画が終わると、場内では女子高生や女子大生達が、キャーキャー騒いでいる。
だけど、わたしは彼女達のように興奮してはしゃぐことはできなかった。
「つまらなかった」からではない。
むしろ、その逆だ。
面白かった。面白いし途中でジーンと来る場面も何度もあった。
そして気が付いた。
心が動かされたことに、衝撃を受けている自分がいることに。
「胸キュン映画はつまらない。女子中高生や大学生がハマるものは理解できない」
無意識のうちに、そう決めつけていたことに気が付いたのだ。
あの頃、そうやって見下されることが大嫌いだったのに。
「あー、その年代はそうだよね〜。まぁ、そのうち現実は甘くないってわかっていくよ」
そんな風に得意気に話すおばさんを見ると、心の中でぶっ飛ばしたいくらい嫌だった。
絶対自分はそんな大人になりたくない、なるわけがない、そう思っていたはずなのに。
それなのに、32歳になったわたしは、気づかぬうちに心の中で同じことをしていた。
「若い女子が見るものはつまらない。学べることなんてない」そうやって決めつけていた。そして、そのことに何の違和感すら持たなくなっていた。

本当は、10〜20代をターゲットにした作品こそ、最高に面白く良質であるべきなのに。
その頃受けた影響は、その後の人生を大きく左右する。
ドラマや漫画や小説や映画や、知り合いの誰かが言った一言は、その後ずっと心の支えになってくれる。
その頃持った夢が、大人になった今の現実になり、その頃考えていたことが、世の中を支える大人を作っている。
「若い女子が見るものはつまらない。深い意味もない」どうしてそんなことを恥ずかし気もなく思い続けることができたのだろう。
それに、女子中高生や大学生が見るからこそ、恋愛物は真剣に丁寧に作らなくちゃいけないはずだ。
今年に入ってから「交際経験のある10代の女性の約44%がデートDVを経験している」という衝撃な調査結果を耳にした。彼氏のいたことのある中高生の半分近くの子達が、何らかの恋人間の支配や暴力を経験しているという。中には、それが「デートDV」と言われるもの、我慢しなくてもいいことだと知らない人もいるかもしれない。
特に作品の世界の中ではちょっと強引な男性が格好良く描かれている。実際に作品にするときは、そんな強引さを誇張した方が読み手や観客の心を掴むことができるでも事実だ。
もちろん現実と創作の違いをわかっている人もたくさんいると思うが、そういうキャラクターの男性が「かっこいい」「モテる」という空気を作ることは、少し怖い気もする。
「おばさん古いよ」と言われるかもしれないが、昭和の終わりに生まれたわたしが中高生の頃夢中になっていた漫画に登場する男の子達は、爽やかな優しい好青年が多かった。そんな彼が怒った時のシーンはすごく怖く、恋愛は楽しくもあり怖い側面もあるということを当時は漫画で知った。そんな風に漫画で勉強はしても、結局強引な男性に惹かれてしまうわたしみたいな人もいるが、それでも漫画や映画は、伝えるべきことを伝える有効な手段だと思う。
壁を叩かなくても、無理やり腕を掴んだりキスをしなくても、キュンキュンできるし恋は楽しい。映画『PとJK』ではそんな世界観を伝えているように感じた。そしてそれは成功していたように思う。実際、観終わった後の若い女子たちは「キュンキュンし過ぎて死ぬ!!」と大興奮だったからだ。こんな作品だったら、年頃の子達も、家族と一緒にでも観られるんじゃないだろうか。そうすればもっと親子で恋愛について、話をしたり伝えたりできる機会が持てるようになるかもしれない。

さらにわたしが驚いたのは、この作品では恋愛以外の大切なメッセージがたくさん込められていることだ。友達のこと、家族のこと、仕事のこと。
大事なことがラブストーリーの中に練りこまれている。
それは幼い頃、母がしてくれた工夫と同じようなものに感じた。
大嫌いなピーマンの苦味を隠すために肉団子の中に練り込んでみたり、「ぶぇ〜」と言って吐き出すほど嫌いな昆布を細かく細かく刻んでくれたり、「酸っぱい」と騒いで食べられないトマトに砂糖をかけてくれたり。
「じゃあ食べなくていい。好きなものだけ食べていなさい」と言ってしまえば本当はその方が楽だったんだろう。だけど、それでは栄養が偏ってしまうし、大きく成長することもできない。
文句を言われながらも、嫌われながらも、頭を悩ませ、必死に美味しく食べられるように工夫し続ける。失敗しても諦めず試行錯誤しながらも見守り続ける。
この作品には、そんな工夫が、親の愛情のような温かい思いが、この映画を観るであろう10〜20代へ思いが、あちらこちらに込められているように感じたのだ。

