メディアグランプリ

ストーカーも楽しいけれど、それよりも楽しいことを見つけてしまった。


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:まつしたひろみ(ライティング・ゼミ日曜コース)

 
 
私は懺悔します。
懺悔だなんて、キリスト教でもないし、「懺悔」だなんてパソコンが変換してくれてるだけで、漢字を書けだなんて言われても書けないけど、懺悔します。
 
「趣味は何?」
「旅行とか、かな」
「へー。最近行って良かったところはある?」
「沖縄、めっちゃ好きなんですよ!」
 
コンパで、乾杯と自己紹介が終わると「さて、何を話そう?」と考える。
仕事の話をするとマジメな感じになってシラけてしまったり、仕事を楽しいと思っている人は、コンパになんか来なくて、不満を持っている人が多かったりするので、愚痴っぽくなる。飲み会を楽しみたいだけの既婚者の人が混ざっていたりすると、「商社マンです」の一言で終わり、それ以上触れるなオーラが出ることもある。たった数時間の場なので、無駄に懐に入るのも入られるのも避ける。
そうすると話のネタとしては、趣味や好きなことの話、休みの日に何をしているのか、といった類のことになる。会話のきっかけや共通点を探るのだ。
 
なんだか、無難に済ませていたなと思う。
 
私は「好きなこと」を隠していた。というより、話さなかった。
一度も、というわけではなく、トライはした。
 
「趣味って何?」
「読書、かな」
「へー、俺あんまり、本読まないんだよねー」
あ、そ。
なんか気まずい。とりあえず、ビール飲んどくか……。
相手にとってみても、箱を開けてみたけど、たいしたものが入ってなかったな、というがっかりな気持ちもあっただろう。
 
「何を読むの?」
と返されて、困ったときもあった。
恋愛に憧れて、恋愛小説をむさぼり読んでいた頃だった。正直に答えたら、引かれそうだし、他の本の話が思い浮かばないし。「読書」と言ってみたものの、引き出しのなさに困り、自分に呆れた。
 
「休みの日は何してるの?」
「特に予定がないと、ぷらっと本屋に行きます」
「へー、雑誌の立ち読みとかしに行くの?」
「いや、フラフラっと本屋の中を歩いてると、気づいたら本をたくさん抱えてるんで、買って帰ります」
……と答えたことはなかったが、そう返したところで、話がストップし、引かれるのは承知していた。
 
本が好きなことを話したって、周りの友人たちとも盛り上がらなかった。最近出た小説の話をするよりも、恋愛やファッションの話をする方が盛り上がった。
休みの日にやることなくて、本屋に行って文庫本を5冊くらい買っちゃって、と話をしても、「何をそんなに買うの?」と冷たく返された。
カードのポイントを、マイルや商品券ではなく、すべて図書カードに換えていることなんて、誰にも話したことがなかった。
 
そんな経験を重ね、「読書が好きです」と答えることがあまりなくなっていた。
本を読むことは、ひとりでこっそり楽しむものだと思うようになった。
 
でも、それは片想いだってことに気づいた。
好きなのに、いいところをいっぱい知っているのに、周りに伝えることができずに隠して、自分だけで楽しんでるなんて、ストーカーみたいだ。
 
本は教えて、教えられて、みんなで楽しんだ方が断然おもしろい。恋愛も、片想いをしているより、好きですとはっきり伝えて、気持ちをわかってもらった方がいい。
 
本が知りたいと素直に伝えた方が、多くの利点がある。
ビジネス書を全く読むことのなかったのに、多くのビジネス書を読むようになったきっかけは仕事の師匠の影響だ。自分だったら全く手に取ることのなかった本を、研修の中で教えてくれた。
心友の影響で、素敵なストーリーを描く作家さんを知ることもできた。
 
いつもとは違う分野の本を手に取るときは、必ず誰かの影響がある。
 
そして、名古屋にはない、天狼院書店さんに通うようになってから、更に気づいた。
読書はひとりでも大勢でも楽しめることに。本の魅力を、熱く語る人たちがたくさんいる。
「この本、めっちゃおすすめなんです!」
「それ、気になってるんです。どんな内容の本なんですか?」
ずっと避けてきた、本の話題で楽しめるなんて、食わず嫌いで避けてきた食べ物が、すごく美味しいことに気づいたときのように、悔しくて嬉しい。
 
そう、ずっと好きだったんだ。
小さな頃からいつだって、本はそばにいてくれた。
絵本で、一緒に冒険をした。
恋愛漫画で、大恋愛を経験した。
小説で、不治の病に倒れてしまったこともあったし、殺人事件だって解決した。
ビジネス書で、社長を経験することがあった。
レシピ本で、料理やお菓子の作り方も学んだ。
コンパで好きだと答えた「旅行」だって、初めて行く場所は、必ずガイドブックを買って調べた。
 
たくさんの経験をさせてくれた本なのに、好きだと素直に言えなくて、近くに居すぎて、こんなに好きだったなんて気づけなかった。
 
読書が好きだと言えなくて……懺悔します。
この、本たちに謝りたい。
懺悔したら、許してくれるだろうか。
 
このゴールデンウイークに、部屋に本たちの居場所を作った。
申し訳なかったという思いをこめて、今まではカラーボックスに詰めこんでいただけだったけど、本棚を作った。
 
西日の差し込む部屋で、完成した本棚を眺めていて、うっとりした。
本を並べていて、こんな恍惚とした気持ちになるなんて思ってなかった。自分が選んで買った本ばかりなので、読みたい本がありすぎて、鼻血が出そうなくらい興奮した。
いつまでも眺めていられる。なんなら、酒の肴にだってなる。
また、違う意味で楽しませてもらった。
 
ひとりで読んで楽しむだけではなく、ちゃんと素敵だったと感じたことを伝えたいと、心から思う。
そして一緒に楽しみたい。
 
「ひろみさんが読む本はいつも気になります」
「次のおすすめは何でしょうか!?」
こんなことを言われて、嬉しくないわけがない。
 
もう、誰がなんと言おうと、この子たちとは離れられない。
 
 
***

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2017-05-18 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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