ふるさとグランプリ

奈良と京都をつなぐ、学生時代の匂いがした《ふるさとグランプリ》


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記事:かほり(ライティング・ゼミ日曜コース)

 

私は大学時代、奈良から京都まで通っていた。

片道2時間弱。

別に、京都という土地で学びたいがために学校を選んだわけではなかった。

だから、どうしてわざわざ奈良から京都まで行かないといけないんだよ、とイライラすることが何度もあった。

いや、毎日イラついていたと言ってもいい、

 

なんで必修科目が1限目からあるねん!

なんで春休みに、成績表の紙ペラ一枚取りに行くだけで往復4時間かけなあかんねん!

なんで授業のない日に、サークルの会議30分のためだけに学校行かなあかんねん!

飲み会で一番盛り上がってる時に、なんで終電気にして帰らなあかんねん!

そもそもなんで奈良と京都ってこんなに離れてるねん!!!

 

心の叫びは尽きない。

こうなふうに、やり場のないイライラを溜め込みながら毎日電車に揺られていた。

 

もちろん、私と同じくらい通学に時間がかかる友人はたくさんいた。

神戸から3時間かけて来る子もいた。

みんな大変なんだ。

そう自分に言い聞かせたが、私のイライラは消えることはなかった。

だって、私たちがせっせと電車を乗り換え乗り換え通学している時間に、下宿生は1人屋根の下でぐうたら寝ているのだ。

羨ましいったらありゃしない。

私は、母親に「今日も遠かった〜。〇〇ちゃん来年から下宿始めるんやって。いいよなあ」

と愚痴をこぼした。

すると母は、「ごめんな、うちは下宿させてあげられる余裕なくて……」と申し訳なさそうにした。

私は親にこんなことを言わせてしまった自分に、ますますイラついた。

私立の大学まで通わせてもらって、自分は何を言ってるんだ。

 

しかし、そんな反省もつかの間。

やっぱり学校は遠い。

奈良と京都はお隣さん同士なのに、通うとなると遠いのだ。

通学時間なんて、無駄だ。

こんな時間がなければ、もっと効率的に時間が使えるし、充実した大学生活が送れるはずなのに……。

 

遠い、遠い、とぐちぐち言いながら、4年が過ぎた。

やっと卒業できた! こんな気の遠くなる通学ともお別れだ! と喜んだ。

 

卒業してから半年後、京都で大学の友人と集まる機会があった。

久しぶりの京都だった。

 

奈良から京都行きの電車に乗って、ぼうっと外を眺めた。休日の朝の静かな車両だった。

すると、私は学生時代の「匂い」を確かに嗅いだのだった。

 

昔を思い出す時、ぱっと思い浮かべるものって、ある場面や声や音が多いのではないだろうか。視覚や聴覚の情報である。

でも、匂いって言われると、思い出しにくいのではないだろうか。嗅覚は頭の中で再現しにくいと思う。

例えば、お好み焼きを想像してみてほしい。

真っ先に思い浮かべるのは、ソースのつやつやとか、かつお節のゆらゆら揺れる感じとか、ではないか。はたまた、マヨネーズがじゅわっと焼ける音ではないだろうか。

一方、匂いはぱっと思い出せるだろうか。

鼻に集中力を込めても、どうにも思い出しにくい。美味しそうな匂い、香ばしい匂い、っていうのはわかるのだが、頭の中で再現がしにくくはないか。

でも、本物のお好み焼きを目の前にすると、あ! これこれ! この匂い! と思い出す。

思い出しにくいが、しっかりと記憶に結びついている。これが匂いである。

高校生の頃使っていた制汗剤の香り。

おばあちゃん家の線香の匂い。

田んぼの野焼きの匂い。

実際の匂いを嗅ぐと、思い出すものがある。

この匂い、あの時のあの場所の匂いだ……。

 

私の通学時間もこの「匂い」だった。

京都行きの電車に揺られていると、電車通学のことをぽろぽろと思い出した。

 

一回生、はりきって授業を取り過ぎたせいで、課題が間に合わなく、電車の中でテキストを広げたこと。

サークルで怖い先輩のお叱りメールを受けて、慌てて返信を打ったこと。

地元のバイト先に行くまでの憂鬱な時間、イヤホン越しの音楽を爆音でかけたこと。

合宿帰り疲れ果てて眠ってしまい、危うく回送電車に閉じ込められそうになったこと。

就活中、キャリアセンターで自己PR文をボロカスに叩かれ、マスクに隠れて泣いて帰ったこと。

 

ああ、いろんなことがあったなあ。なんやかんや、私もこの電車にお世話になったなあ、と思った。

煩わしい通学電車のことなんか、感慨深く思い出す日が来るなんて、夢にも思わなかった。

私にとって、学生時代の思い出といえば、京都での出来事だった。ゼミやサークルでの活動とか、飲み会とか全部京都という地であったからだ。

学生時代の思い出は? と聞かれて、真っ先に通学電車! なんて答えるわけがなかった。

しかし卒業後、かつての通学電車に揺られると、走馬灯のように学生時代のことが思い出された。長い長い通学も、確かに私の思い出だったのだ。

通学電車は、「匂い」のように、真っ先に思い出すものではない。しかし、私の学生時代の思い出と強く結びつく存在だったのである。

 

私はこの時初めて、4年間通学してよかった、と思えた。

無駄だ無駄だ、と思っていた時間も、大切な学生時代の一部だった。

片道2時間の学生時代の「匂い」。

簡単に逃げてしまわないように、大事に封をしておこうと思う。

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