ふるさとグランプリ

広島の恋は、こんなもんらしい《ふるさとグランプリ》


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記事:かほり(ライティング・ゼミ日曜コース)

 

この間、広島に行った。大学時代の友人に会うためである。

奈良から2時間半ほど。たどり着いた広島駅は、真っ赤だった。

お土産屋も真っ赤。通り行く人も真っ赤。

赤じゃない自分が恥ずかしいくらいだった。

そう、広島はカープ色に染まっていた。

そこら中カープファンだらけだった。広島駅周辺を行く人7割はカープのユニフォームを着て、帽子をかぶっていたと思う。

最後に広島に行ったのは、確か10年前の小学生の修学旅行。

そのときはこんなにカープ色が強かったっけ?

思い出せない。思い出せないということは、特にカープ熱は今ほど盛り上がっていなかったのだろう。

数年前から、「カープ女子」の言葉が流行し出したし、去年の2016年、リーグ優勝を果たしただけのこともあって、今きっとカープ熱は最高潮なのだ。

私は、奈良に住んでいて、そんな野球熱の免疫もないもんだから、広島に着いた途端にカープの赤色に圧倒された。

近所の大阪に行く機会はたくさんあるけど、難波とか道頓堀とかの阪神ファンが集まるような所へ行っても、こんなに圧倒されるほど虎色の人々を見たことはなかった。

 

広島県民の情熱ってすごいな! みんな同じユニフォームを着て、帽子をかぶって、一致団結って感じ! 楽しそう! うらやましい!!

 

広島県民の友人と再会し、広島に降り立った時のこの赤色に対する興奮を伝えたのだが、

「広島はこんなもんよ」とあっさり返されてしまった。

そうなのか! 広島県民にとってこの真っ赤な光景は普通なのか!?

いや、待てよ。そうか、ここは広島駅。すぐ近くに広島市民球場がある。広島カープの本拠地だ。そりゃ無理もない。全国の広島カープファンが集まるから、真っ赤に染まるのだ。広島駅において、この光景はなんら驚くことはない。広島駅はこんなもん。

とか何とか心の中で言って、自分を納得させた。

広島県民の友人は、まず宮島を案内してくれた。広島駅から、約20分電車に揺られ、フェリーに約10分揺られ、たどり着く。

鹿がいて、厳島神社の鳥居が見えて、潮風が気持ちよくて……ゆっくりとした時間がそこには流れていた。

友人が、「山に登りたい? 水族館行きたい?」と聞いてきたので、私は「山に登りたい」と言った。

そうして私たちは、山の頂上を目指すことになった。その名も「弥山」。世界遺産と日本三景に指定されている。

 

山登りとは言ったものの、私たちは途中、ロープウェイに乗ろうということになった。単純に疲れたのだ。

「ロープウェイを使われる方は、整理券を受け取ってくださ~い」

坂を上ったところでおじさんの声がしたので、行ってみた。

あれ? これ、どこかで感じた気配。

見上げると……

赤!!!

赤色のおじさんだった。

そう、私がさっき広島にたどり着いてすぐ目にしたカープファン集団の赤!

 

なんと、ロープウェイの整理券を配るおじさんも、チケットを売るおばちゃんも、乗客を誘導するにいちゃんも、みんなカープのユニフォームを着ていたのだった。デジャブ。

え! 待って! ここは宮島やで? 世界遺産の弥山やで?

カープ関係なくね!?

思いのたけを友人に話した。

すると、「そうか、これも不思議に思うのね。広島はこんなもんよ。スーパーでもどこでも、カープの服着てるのは普通よ。特に商店街行ったらやばいよ」

そうなのか!?

広島はこんなにもカープに夢中なのか!?寝ても覚めてもカープ。日常がカープ。

広島駅だけじゃなくて、広島そのものが!!

これは恋だ。広島の人達による、カープへの恋だ。

 

夕方、晩ごはんを求めて広島駅に戻った私たちは、またもやカープ集団に遭遇した。試合帰りである。

しかし、その集団は昼間の活気ある雰囲気とは打って変わって、みなさん落ち込んでいた。夕日に照らされた赤い背中には、「落胆」の二文字が浮かび上がってくるようだった。

そうか、答えは1つ。

負けたのだ。

 

私と友人は「負けたんやな」と頷きあった。

ネットニュースで確認したら、やはり、広島カープは負けていた。

 

それにしても、斜め45度下を見つめるその集団の見栄えは、かなり奇妙なものだった。

大人も子供みんなもやや俯向き加減で、広島駅をとぼとぼ歩いていた。

座り込んで、泣いてる人もいた。

 

私は憐れみの目を向けつつ、

そんなに落ち込まんでええやろ。負けたからって死ぬわけやないんやし……。

と突っ込みを入れていた。

 

翌日の夕方、また広島駅に行った。

帰りの新幹線に乗るためである。

友人も見送りに来てくれた。

 

やはり試合帰りのカープファンの群れに遭遇する。

おお、またか。もう見慣れた。

 

しかし、今日のカープ集団は昨日と違った。

みんな目線が水平なのである。

昨日の斜め45度下が水平になったのである。

笑ってる人もいた。泣いてる人は1人もいなかった。

 

私は友人とまた頷きあう。

「勝ったんやな」

ネットニュースを見ると、やはり勝っていた。

 

広島は、間違いなく、カープに恋をしていた。

恋人の言動に一喜一憂するように、試合の勝ち負けに感情を弄ばれていた。

恋をしている人は羨ましい。

傷ついたり喜んだり、大変そうだけど、その分、恋をしていない自分よりも濃い時間を過ごしている気がする。

 

私は、広島のカープ愛に引け目を感じていた。着いた途端、目に飛び込んできた赤色に飲み込まれそうだった。

でも2日間広島で過ごした今、私は広島の人たちが羨ましくて仕方がない。

私は、プロ野球はあんまり見ないし、特別応援する球団もない。

私も恋がしたい。夢中になりたい。

負けたからって、泣きじゃくって、勝ったからって笑い合いたい。

 

そんな私はすでに、広島に恋をしているのかもしれない。

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