欲望と東京と私の部屋
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記事:ちくわ(ライティングゼミ 日曜コース)
私は絶望的に片付けができない。苦手というより性格的に向いていない。ただ、私がそういうと、母は「それは怠慢でしかない」と怒りを通り越して呆れている。ちなみに母は超がつくほどの潔癖性で、実家は驚くほど整理整頓されている。
実家の環境がいけないのだ、と思う。
責任転嫁のように聞こえるかもしれないが、母は、気付いたら全て自分でやってしまう性格だ。ほぼ毎日、床はほうきで掃いた後、掃除機をかけ、雑巾で水拭きし、乾拭きする。実家は二階建ての一戸建てで、そこそこ部屋はあるにも関わらず、だ。モノを少なくするように母は心がけていたから、掃除がしやすかったのかもしれない。「しっかり掃除ができるのは母が専業主婦だからだ」と心の中で思っていたが、子育てが一段落したときに、週5でパートを始めた。8時-17時と残業はないが、家はいつでもピッカピカ。私が実家に住んでいたとき「帰って来たら片付けよう」と思って、散らかして学校に行っても、帰ったら部屋は整頓されている。「今日も片付いてなかったよ、もっとモノを減らしなさいよ」と母がプリプリ怒っていても、甘えてしまい、私自身に整理整頓が習慣づかなかった。
困ったのは一人暮らしを始めてからだ。散らかしたままで出て行けば、帰って来ても、そのまま。当たり前だ。それが積み重なっていく。もちろん個人的な心情として、部屋がすっきりしている方が気持ちいい。汚いままは不快感がある。だから2週間に1回くらいは時間をとって掃除をする日をつくる。まず「掃除するぞ」と決めないと掃除できない。私だって頑張っている。片付けたいという気概はある。ただ、途中で脱線してしまう。机の上に積み上げていた本の中に『ウォーリーをさがせ!』をみつけて思わず読みふける。服を捨てるか売るかで悩んで、結果的にネットサーフィンで新しい服を買う。たった1Kの狭い部屋に、毎回半日の時間を掃除にかけ、しまいにはモノを減らすどころか掃除中に増やしている。
東京という街がいけないのだ、とも思う。
新しいスポットが次々とできる街、東京。駅ごとに個性があり、世界有数の消費激戦区で生き残っていくため、ありとあらゆる手で欲望を刺激してくる。日本初や、世界の本店に次いで2店舗目などもよくある。テレビや街に広告をガンガン出し、雑誌に掲載する。今だとFacebookやインスタグラムなどのSNSで、憧れのモデルや芸能人が写真を拡散する。友人からも、おすすめされる。私は、まんまと情報に魅了されて、わかっているのにモノが欲しくなる。あまりにも場所が遠かったら諦めるが、都内に住んでいると、200円もせずに行けてしまう。気軽だ。そしてモノが欲しくなり、買ってしまう。
少し前に流行った「断捨離」や「シンプルに暮らす」、「ミニマリズム」は、確かに掃除もしやすいだろうし、見た目もすっきりで気持ちよい。『フランス人は10着しか服を持たない』もベストセラーになった。ただ、残念なことに私自身、次々と欲しいモノがでてくるし、さらにいえば、モノに囲まれることが幸せになるタイプであることを知ってしまった。
そう、私の部屋のカオスっぷりは、東京らしさがあらわれている。
江戸時代から日本の中心地として栄え、時代によっていろんな顔を見せてきた東京。ここの工事が終わったと思ったら、また近くで別の工事が始まる。あるものを壊して、次から次に新しい風景に変えていく。今後も、その方向性は変わらないだろう。
東京メトロの路線もほどけることない絡まったコードのように、ぐちゃぐちゃ極まりない。今でこそ、慣れたが、同じ大手町駅なのに、驚くほどの距離を歩かせる。JRもJRで、東京駅なのに中央線と、京葉線は約10分構内を歩かせる。
でも、この小さくて狭い東京という土地の中にも、秩序がある。そのときの時代背景があって都市計画は作られ、つぎはぎのように見えても、つながる歴史がある。もっと便利になるように、もっとよくなるようにと欲望を東京に注入していく。
だから東京には人が集まる。どこにいっても人・人・人。人口減少が叫ばれているが、現に、東京は人で溢れかえっている。通勤の満員電車。100mもない距離にあるコンビニ。遅くまで空いている飲食店。そして、その恩恵に預かっている私。
東京に欲望がなくなってしまったら、どうなるだろう。人は出歩かなくなり、新しいスポットができても集まらない。誰も消費しない。誰も利用しない。モノが今以上に売れなくなる。そうなると街は活気づかない。
人に迷惑かけない程度であれば、モノで溢れた生活を送ってもいいではないか。身を滅ぼさないように程度をわきまえれば、モノを買いたい欲望が溢れていいではないか。もちろん整理整頓できないことを正当化するつもりはない。ただ、モノを減らすことだけが「美」である風潮には、個人的に馴染めないし、馴染みたくない。東京という街と私の部屋。ずっと片付かないかもしれないけれど、それが自分にとって自然な状態。
時代が変われば、東京の街の姿も淘汰され、変わっていく。私も、必要ないと思ったら大掃除をして捨てる。欲望というモノに溢れた場所という意味で、東京と私の部屋はつながっている。
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