それに、大人のわたしでも素直に嬉しかったことがある。
それは、撮影地である函館の風景を、胸キュンシーンの背景として切り取るのではなく、街自体を作品として丁寧に撮ってくれたことだ。
短い夏の間に、必死に生い茂る力強い緑や、太陽の光が反射する海の青。
そんな華やかな景色だけではなく、海に囲まれた街が霧にスッポリと包まれる瞬間もあれば、人々の生活がリアルに映し出される場面もある。
その風景が一番魅力的に見えるように、上から撮ったり、離れて撮ったり、時には全力疾走しながら撮影してみたり。窓枠に収められた風景まで楽しむことができる。
そこで生まれ育った人間だからこそ大切にしている風景や、住んでいた人間でもなかなか知らない秘密の場所まで、胸キュンに霞ませずキレイにキレイに見せてくれていた。
観光地でもある西部地区には約20もの坂があるが、ロケ地に使われる坂は限られている。
だけどヒロインの土屋太鳳ちゃんが自転車で勢いよく駆け抜ける坂道は、よく映画やCMに登場する坂道とは違う。
そんな場面を見ていると、もしかしたら色々歩いてみたんだろうか。地元のコーディネーターはいるだろうけど、制作班も妥協しなかったんじゃないかな、なんてそんな想像すら沸いてくる。函館は多くのドラマや映画の撮影地として使われているが、こんなにも観ていて嬉しくて有り難く思えるような撮られ方は、なかなか無いように思う。

「好きになるって勝手にこぼれるものでしょ?」
それは、昨シーズンの大人気ドラマ『カルテット』で話題になった台詞だ。
人を好きになると、気持ちは勝手に溢れ出してくる。伝えようとしなくても、形にしようとしなくても、勝手にこぼれてきてしまう。
この映画の中でも、函館の街を大切にしてくれる思いが、たくさんこぼれいていた。
もちろん、映画その物への思いや、観客への熱い想いも、あちこちにこぼれていた。
だからこそ、「胸キュン映画なんて」と思ってしまっていたわたしも心を動かされた。
「そうじゃない。若い人が見る映画こそ面白くなくちゃダメだ。真剣に作った物じゃなきゃだめだ。中高生や大学生が夢を見れない世の中なんて、大人にだってつまらない。
中高生向けの映画はつまらなくて当たり前だなて、そんなことを思う大人になっちゃいけない」
真剣にそう考えるようになっていた。

「うぉ〜、俺も警察官になりてぇ〜」
作品の中で男子高校生がそう叫ぶシーンがある。
きっとこの作品を観てそう思う中高生や大学生もいるかもしれない。
そんな風に思われるような仕事をしているだろうか。そんな大人になれているだろうか。
そう、足を止めて考えた大人の人もいるかもしれない。
わたしもその一人だ。
これからも文章を学び、書き続けたいと願う一人として、そしてこの社会を生きる一人の大人として、恥ずかしいほど、胸がズキズキとするほどに反省させられる作品だった。
中高生や大学生に向けて作られた作品も、商品もサービスも、どんな物も、常に真剣で良質なものでなければいけない。それを忘れてはいけない。そう思い出させてくれた。
若者に嫌われる嫌な大人になって、心の中でぶっ飛ばされないように、常に自問することを忘れずにいようと思う。
そして、函館出身の故郷が大好きな人間の一人として、こんなにも大切に美しく風景を残してくれたことに、感謝したい。今度帰省する時は、ゆっくりと坂道を歩きながら思いっきり空気を吸い込んでみよう。きっと山の新鮮な緑の空気と、太陽の光反射する海から香る潮風が、あの頃の、大人になる前の記憶を蘇らせてくれるはずだ。

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