のび太の強さに憧れて
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:口中 大輔(ライティング・ゼミ)
のび太みたいな人間でありたい……
ドラえもんに魅了された人たちは、こんな憧れを一度はきっと抱いたことがあるのではないでしょうか。何を隠そう、僕のその一人でございます。
テストも運動もまるでダメだし、すぐにドラえもんに甘えるし、普段はとことんへなちょこな少年。でも、心は素直で温かく、いつも優しさを忘れない、そんな人間性にみんな惹かれてしまうのでしょう。
これが彼の魅力の第一であることに間違いはありません。
しかし、僕が何より惹かれているのは「のび太の強さ」なのであります。
「え、のび太が強い? いつもジャイアンにやられているじゃないか」
確かにそうです。
僕の記憶が確かであれば、ドラえもんの秘密道具に頼らずにジャイアンに単独で勝利したことはなかったはずです。
ところが、一度だけ、彼はジャイアンに正面からの勝負で勝ったことがあるのです。
それは、ドラえもんが急遽未来に帰ることになるという「さようなら、ドラえもん」というストーリーで起こります。
あらすじはこんな具合です。
別れとなる最後の夜、寝つけぬ二人は深夜の散歩をします。道中のび太は「ちゃんと一人でやっていけるよ」とドラえもんと約束をするのです。
感涙したドラえもん。涙を隠すために、一度、家に戻るわけですが、その後、一人となったのび太は、運の悪いことにジャイアンに摑まり、ケンカに巻き込まれてしまうのです。
いつもであれば、ここは「ドラえも~ん!」と叫び、助けを求めるところです。
しかし、彼はさっきドラえもんと固く誓いました。これからは一人で頑張るんだ、と。
震える気持ちを奮い立たせて、彼はひとりで決闘に挑みます。
けれど、案の定、いつも通りのボコボコです。
ただその日だけは違いました。何度倒れても、何度倒れても、また立ち向かうのです。
そしてのび太は言いました。
「ぼくだけの力で、きみにかたないと…… ドラえもんが安心して…… 帰れないんだ!」
帰りの遅いのび太を心配したドラえもんが、のび太を見つけたとき、あまりののび太の粘り強さにジャイアンがギブアップ宣言をしていたところでした……
僕は決して何か秀でた能力を持っているわけではありません。
というか、才能で見ればわりと底辺レベルではないかとさえ思います。
運動はからっきしだったし、おしゃれでもなかったので女子からモテることなんて一度もなかったし。嫌いな教科でも机に向かってきちんと勉強する、みたいなことは、本当に心底苦手だったこともあり、わりかしまともだった勉学だってクラスの一番は別の誰かだったし。
やっと巡り合えたアカペラ音楽という居場所も、周囲は本当に才能溢れる人たちばかり。その輝く才能を目前でリアルに見せつけられると、自分がいかに凡人であるかを改めて自覚するだけでした。
そんなわけでこのお話は、リアル世界でへなちょこな僕の心奥深くにグサリと刺さりました。
ケンカでは無敵だと思われたジャイアンにさえのび太は勝てたのだ、それは「粘り勝ち」という方法だ、そしてそれは能力無関係に誰でも可能なことなんだぞ、と暗に教えられた気がしたのです。
執念は力に勝る。継続こそ金。
想いを絶やさずに物事を続けられる事も才能のひとつなのかもしれません。
それからというもの、才能のない僕は、輝きのある世界に、輝きのある人たちに見捨てられないよう、粘ることにしました。いや、例え一度見捨てられたとしても、見返してもらえるよう、それでも勝手に粘ることにしました。
粘ったとしても、粘りに比例してそれが急に今すぐ花開くわけではありませんが、粘らなければそんな機会さえも訪れることはないのです。
今の自分がどんなに無様であっても、どんなに嘲笑レベルであっても、諦めずに続けることで明日へ繋がります。才能があっても、歩みを止めればそこで試合終了です。
「折れないハート」で一歩一歩進むことが、明るい未来を少しずつ確かなものにするような気がしたのです。
好きな音楽活動も思えば17年目になりました。
学生時代の仲間でいまだに活動している人も、数えるほどになりました。人生節目を迎えて、やりたくても機会が取れないことが増えてくるのです。
そんな彼らと再会すると、いいなぁ、と声をかけられることもあります。
僕はただ継続してきただけなのだけれど、折れないハートの意志とともに、「場を続けられた」幸運自体が、とても幸せなことなんだと思い知らされます。
しかし、簡単に見える「継続すること」も、意外と容易ではありません。
仲間の転勤・卒業もしばしば訪れます。その度に、苦悩しながらも「続ける方法を見出す」ことで、今日の僕らへと繋がっているのです。
簡単にあきらめず、粘り強く、想いを持って。
それは、まさに「のび太の教え」の賜物かもしれません。
おかげで、現在活動しているユニットは、メンバーの変遷を経ながらも、消えることなくバトンは繋がれ、次第に花も咲くようになりました。ステージから見える観客の笑顔が、回を重ねるごとにすこしづつ増えていっているのを感じると、言葉に出来ぬ幸せさえ沁みてきます。
そして、天狼院に通う理由もまた同じです。
もっと濃い生き方がしたい、もっとしびれる生き方がしたい、と歩いていたら、ここにたどり着いたのです。
文章なんか書いたことない僕が、今こうして筆を進めているのだって、素敵な物書きをする方たちへの嫉妬と憧れが源です。
天狼院の名ライター達は、文章以外でも輝いています。僕だってそうなりたい。だったら、粘って続けていれば一矢報いることが出来るんじゃないか、もしそのくらいまで行ければ、音楽活動だってもっと素敵な時間を創れるんじゃないか、ひいては人生だって変えていけるんじゃないか……そう思った訳なのです。
あの日、のび太の執念がジャイアンに「ギブ」と言わせた1コマを心に思い出し、僕は声高らかに宣言します。
天狼院での活動も、音楽でのバンド活動も、粘り勝つまで絶対続けるぞ、と。
いつの日かこれらが大輪の花となり、自分はもちろん、仲間の人生もさらに輝くその日まで。
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